「ESG」とは
「ESG」とは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)の3つの要素を重視した企業評価の考え方を指す。売り上げや利益などの財務情報だけでなく、環境保護や社会貢献、適切な企業統治の情報(非財務情報)を考慮することで、企業の持続可能性や長期的な成長性を評価する指標として活用されている。投資家による企業評価の新たな判断基準としても注目されている。●Environment(環境)
企業が環境負荷を低減し、持続可能な社会の実現に向けた取り組みを推進することが求められている。例えば、温室効果ガス排出量の削減、再生可能エネルギーの活用、廃棄物の適切な処理、生物の保全などだ。●Social(社会)
社会の分野では、人権保護やジェンダー平等の実現、多様性の尊重、ワークライフバランスの確保などが重視される。従業員の労働環境の整備や地域社会への貢献など、さまざまなステークホルダーとの関係構築が求められる。●Governance(ガバナンス)
法令遵守、情報開示の透明性確保、株主の権利保護、内部監査体制の整備など、企業の健全な経営を実現するための体制づくりと、それを維持・向上させる取り組みが求められている。「ESG」が注目された背景
「ESG」が注目されるようになったきっかけは、2006年に国連が提唱した「責任投資原則(PRI)」だ。従来のように短期的な利益を追求するだけでなく、環境や社会への配慮、適切な企業統治が企業のより良い経営であることを示す指標であるという認識が世界的に広まったことで、「ESG」の重要性が高まった。特に近年では、気候変動や社会的格差の拡大など、グローバルな課題への対応が企業に求められる中で、「ESG」の考え方が経営の重要な指針となっている。「ESG」と類似する言葉との違い
「ESG」に関連する言葉として、「SDGs」、「CSR」、「SRI」がある。それぞれの違いを見ていこう。●ESGとSDGsの違い
「SDGs」は2030年までに達成すべき持続可能な開発目標であり、「ESG」はその目標達成のための手段という関係性にある。つまり企業が「ESG」に取り組むことは、結果として「SDGs」の達成にも貢献することになる。●ESGとCSRの違い
CSRは企業の自発的な社会貢献活動を指すのに対し、「ESG」は投資判断や経営戦略に組み込まれる要素として位置づけられている。CSRは企業のボランティア的な活動という側面が強い。一方で「ESG」は企業価値の向上に直結する経営課題として認識されている。●ESGとSRIとの違い
「SRI(社会的責任投資)」は「ESG」の前身である概念で、従来の財務的情報だけでなく、社会的・倫理的な観点や社会的責任から投資先を選定する手法だ。「ESG」はさらに企業の持続可能性や長期的な収益性も含めた総合的な評価基準として発展している。「ESG投資」とは
「ESG投資」は、従来の財務情報だけでなく、環境・社会・ガバナンスの要素を考慮して投資判断を行う手法を指す。この投資手法は、企業を長期的な視点で分析し、継続性や成長性を踏まえ、社会的な課題解決に貢献しながら経済的なリターンも追求するものだ。上述の通り2006年の「責任投資原則(PRI)」が提唱されて以降、世界的に拡大し、現在では機関投資家を中心に主流の投資手法の一つとなっている。「ESG投資」の種類
「ESG投資」には以下の7つの主要な投資手法がある。それぞれ解説していく。●ネガティブ・スクリーニング
ネガティブ・スクリーニングとは、環境や社会に悪影響を及ぼす企業や業種を投資対象から除外する手法だ。例えば、タバコ、ギャンブル、ポルノ、アルコール、武器製造、原子力関連企業などが対象となる。この手法は1920年代にアメリカのキリスト教団体が始めた最古の投資手法とされ、現在でもESG投資の基本的な方法として広く採用されている。●ポジティブ・スクリーニング
「ESG」の観点で優れた取り組みを行っている企業を積極的に投資対象として選定する手法をポジティブ・スクリーニングと言う。再生可能エネルギーの利用やダイバーシティの促進に取り組む企業がその対象だ。ESG指数などの指標を用いて、各業界内で相対的に評価の高い企業を選別する「ベスト・イン・クラス」という手法もこれに含まれる。●国際規範スクリーニング
国際規範スクリーニングとは、国際労働機関(ILO)や国連グローバル・コンパクトなどの国際基準に基づいて投資先を選定する手法だ。一定の基準を満たさない企業を投資対象から除外し、国際的な規範や基準を遵守する企業に投資を行うものである。投資家は採用する基準を自らの判断で選択し、その基準に基づいて投資判断を行っていく。●ESGインテグレーション
ESGインテグレーションとは、従来の財務分析とESGに関する非財務情報を統合して投資判断を行う手法を指す。企業価値を総合的に評価することで、長期的なリスクとリターンの分析をしやすくなる。現在、最も一般的なESG投資手法の一つで、今後も主流となることが予想されている。●サステナビリティ・テーマ投資
環境や社会課題の解決に積極的に取り組み、持続可能な社会の実現に貢献する特定のテーマに焦点を当てた投資手法をサステナビリティ・テーマ投資と言う。一般的なテーマとしては、再生可能エネルギーや水資源管理、持続可能な農業などが挙がる。SDGsとの関連性が高く、近年注目を集めている。●インパクト/コミュニティ投資
インパクト投資は、財務的リターンと共に、社会・環境に良い影響(インパクト)を生み出している企業に注目する投資手法だ。コミュニティ投資は、地域社会の活性化を目的とする企業に積極的に投資する手法だ。いずれも地域の中小企業やスタートアップ、ベンチャー企業が対象となるケースが多い。●エンゲージメント・議決権行使型
株主として企業に対してESGへの取り組みを促す投資手法をエンゲージメント・議決権行使型と言う。株主総会での議決権行使や、経営陣との直接対話を通じて積極的に関与して、企業のESG経営を促進する。「物言う株主(アクティビスト)」の一種とも言える。「ESG投資」における国内外の動向
ここでは、国内外の「ESG投資」における動向を見ていきたい。●日本のESG投資の動向
日本のESG投資は、2015年の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)による責任投資原則(PRI)署名を契機に本格的に拡大した。現在はアジア太平洋地域では中国に次ぐ規模だが、経済規模に比べて投資額は依然として小さく、さらなる成長が期待されている。特に製造業やエネルギー分野でのグリーン投資が中心となっており、今後は多様な分野への展開が課題となっている。●海外のESG投資の動向
世界のESG投資においては欧州が世界のESG投資でトップを走り続けており、アジア太平洋地域では特に中国での成長が目立っている。ただ一方で、2021年まで著しい拡大が見られていた米国では、2022年度から下火となり、2025年のトランプ政権発足により、反ESG政策が推進される見通しとなっている。ESG投資は量から質重視の傾向へと変化しており、企業の持続可能性と長期的な価値創造がより重視されるようにもなってきているとされる。「ESG経営」とは
「ESG経営」とは、企業の経営戦略の中で、環境への負荷軽減や社会問題の解決、企業統治の透明化といった「環境」、「社会」、「ガバナンス」の3つの要素を重視し、企業の価値を高める経営手法を言う。単なる社会貢献ではなく、あくまで企業の競争力強化と成長戦略の重要な要素である。●企業が「ESG経営」を行うメリット
「ESG経営」を行うことで、以下のようなメリットがある。・環境配慮や社会貢献を通じて企業イメージが向上し、ブランド価値が高まる
・投資の対象となりやすく、安定的な資金調達が可能になる
・従業員の満足度向上やリスク管理の強化につながり、長期的な企業価値向上が見込める
「ESG」における企業の主な取り組み
企業の「ESG」への取り組みは多岐にわたる。以下で具体例を紹介する。●環境に優しい製品開発
環境負荷を低減するための取り組みとしては、省エネルギー製品の開発やリサイクル可能な材料の使用、環境に配慮した包装設計などが一般的だ。環境に優しい製品の開発は、環境保護に貢献するとともに、コスト削減や企業イメージ向上にもつながる。●職場環境づくり
従業員が働きやすい環境づくりも重要な取り組みだ。在宅勤務制度や週休3日制などの柔軟な働き方制度によるワークライフバランスの推進や健康経営、ダイバーシティ促進に向けた施策によって、従業員のエンゲージメント向上と生産性向上に寄与できる。●情報開示
ESGに関する取り組みや成果の情報を積極的に開示することで、企業の透明性を高め、ステークホルダーとの信頼関係を構築していける。一般的なものは、統合報告書やサステナビリティレポートの発行だ。●人材確保・育成
多様な人材の確保や育成をすることもESGへの取り組みと言える。例えば、グローバル人材育成のための海外派遣研修、DX人材の育成目標設定、女性活躍推進のための外部研修などを積極的に行うことで、多様な人材が活躍し、企業の持続的な成長につながるからだ。●ガバナンス体制の構築
ESG経営の推進においてガバナンス体制の構築は不可欠だ。取締役会を中心とした監督体制の確立や、リスク管理体制の強化をはじめ、コンプライアンスの徹底やステークホルダーとの対話などを行い、健全な企業経営を進めたい。「ESG」における課題・問題点
「ESG」には現時点で課題や問題点も存在する。主な3つが以下だ。●短期的には効果が見えづらい
「ESG」への取り組みは、短期的には効果が見えづらい特徴がある。環境保護や社会貢献の効果は長期的に現れることが多く、投資家や経営者の理解と忍耐が必要と言える。そのため、短期的な業績向上との両立が課題となっている。●大企業が中心である
現状では、「ESG」に積極的に取り組んでいるのは、大企業が中心だ。中小企業では、人材や資金の制約から十分な取り組みが難しいからだ。「ESG」の裾野を広げていくためには、中小企業でも実践可能なESG施策の開発や、支援体制の整備が必要と言えよう。特に、コスト面での負担軽減や、実務的なガイドラインの整備が求められている。●評価基準が明確でなく効果を測りづらい
「ESG」の評価は複数の調査企業が算出しているが、評価機関によってその基準が異なり、統一された指標が存在していない。そのため、共通点や違いを見出しにくく、企業の取り組みを比較することが難しい。今後、国際的に統一された評価基準の確立が課題となっている。「ESG経営」の企業事例
最後に、「ESG経営」の具体的な企業事例を紹介したい。●村田製作所
村田製作所は、温室効果ガス排出量の削減や再生可能エネルギー導入という具体的な環境目標を掲げ、実際に温室効果ガス排出量の削減で一定の効果を達成している。また、駐車場への両面パネル型ソーラーパネルの導入や、年間500~700件の省エネ施策を実施するなど、積極的に環境保全への取り組みを進めている。そうしたサステナビリティへの取り組みが評価され、国際的な評価機関「EcoVadis」により22年度から3年連続でゴールド評価を獲得した。●オムロン
オムロンは、長期ビジョン「Shaping the Future 2030」のもと、社会価値と経済価値の両立を目指している。環境面では、2050年までに温室効果ガス排出量ゼロを目標に掲げ、国内全76拠点のカーボンゼロ化を推進。またガバナンス面では、取締役会がサステナビリティの責任を負い、経営陣の報酬にESG評価を連動させることで実効性を高めているという。これらの取り組みは国際的にも高い外部評価を得ている。●富士フイルム
富士フイルムは、「Sustainable Value Plan 2030」を軸にESG経営を展開。環境面では、2030年度までに製品ライフサイクル全体でのCO2排出を50%削減(2019年度比)する目標を掲げ、取り組んでいる。また2024年度には資源循環方針を新たに策定し、新規資源投入量ゼロを目指すなど、サーキュラーエコノミー(資源の循環的・効率的な利用)への取り組みも強化している。まとめ
「ESG」は、企業の成長と社会の持続可能性を両立させるための重要な要素だ。単なるコンプライアンスや投資対策としてではなく、企業の競争力強化と信頼性向上の機会として捉えることが大切となる。人事担当者としては、ESGの理念をいかに社内に浸透させ、従業員一人ひとりに自分の業務とESGの関連性を意識させ、主体的に取り組んでもらうかをぜひ考えていただきたい。よくある質問
●ESG活動の具体例は?
企業における「ESG」に考慮した取り組みとしては、環境に優しい製品開発、従業員が働きやすい環境づくり、多様な人材の確保や育成などがある。その他、ペーパーレス化や、再生可能エネルギーの活用などが挙げられる。●「ESG」とサステナビリティの違いは?
「ESG」は環境、社会、ガバナンスの3つの観点に配慮することで、企業の長期的な成長を目指したり、社会的責任を果たしたりする考え方だ。一方でサステナビリティは、環境、社会、経済の三つの柱によって、持続可能な発展を目指す、より広範囲な概念である。- 1