連載「人事大解剖~他社の人事のリアルを知る~」は、リレーインタビュー形式で、業務において大事にしている考えや日常の悩み、気になっているHRのキーワードなどを紐解きながら、人事のリアルに迫っていく。正解がないと言われる時代だからこそ、多くの人事の視点や考えを通じて、業務や課題解決のヒントをお届けする。人事リレーの輪7人目はエーザイ株式会社で人事責任者を務める、執行役 チーフHRオフィサー(CHRO) 真坂 晃之氏が登場。同社は認知症やがん治療を強みとする新薬メーカーとして、患者様と生活者の皆様の喜怒哀楽を第一義に考え、そのベネフィット向上に貢献することを目指し事業を展開している。本記事では、人事面からエーザイの変革・挑戦の文化、風土づくりを先導する真坂氏が語る人事として大事にしている考え方や最近の悩みのほか、オススメの人事関連書籍などをお届けする。
現状維持は衰退の始まり、だからこそ人事から社員に変化を見せていく――エーザイ 真坂 晃之氏【人事リレーの輪7人目】

Q1:これまでのキャリアは?

【人事リレーの輪7人目】
エーザイ株式会社 執行役 チーフHRオフィサー(CHRO) 真坂 晃之氏



エーザイ一筋のキャリアで、2001年に新卒で入社しました。最初の職種はMRでした。開業医や大学病院を担当し、3年半ほど経験を積みました。そこから会社からの辞令で、人事に異動して、約5年、組織改編や人事異動、評価や昇格といった人事制度システムの運用に携わっていました。これらが私の20代のキャリアです。

30代に入ってからは、一度留学のチャンスを会社からいただき、オランダに1年ほど滞在。30代はアジアに行く機会も多く、海外の仕事が中心でした。CEOの秘書も、30代中盤辺りで経験しています。その後は、営業部隊のナンバーツーという役割で中国に駐在を経て、今のCOOである内藤景介と一緒にデジタル関連の新規事業に携わりました。

本当に色々と経験させてもらい、CHROになる前には経営企画の責任者もやっていました。この経験が、2022年にCHROになってからも本当に役立っています。つまり、数字でしっかり会社の動きを見る素地ができたと。研究開発や生産、営業、人事を含めた管理系の方々と人の話だけでなく、事業やビジネス、数字をもとにした対話やコミュニケーションができたのは私の大きな財産となりました。経営企画を担当するまで、会社のことを分かってきたつもりでいたのですが、実はよくわかっていなかったと。経営企画の経験によって、自社のビジネスを深く理解した状態で人事の業務に臨めていますね。

Q2:今の人事としての役割・ミッションは?

今、自分の中で一番やらなければいけないのは「人的資本経営」だと思っています。パーパスや企業理念のようなコーポレートとしての大きな目標を、効率よく実現していくために、人事としてどう支援、推進していくか。会社の戦略と人事の戦略をできるだけ同じ方向に向かわせて、社員のエンゲージメントを高く持っていけるか。これらが、私の大きな役割、ミッションだと思っています。

Q3:今抱えている主な人事課題は?

当社の「Human Capital Report」でも対外的に発信しているのですが、主な人事課題は4つあります。

1つ目は「グローバル人事体制の強化」です。人事領域に関しては、各リージョンの人事がそれぞれやっているので、部分最適の要素が強いと思っています。グローバルで統一したほうが良い施策はいくつもあって、それを推進していかなければなりません。

2つ目は、「イノベーションを創出する環境」になります。これは創薬のイノベーションだけに限りません。イノベーションは色々なところに発生すると思いますし、人事の中にもイノベーションの種は落ちているはずです。今、イノベーションに関連するエンゲージメントのスコアが少しだけ落ちています。なので、人事から働き方や個人の成長のほか、組織開発といった複合的な取り組みを進めることによって、イノベーションを創出する環境というのは作ることができるのではないかと考えています。

3つ目は「DE&I(ダイバーシティ, エクイティ&インクルージョン)のカルチャー浸透」です。ここは少しずつ改善してきていますが、まだまだ企業の文化や風土として根付くまで、やり続けなければなりません。

最後は、「会社と社員の情報の非対称性」ですね。絶対起こってしまうことではあるのですが、会社が発信する情報と社員が受ける情報のギャップをできるだけ少なくしていきたいと思っています。例えば、会社が社員のみなさんに「こういった施策を打ち出します、始めます」って言った時に、その背景や導入意図などは、人事から発信しているのですが、まだまだ不十分ですし、もっと丁寧に色々な方法で伝えていかなければなりません。社員のみなさんが、施策の背景をしっかりと理解したうえで受け入れることは、エンゲージメントにも関係します。エンゲージメントの高さは、イノベーション、企業価値向上につながっていきますので非常に重要な課題です。

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