企業が「人権を尊重した経営」に取り組む場合、初めに実施すべきことは「人権方針を策定し、公表すること」とされている。ところで、「人権方針」とは具体的にはどのような内容であるべきだろうか。策定・公表をする上での留意点は何か。今回はこの点を整理してみよう。
「人権方針」はどのように作るのか(第2回)

人権方針に盛り込みたい6項目

企業が「人権を尊重した経営」に取り組む場合、国連人権理事会の策定した『ビジネスと人権に関する指導原則』(通称:国連指導原則)では、次の事項を実施すべきことが説明されている。

(1)人権方針の策定・公表
… 人権尊重の責任を果たすことを示した企業方針を策定し、企業の内外に表明する。
(2)人権デュー・ディリジェンスの実施
… 自社に関わる「人権へのマイナスの影響」を特定の上で防止・軽減し、それらの取り組みの実効性を評価して情報公開を行う。
(3)救済の実行
…「人権へのマイナスの影響」を被る者の救済を行う。

人権方針の具体的な内容は企業によって一律ではないが、例えば以下のような項目を盛り込むことが考えられる。

1.自社にとっての位置付け
2.適用範囲
3.利害関係者への期待
4.国際基準の尊重
5.重点課題
6.実践方法

順を追って見ていこう。

1番目の「自社にとっての位置付け」では、人権方針が自社にとってどのような文書であるのかを明確に記載することが必要である。人権方針は経営理念と密接に関わる内容とすべきもののため、両者の一貫性を意識しながら位置付けを示すことがポイントとなる。明文化した経営理念を持たない企業の場合には、この機会に「自社の存在意義」や「自社が大切にしている価値観」を振り返り、その上で人権方針の策定に臨むとよいだろう。

2番目の「適用範囲」では、自社の人権方針の対象となる範囲を定義する。このときに重要なことは、通常の社内規程とは異なり、自社だけを適用範囲としないことである。自社の社員はもとより直接・間接に取引のある企業の従業員、地域住民、一般消費者など、自社ビジネスのあらゆる過程に関わる全ての利害関係者を人権方針の適用範囲とする必要がある。

3番目の「利害関係者への期待」では、人権尊重に関して利害関係者に期待する点に言及する。人権尊重責任を果たすべく策定した自社の方針を利害関係者が理解し、支持してほしい旨の期待などを記載するとよい。

4番目の「国際基準の尊重」では、国際的に認められた人権を尊重する旨を表明することになる。例えば、『国際人権章典』『国連指導原則』などの国際規範を支持・尊重する点を明示する。また、わが国の法令を遵守することはもとより、国際的に認められた人権がわが国の法令で適切に保護されていないと考えられるケースに対しては、可能な限り国際的に認められた人権を最大限に尊重する方針を示す必要がある。

5番目の「重点課題」では、自社が影響を与える可能性のある人権のうち、より深刻な侵害が生じ得る権利に対する取り組みを重点課題として明示する。また、社会経済情勢の変化を踏まえ、重点課題を継続的に見直す必要性についても示すとよい。

最後の「実践方法」では、人権方針の具体的な実現手段を記載する。例えば、人権デュー・ディリジェンスの実施、利害関係者との対話や協議、人権方針の実施体制・管理体制の構築、社内教育の実施などについて示すことになる。

人権方針はトップマネジメントの承認が必須

人権方針の策定には現状の正確な把握が不可欠である。そのため、一部の関係者だけで策定しては、的確な方針になり得ない。策定の際は社内の関係各部門の知見を結集するとともに、外部の利害関係者とも対話や協議を通じて情報を収集することが必要となる。

また、策定した人権方針は経営層による承認を得ることが必須である。取締役会、トップマネジメントが参加するその他の会議体などで承認を得ることを忘れないようにしたい。

このようにして策定・承認された人権方針は、従業員はもちろん、取引先などの外部利害関係者へも周知することが必要である。ホームページなどにも掲載をし、広く一般に知らしめることも忘れてはならない。

なお、人権方針を策定・公表するだけで「人権尊重経営」が実現するわけではない。人権方針を企業全体に浸透させ、経営活動の中で具現化することが必要である。人権方針の策定・公表は「人権尊重経営」の “ゴール” ではなく、あくまで “スタート” であることを肝に銘じたい。

十分な経営リソースを保有しない中・小規模企業の場合、人権方針の策定・公表は負担の大きい作業と思えるかもしれない。しかしながら、「人権尊重経営」は経営基盤の強化に繋がるまたとない貴重な取り組みである。企業の「人権」に対する姿勢が社会的注目を浴びがちな昨今だが、このような経営環境の変化を “前向き” に捉えて取り組みたいものである。
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