身内が亡くなった従業員のための休暇を「忌引き休暇」という。どういったケースが対象となり、何日休みを与えるべきか。制度のあり方や一般的な考え方を、人事担当者であれば必ず知っておきたい。そこで本稿では、「忌引き休暇」の意味、対象となる親族の範囲と日数、給料の有無を解説しつつ、従業員に伝えたい注意点やマナーまで詳しく解説していく。また、取得の際のメールと、その返信メールの例文も紹介しているので、ぜひ参考にしてほしい。
「忌引き休暇」とは? 日数の目安や対象範囲・給料の有無について解説【メール例文も紹介】

「忌引き休暇」とは?

●そもそも「忌引き」の意味とは

「忌引き」とは、親族や近親者が亡くなった際に社会活動を慎んで喪に服す期間のことである。喪に服すことを「忌服」あるいは「服喪」と言い、この慣習は、遺族が故人との別れを受け入れ、心を整理したり悲しみを癒したりするための重要な時間となる。仏教においては、故人が亡くなってから四十九日までを「忌中」、一周忌までの期間を「喪中」と言い、この期間は慶事を控えるなど、故人への敬意を表す習慣がある。ただし「忌引き」の期間については法律で定められているわけではなく、家庭や地域、会社によって規定が異なる。

●「忌引き休暇」とは

「忌引き休暇」とは、親族や近親者が亡くなったことに際して、通夜や葬儀の準備・参列、諸手続きのために取得する休暇制度である。「服喪休暇」、「慶弔休暇」など、企業によって呼称は異なる場合がある。労働基準法などの法律上の規定はなく、企業が独自に定める福利厚生制度の一つとして位置づけられている。また、期間や取得の手続きも企業によって異なる。

なお近年では、事実婚や養子縁組など、多様な家族形態に対応した制度設計も求められている。

●公休・有給との違い

公休は、会社が定めた休日で、土曜・日曜が一般的であり、通常は無給だ。また有給休暇は労働基準法で定められた法定休暇である。これに対し、「忌引き休暇」は法定外休暇である。そのため、制度の詳細は企業ごとの裁量に委ねられている。また、有給休暇は使用目的を問わないが、忌引き休暇は親族や近親者が亡くなった場合という特定の事由に限定される。

「忌引き休暇」の対象となる親族の範囲

一般的には3親等までの親族が対象となる。具体的には、配偶者、父母、子、義理の父母、祖父母、兄弟姉妹、伯父(叔父)・伯母(叔母)、甥・姪などが該当する。ただし、企業によって規定は異なる。また、同僚や取引先など、会社関係者が亡くなった場合にも「忌引き休暇」を認める企業もある。さらに近年では、配偶者の兄弟姉妹や、内縁関係にある者の親族なども対象に含める企業も増えている。
続柄と親等の一覧表

「忌引き休暇」の一般的な日数

「忌引き休暇」の日数は故人との続柄によって異なるケースが多く、以下が一般的な目安となる。ただし、遠方での葬儀参列や、喪主を務める場合などは、追加で休暇を付与する企業も多い。また、国際化に伴い、海外在住の親族の死亡に際しては、移動時間を考慮した日数設定を行う企業も増えている。

親等 続柄 休暇日数の目安
0親等 配偶者 7~10日
1親等 父母 5~7日
1親等 5日
1親等 義理の父母 3~5日
2親等 祖父母 3~5日
2親等 兄・姉・弟・妹 3~5日
2親等 義理の祖父母 1日
2親等 1日
3親等 曾祖父母 1日
3親等 伯父(叔父)、叔母(叔母) 1日
3親等 甥・姪 1日

●土日祝日・公休と重なる場合

公休日や土日祝日と「忌引き休暇」が重なる場合、①土日祝日も忌引き休暇の期間に含める、②公休日を除いた日数を休暇として数える、のいずれかとなる。一般的には、①土日祝日も忌引き休暇の期間に含めるケースが多い。また、葬儀が休日に行われる場合の振替休日の取り扱いについても、明確な規定が必要となる。

●「忌引き休暇」のカウントはいつから?

一般的に、故人が亡くなった当日または翌日から起算される。ただし、具体的な起算日は企業の規定による。中には、亡くなった事実を知った日から起算する企業や、葬儀の日を含む前後の期間で設定する企業もある。

「忌引き休暇」の給料の有無

「忌引き休暇」中の給与の取り扱いは企業の裁量による。有給とする企業、無給とする企業、通常の有給休暇の使用を認める企業など、対応は様々である。雇用形態によっても待遇が異なる場合もあるため、就業規則での明確な規定が必要となる。また、基本給のみ支給する企業や、諸手当の扱いを区別する企業もある。一般的には、以下のようなケースが挙がる。

(1)年次有給休暇とは別の特別休暇を設定。通常出勤として扱い、給与を支払う。
(2)通常出勤として扱うが、給与の支払いはなし。
(3)欠勤日として扱い、無給となる。あるいは年次有給休暇の充当を推奨する。

従業員に伝えたい「忌引き休暇」の注意点とマナー

「忌引き休暇」の制度を設定後、突然の不幸に際し、従業員が適切に対応できるよう、以下の点を周知しておく必要がある。また、緊急時に備えて、社内ポータルサイトやマニュアルに明記しておくことも推奨したい。

●就業規則の確認

取得可能日数や対象となる親族の範囲、必要書類などを事前に確認するよう促す。特に、遠方での葬儀参列や喪主を務める場合など、通常と異なる対応が必要な際の規定についても、確認を怠らないよう注意を促すことが重要である。

●必要書類の準備

死亡診断書や火葬許可証のコピー、会葬礼状、葬儀施行証明書などが必要となる場合がある。ただし、緊急時には後日の提出を認めるなど、柔軟な対応も検討したい。また、提出書類の保管方法や個人情報の取り扱いにも十分な配慮が必要である。

●早めの連絡・申請

まずは口頭や電話で上司に報告し、その後メールで詳細を連絡するなど、フローに迷わないよう指導する。連絡する内容には、故人との関係、死亡日時、葬儀日程、休暇予定期間、緊急連絡先などを含める。また、業務の引き継ぎに関する情報も併せて伝えることが望ましい。

●業務の引き継ぎ

不在中の業務について、同僚への引き継ぎを適切に行うよう促す。特に重要な案件や締め切りのある業務については、具体的な対応方法や注意点を明確に伝える。また、取引先への連絡が必要な場合は、その対応も漏れなく依頼する。

●休暇明けの挨拶

職場復帰時には上司や同僚への挨拶を忘れないよう伝える。その際、支援してくれた同僚への感謝の意を示すとともに、引き継いだ業務の状況確認も行う。また、必要に応じて業務のフォローアップについても相談する。

●香典返し

会社からの香典に対する返礼が必要か否か、また必要である場合は休暇明けのタイミングで行うよう案内する。また、個人的に香典をくれた同僚への対応についても、会社の慣習に従って適切に行うよう伝える。なお、返礼の時期や方法について不安がある場合は、上司や人事部門に相談するよう促す。

「忌引き休暇」に関する連絡メール例文(取得、返信の双方)

「忌引き休暇」に関して、取得を申請するケースと、それに返信するケースの2つの視点でのメール例文を紹介する。

●「忌引き休暇」を取得するケース

従業員が「忌引き休暇」を取得する際のメール例文は以下。

【件名】忌引き休暇申請について
【本文】
○○部 ○○様

お疲れ様です。

昨日〇月〇日、実父が急逝いたしました。

つきましては、下記の通り忌引き休暇を申請させていただきたく存じます。

休暇期間:○月○日~○月○日
故人との関係:父
葬儀日程:○月○日 午前10時より
葬儀場所:○○斎場
連絡先:090-xxxx-xxxx

現在担当している案件については、○○さんに引き継ぎを依頼済みです。
緊急の対応が必要な場合は、上記連絡先までご連絡ください。
ご迷惑をおかけいたしますが、よろしくお願い申し上げます。

葬儀日程や告別式の日程が決まっていない場合は「葬儀および告別式に関しましては、詳細が決まり次第改めてご連絡いたします」とひと言入れると良い。

●「忌引き休暇」取得のメールに返信するケース

人事担当者あるいは上司が、従業員の「忌引き休暇」取得のメールに返信する際の例文は以下。

【件名】Re: 忌引き休暇申請について
【本文】
○○部 ○○様

お父様のご逝去の件、謹んでお悔やみ申し上げます。

ご申請いただいた忌引き休暇(○月○日~○月○日)について
承認いたしましたので、ご連絡申し上げます。

業務の引き継ぎについても承知いたしました。
ご家族との大切な時間をお過ごしください。

なお、必要書類等につきましては、
出社後に改めてご案内させていただきます。

ご不明な点がございましたら、お気軽にご連絡ください。

「度々」、「時々」「またまた」といった同じ語を2回繰り返す「忌み言葉」の使用は避ける。また、「繰り返し」、「重ねて」、「相次いで」などの遺族の方の悲しみを増長させる言葉の使用も厳禁である。さらに、宗教によって避けたほうが良い言葉もあるため注意を要する。

まとめ

「忌引き休暇」は、突然必要になるケースが多い。人事担当者は、制度の詳細を従業員に周知し、いざという時に混乱なく利用できるよう、日頃からの情報提供をしておかなければならない。従業員に寄り添った制度運用を心がけることで、企業への信頼感も高まるだろう。さらに、国際化や多様化する家族形態や働き方に対応した柔軟な制度の見直しも図っていく必要がある。
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