今回は、株式会社公文教育研究会 海外統括室 室長の大輪晋吾氏と、マーサージャパン株式会社 グローバルモビリティプラクティスリーダーの内村幸司氏による対談を実施。グローバル共通異動ポリシー策定プロジェクトの実際と、国と国とをまたぐ人の動きにおける課題について語っていただいた(以下敬称略)。
【対談者プロフィール】
■大輪 晋吾氏
大学院を卒業後、大学などでの数年の講師経験を経て、2001年に公文教育研究会に入社。フランチャイズ教室を運営する公文式指導者のサポート業務からキャリアをスタートさせる。所沢・西宮で経験を積んだ後、本社の広告部門にて、チラシやポスターの制作に従事。その後、海外勤務を希望していたことから、各国の人事担当者との仕事を行うグループ人事室に異動し、約2年間人事業務を経験する。2009年からはタイ公文本社に幹部として赴任し、フランチャイズ教室の発展サポート・教室ネットワークの整備に尽力。オーストラリア、北米を合わせて約10年間の海外赴任を経て、本社に戻り、海外統括室の室長に就任。現在は日本にいながら海外のサポートに日々奮闘している。
株式会社公文教育研究会
海外統括室 室長
■内村 幸司氏
大学卒業後、日系大手精密機器メーカー(香港・広州駐在を含む)を経てマーサージャパンに入社。マーサーにて組織・人事変革コンサルティング部門(中国・上海駐在での日系企業支援チーム代表を含む)を経験。現在は国籍・派遣元を問わず人材の最適活用・育成を目指す「グローバルモビリティ」に主眼を置き、海外派遣に関するグローバルポリシーの策定、報酬・福利厚生制度共通プラットフォームの設計・導入・運用支援他、グローバル人材マネジメントに関する幅広いプロジェクトを数多くリード。
マーサージャパン株式会社
グローバルモビリティプラクティスリーダー

グローバル共通異動ポリシーの必要性・柔軟なプロジェクトの進め方
内村 公文教育研究会様では、2021年から2022年にかけてグローバル共通異動ポリシー(IAP)の策定を進められ、そのプロジェクトを我々マーサージャパンが支援させていただきました。IAP策定へと至った経緯などをあらためてお聞かせいただけますか。大輪 当時、日本から海外に赴任している社員は30名強いました。一方で、北米からヨーロッパ、南米へ赴任するケース、海外から日本に赴任するケースなどが発生し、グローバルモビリティのパターンが多様化しはじめていました。
とりわけ大きなポイントとなったのはドバイでの事業展開です。ドバイは住人の9割ほどが移民で占められ、しかもその8割がインド系でした。当初は日本から社員を送るプランだったのですが、ドバイ特有の背景を鑑みて、インド法人の社員をドバイに派遣するという新しい取り組みに挑戦することになりました。
このような人材異動のパターンを従来の処遇規程ですべてカバーすることは不可能でした。かといって二国間で個別協議し、ケースバイケースで対応することは、協議のために費やす負担も大きく、社員に対する説明が難しいという認識をもっており、グローバルに適用できる異動時の処遇制度の整備が不可欠であると考えました。

大輪 もともと各国の生計費データを御社から購入していたということがきっかけです。また、弊社の海外現地法人も、それぞれ現地のマーサーからの各種人事データを参照しているということもあってマーサーに依頼しました。日本の本社と各現地法人においても御社への信頼感があったことも理由の一つです。
何より、依頼に向けてコンタクトした時、弊社からお伝えした予算とスケジュールに対して「では、こういう方法で進めるのはどうでしょう?」と提案してくださったのが御社でした。率直にいって厳しい予算だったはずです。ただ、弊社の状況を理解いただき、なんとか弊社が目指すものにたどり着ける道筋と進め方を提案していただけたことが依頼に至った最大の決め手でした。
内村 公文教育研究会様とのIAP策定において取り組んだスタイルを、我々は“交換日記方式”と呼んでいました。何度もミーティングを重ね、項目ごとに詳細な説明を行い、クライアントの課題やご意向の詳細を聞き取りながら制度案を検討していくと時間もコストもかかります(もちろんこの進め方が効果的な場合もあります)。
一方で、今回はこちらからグローバルプラクティスに沿った規程案をたたき台として提案し、それに対して御社のご意見を伺うという方法で進めました。このやり取りを何回も行うため“交換日記方式”と呼んでいました。御社が自律的に意思決定しなければならない部分は多くなるものの、検討ポイントを絞り込んだうえで効率的にディスカッションを進めることができるというメリットがありました。
御社の場合、意思決定や新たな論点の整理がスピーディかつ明確で、ミーティングの回数を半分くらいに縮めることができました。このように、ご予算やスケジュールに合わせてプロジェクトの進め方も含め柔軟に対応させていただくことが我々の特徴かもしれません。
大輪 御社のプロジェクトの進め方は、我々としてもやりやすいスタイルでした。私自身、約10年の海外赴任経験がありますし、このプロジェクトには他の赴任経験のある社員にも参加してもらいました。「この項目は削っていい」、「これはグローバルプラクティスで主流なので残そう」など、社内での判断や論点整理をスムーズに進められたと思います。ミーティングも定期的に設定していただいたので、テンポよく制度案を検討していくことができました。
内村 さまざまな企業の事業スタイルや事情を熟知しているのが我々の強みです。だからこそ御社の課題を想像し、予見することができました。「こういう問題はありませんか?」、「この点をクリアにしておいてください」と質問やリクエストを投げかけることができたことも効率よくプロジェクトを進められた理由だと思います。
「誰のための、何のための支援なのか」が意思決定には大切だった
内村 具体的な検討項目の中で印象に残っているのが、派遣者の「配偶者に対する支援」です。もともとは就学年齢に満たない子女を帯同する際、配偶者の負担を軽減できないか、というご要望から始まりましたね。
内村 ただし育児だけに焦点をあてると、お子さまのいない家庭に対してアンフェアな制度になります。そこで我々は『配偶者支援』の名目で一時金を付与し、その使途は問わないという方法を提案させていただきました。
協力:マーサージャパン株式会社
この後、下記のトピックが続きます。
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●グローバルな人事規程において大切にした『公文らしさ』
●人事獲得にとどまらない、国際間異動の真の価値とは
●社員が持つキャリア意識変化に対応する人事の役割
●浮かび上がった新たな課題とグローバル共通異動ポリシー(IAP)の進化
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