「家族の介護」を退職理由とする中堅社員
中堅社員やミドル社員が退職をする場合、よくある退職理由のひとつが「家族の介護のため」であろう。中堅社員・ミドル社員は、親の介護が現実の問題となりやすい年齢であるケースが多い。家族を介護する社員に対して会社側が特別な制度を設けていたとしても、退職の意向が強い場合には引き留めることは簡単ではない。
また、退職を希望する中堅・ミドル社員が女性社員の場合には、「夫が転勤になったため」という理由で退職を希望するケースも見られる。
このような場合にも、女性社員に退職を思いとどまらせることは困難である。その結果、会社側としては中堅・ミドル社員の退職希望を受け入れざるを得ないという事態になりやすいものだ。
もちろん、これらが本当の退職理由とは限らないので、十分なヒアリングを行わなければならない。
本当の退職理由が「不正行為に耐えられない」というケースも
退職を希望する中堅社員・ミドル社員のヒアリングの際、ぜひ確認をしたい事項のひとつに「職場で不正行為や不適切な行為を見聞きすることはなかったか」という点がある。中堅・ミドル社員の本当の退職理由には、「職場の不正行為・不適切な行為に耐えられないため」というケースがあるからだ。一般的に、中堅社員やミドル社員は所属部署の運営で、中心的役割を担っているケースが多い。そのため、業務上の不正行為や不適切な行為を認識できる機会が少なくないものである。
具体例で考えてみよう。とある企業の営業課長を務めるA氏は、取引先に提出する報告書を作成していた。この報告書には1ヵ月間の業務実績の数値を入れるのだが、今月は実績が芳しくなく目標数値に届いていない。A氏は実際の数値を記載して、上席者である部長に確認を求めることにした。
すると、部長から「目標に届いていない実績数値を記載しては、契約を打ち切られかねない。目標を達成したように見えるよう、数値を変えるように」との指示を受けた。業務実績数値の改ざんを指示されたわけである。
A氏が「数値の改ざんはすべきでない」と主張しても、「契約が打ち切られたら、お前はどう責任を取るんだ! いいから言われたとおりに報告書を作れ!」と叱責され、仕方なく虚偽の数値を記載した報告書を作成した。その後しばらくして、A氏は家族の介護を理由に退職している。
A氏の本当の退職理由は「部長からの不正行為の指示に耐えられない」というものだが、A氏は「本当の退職理由を言うと、残された営業部の皆に迷惑が掛かるかもしれない」と考え、当たり障りのない理由を告げて職場を去ることにしたのである。
以上のようなケースで、「家族の介護」という退職理由を真に受けて「上席者からの不正指示」という退職の根本的な原因を放置していては、同様の退職事例は後を絶たないだろう。そのような事態を避けるため、中堅社員・ミドル社員の退職時のヒアリングでは「職場で不正行為や不適切な行為を見聞きすることはなかったか」をぜひ、確認したいものである。
会社に失望すると優秀な社員から退職する
退職を希望する中堅社員・ミドル社員のヒアリングの際には、「会社に何か言いたいことはないか」、「今後の会社に望むことは何か」などもぜひ確認をしたい事項である。中堅・ミドル社員の本当の退職理由には、「会社に失望したため」というケースもあるからだ。昨今、大規模不祥事を起こした大手芸能事務所の所属タレントについて、「CMでの起用を継続する企業」と「打ち切る企業」とに経営判断が分かれているようである。
中堅・ミドル社員が「大規模な不祥事を起こした企業とは取引すべきでないのだから、同社所属のタレントもCM起用は継続すべきでない」と考えた場合、起用継続を決定した企業側の経営判断には大きく失望するだろう。「私が長年勤めてきた会社は、こんな組織なのか」などの強いマイナス感情を抱いても不思議ではない。その結果、「もうココにはいたくない」と考え、退職を決意する可能性もある。
若年社員であれば「CMを打ち切ったらタレントがかわいそう」との思いを持つこともあるだろう。しかしながら、相応のビジネス経験を有する中堅・ミドル社員の場合には、企業の社会的存在意義を踏まえ「CMでの起用の継続は、企業倫理にもとる行為である」などの判断も行うことがあるものである。
このようなケースで注意をしなければならないのは、「会社に失望すると、優秀な社員から退職をする」という事実である。企業の次代を担うであろう優秀な社員ほど非倫理的行動に敏感であり、退職の意思決定も早いものだ。そのような人材はどんな企業に移っても高いパフォーマンスを発揮できるため、転職活動もスムーズに進みやすい。結果的に、企業内には非倫理的行動に鈍感で、外の世界では通用しないような人材ばかりが残りがちである。
このような状況に陥ることを回避するには、中堅・ミドル社員の退職時のヒアリングで「会社に何か言いたいことはないか」、「今後の会社に望むことは何か」などを確認し、企業改革の一助としたいものである。
第4回の次回は、高齢社員・シニア社員が退職を申し出てきた場合の退職者のケアについて考えてみよう。
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