中高年社員の「キャリア形成」を考えるシリーズ連載「人生100年時代を見据えた、中高年社員のキャリア形成」も2回目を迎えました。中高年社員のキャリア形成を進めていく上での必須事項であり、かつ最も難しいことはなんでしょうか。それは、社員自身が興味を持ち、やる気になることです。そのためには社員個人の問題として委ねるのではなく、企業側も中高年社員のキャリア形成を自分事と捉え、導線をつくることが求められます。そして、社外戦力を活用すること、中高年社員に行動を起こさせるきっかけを準備することも同様に重要です。シリーズ連載の2回目は、中高年社員のキャリア育成に欠かせない「やる気」を引き出す手法を取り上げます。

人生100年時代を見据えた、中高年社員のキャリア

中高年社員のキャリア形成に必要な意識変革には会社が関与すべき

中高年社員が自らのキャリア形成に取り組むうえで最も重要なことは、本人自身が心から切迫感を持って取り組もうとすること、すなわち本人が「やる気になる」ことです。

しかし、やる気を引き出すのは本当に難しいことです。長年、会社を信じ、「全てを犠牲にして会社のことを最優先に」という時代を生きてきた中高年社員は、「会社に依存していれば何とかなる」と、過去の数々の経済危機やグローバル競争下での雇用不安のなかでも会社にしがみついて雇用され続けてきています。それを確固たる「成功体験」として、「人生100年時代」といわれる現代においても、「定年になったら、考えればいいのでは? よく分からないけど、年金も出るだろうし……」と考える人が多いでしょう。

口では「自分は今の会社を辞めても、他社でやっていけるスキルなんてないし……」と言っていても、実際に定年退職後に、どれくらいの収入が見込めて、支出はどれくらいで、不足分についてはどのように補うか……といった具体的なシミュレーションまではできていないかもしれません。

「2:6:2の法則」と言われるように、中高年社員の2割は既に意識が高く、同じく2割は意志が揺らがないとすると、中間の6割の人たちの意識を変えられれば、社内の雰囲気も変わってくるのだと思います。

成功体験の意識が根強く、自発的なことだけでは動かないこの6割の層(マジョリティ)を動かすためには、会社側からの働きかけが不可欠です。裏を返すと、会社側からの働きかけ以外に、自律性が乏しい中高年社員を動かすものはないのです。それでは会社はどのようにして、ただでさえ難しい中高年社員への働きかけを行い、キャリア形成に意識を持ってもらい、活性化していけばよいのでしょうか?

意外に思われるかもしれませんが、これには「会社自体の意識が変わること」が必要です。

中高年社員のキャリア形成の活性化には、社外戦力の活用が有効

まずは、企業で近年多く実施されている、中高年社員向けの「キャリア形成セミナー」の場面を想像してみてください。こうしたセミナーは、バブル崩壊以降、そして近年の「ウエルビーイング」や「SDGs」などの標語のもとでも、大企業であれば年中行事として行われてきたのではないでしょうか。

社外のセミナー会社が講師となり、社会状況、産業動向の変化に言及し、「そろそろ皆さんも定年退職後、引退後を考えましょう」といった話がある。そして、セミナー会社によってはキャリア形成についての説明が続く。多くはこういった形でしょう。

中高年社員の側は、「会社はリストラや、希望退職を望んでいるのか?」と嗅覚センサーを満開にします。一方で企業側(HRセクション)は、「リストラや希望退職なんて思われるとイヤだから」という理由でほとんど何も言わず、「社員の福利厚生上、そんなセミナーもやりました」というアリバイをこしらえる、という姿勢です。

しかし、そのような背景であっては、セミナー実施の効果はあまり望めません。大事なことは、社内のキーパーソンが、会社の明確な意思として「(中高年社員の)皆さんのこれまでの会社への貢献に感謝しつつも、今後も戦力として期待していて、戦力として働いてもらえるように(肩書や権限ではなく)キャリア形成に会社が全面的にサポートしていく」ということを真摯に伝えることなのです。

これまで企業では、研修費、その他自己啓発、人財育成費は若手社員に重点配分されていました。しかし現代の若手社員は既に会社に縛られない生き方が身についており、ある程度放っておいても育っていく面があるわけです。

今後は、中高年社員としてこれまで以上に会社に貢献してもらわなければならないのですから、それなりにコストもかける必要があると会社自体が「認識」することです。

社外戦力の活用にしても、「言いにくいことを社外の人に言ってもらう」「内部コストをあまりかけたくない世代だから、安価に社外戦力を使おう」ということではなく、

(1)中高年社員自身が自らの問題として主体的に考えなければいけない(このままでは「ヤバい」)という現実の提示
(2)中高年以降でも成長できるのだというロールモデルの提示、そしてその方法の説明(「あなたでも出来る」というイメージの提示)

に有効だから、いうことになるでしょう。

(1)も(2)も、社内にきちんと説明できる人がおらず、ロールモデルもないのであれば、社外に求めるのが妥当です。加えて、社内だけだと本音でのカウンセリングも難しいでしょうから、「人生100年時代」の本質的な説明、FPによる将来のキャッシュイン・アウトの説明、カウンセリングなども社外戦力の活用が有効でしょう。

社外戦力の強みは、中高年社員に一歩踏み出させる説得力

上記の中高年社員の活性化には、会社が本気になり、それを中高年社員に伝えることが重要と書きました。もちろん、経験が長く、ある程度の分別があったり、既に何を言っても頑なに動かなかったりと、各種各様の人たちなので、物事はそう簡単ではありません。

しかし、私自身、中高年以降に自分でキャリアを切り拓いてくることができた理由は、端的に言って「行動し続けてきたこと」に尽きます。転職を繰り返すなかで、新しい職場でやっていけるように勉強し、行動しては失敗し、思い直して行動を改めて前に進んできました。そのように、違う人種、違う企業DNA、違う場の雰囲気の中で、ひたすら自分を磨き続けなければ生き残ってこられなかったという面があります。
実際のところ、正直最初のうちは色々恐いのですが、行動しては成長し……ということを続けていけば、何となく「どんな職場でも、頭をフルに動かし、懸命にやれば成果は挙げられるものだ」という自信のようなものが知らず知らずのうちに出来ている感覚があったのです。

中高年社員に心から自らのキャリア形成に目を向けさせ、業務への向き合い方を考えてもらうには、とにかく「行動」を彼らに起こしてもらい、これまでの社内でのそれなりにコンフォタブルな(居心地が良い)感覚とは違う「違和感」を味わってもらうこと、それしかないように思うのです。例えば、私が中高年社員にキャリア・カウンセリングをする際に推奨する「行動」は、「まず近くのハローワークを訪れて、求職しているフリをして、自分の『価値』を客観的に評価してもらう」ことです。

私自身も三度の失職期間にハローワークに行っていたことがありますが、はっきり言ってあまり明るい雰囲気の場所ではありません。職員から「まず言わなければいけないのは、40代後半以降からは求職は難しいんですよ」とジャブを打たれ、「部長が出来る? そういう経験を聞いているのではなく、他の会社で実際に会社に貢献できる具体的なスキルを挙げて欲しいのです」という笑い話もあるように、具体的にキャリアを考えてこなかった方はパンチを食らわされるのです。そういう経験自体が、キャリアを考え、今やっている業務との関連で将来を考えるのに強烈なインパクトを持つわけです。

さらなる具体策については、第3回(9月30日公開)の完結篇をお楽しみに。
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