「意識改革」だけでは果たされない「シニア社員の戦力化」
前回は、シニア社員の活性化、戦力化において最も重要かつ困難なシニア社員の「意識改革」のための具体的な研修例を示しました(※前回の記事)。あの手この手で、そこそこ時間をかけてじっくり考える機会を作ることによって、徐々に、そして無理なく「意識改革」が図られることを狙っています。
恐らく前回の表をご覧になったHR担当者や経営陣は、「そうか、ここまでやらないといけないのか?」「確かに、自発的に本人たちからその気になってもらうのを待っていてもダメなんだな」と感じていただけたかと想像しています。
ハードルはそれなりに高いです。しかしながら、やらないと会社はモタなくなっている「シニアの戦力化」については、これまでの多くの大企業で行われてきた半身の、あるいは当事者であるシニア社員任せでは埒が明かないでしょう。
「会社主導」の手厚い施策が必要不可欠
しかしながら、シニア社員の意識改革が、会社からの積極的な働きかけで達成されたとしても、それだけではシニアの戦力化は実現されません。意識改革が伴ったシニア社員が、伸び伸びと働いていける職場(「場」)や、状況・制度といったものも同時に必要だからです。
当然のことですが、そうした場や状況、制度といった環境は、会社が用意し整備するものです。
それだけの会社としての「覚悟」がなければ、高齢化時代に必須なシニアの活性化、戦力化は達成されないのです。「そうした覚悟を会社として持つことが難しいんだよね」と仰る方も多いでしょう。しかしながら、シニアが本当に戦力化してイキイキ仕事に打込み、その波及効果で会社全体に活力が出てくる……そんな姿を見てみたくはありませんか?
この「シニア社員の意識改革」と、「シニアが働ける場、状況」という2つのポイントを縦軸に、会社施策とそれによってもたらされるシニア社員側の効果を横軸としたものが下表です。
著者作成
・必ず会社主導での施策が先
・それを社員が活用
というキャッチボールの形で成功に近づいていく形を取ります。
手厚い施策を行うためには「人的資本経営」の理解、徹底を
手厚い施策を実行するための前提として、人的資本経営の一環として会社を挙げて取組むことへの社内的なコンセンサスが必要でしょう。人的資本経営の徹底、その一環としてのシニアの戦力化に関する覚悟、……しかる後にようやく、シニアの戦力化という高いハードルを越えるための施策が実行出来ることになるのです。施策の一つひとつについては、業種、社員の年齢構成、現状の組織構成、社内の文化・風土によって、それぞれの会社が自社に相応しい施策を採用することになるでしょう。
例えば、「シニアのキャリア形成のための制度構築」については、本連載【「HR3.0」というジョブ型雇用と人的資本開示が拓く新たな時代】の第5回にソニーグループの、それこそ手厚い制度についてまとめてありますので、是非参照してみて下さい(※参考リンク)。
この連載では何度も繰返し書いているのですが、「リスキリングのためのオンラインサービスを会社で導入した」、「座学で人生100年時代を強調した研修を実施してみる」といった単発的な取組みではなく、有機的で、実効性のある仕組みが必要です。今回はシニア社員の意識改革を可能にする会社施策を具体的にお示ししました。
こうした取組みは一つの会社だけでは構築することも、実行することも経験、マンパワーの面で難しいかと思います。外部戦力や他社との情報交換などを交え、経営中枢も巻き込んでいくことが必要です。
人的資本経営が脚光を浴びている今だからこそ、こうした取組みに着手される会社が1社でも増えていくことを希望しています。
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