「SDGs(Sustainable Development Goals)」とは「持続可能な開発目標」の略称を意味する。これはよりよい世界を目指すため2015年に策定された国際目標で、17のゴールと169のターゲットで構成されている。持続可能な開発目標が策定されて以来、国だけでなく、各企業においてもSDGsへの取り組みが求められている。人事においては、多様な人材を活かす「ダイバーシティ経営」や「健康経営」、「多様な働き方」の実現がSDGsへの取り組みにつながるという。これらSDGsへの取り組みは採用ブランディングにも役立つだろう。本記事では、優秀な人材の獲得にもつながる、企業の人事が知っておくべきSDGsについて事例とともに解説する。
SDGs

知らないでは済まされない「SDGs」の意味とは?

「SDGs(エスディジーズ:持続可能な開発目標)」とは、持続可能な世界を実現するために策定された、世界共通の目標を指す。2015年に行われた国連サミットにて、すべての加盟国が合意した「持続可能な開発のための2030アジェンダ」内で掲げられて以降、多くの企業がSDGsに興味関心を寄せている。

SDGsは17の目標と169のターゲットで構成されている。

●SDGsを構成する17の目標

(1)貧困をなくそう
(2)飢餓をゼロに
(3)すべての人に健康と福祉を
(4)質の高い教育をみんなに
(5)ジェンダー平等を実現しよう
(6)安全な水とトイレを世界中に
(7)エネルギーをみんなに そしてクリーンに
(8)働きがいも経済成長も
(9)産業と技術革新の基盤をつくろう
(10)人や国の不平等をなくそう
(11)住み続けられるまちづくりを
(12)つくる責任 つかう責任
(13)気候変動に具体的な対策を
(14)海の豊かさを守ろう
(15)陸の豊かさも守ろう
(16)平和と公正をすべての人に
(17)パートナーシップで目標を達成しよう


この目標を達成するには、各国の政府だけでなく、各自治体や企業、個人も「持続可能な社会」を意識し取り組む必要がある。

●持続可能な開発目標とは

では、持続可能な世界、持続可能な社会とはどのようなものを指すのだろうか。「SDGs」は大きく分けて経済、社会、環境の3つの要素で構成されている。

・経済:すべての人が豊かで充実した生活を送れるようにする
・社会:恐怖と暴力がない、平和で公正な社会にする
・環境:天然資源の持続可能な管理、気候変動への対応を通して地球環境を守る


さらに、「SDGs=持続可能な開発目標」は、現代に生きる人々と将来新たに経済活動に参加する人々、両者のニーズに応えながら、前述した3つの要素を満たす開発を意味する。

●「SDGs」とサステナビリティの違い

「SDGs」と似た言葉にサステナビリティがある。サステナビリティはSDGsよりも以前に生まれた「持続可能性」を意味する言葉で、自然と人間社会が共生できる社会を目指す思想である。

サステナビリティは経済、社会、環境に対する取り組みの大きな枠組みであるのに対し、SDGsはサステナビリティを実現するための具体的な目標とも言い換えられる。

特に人事と関係の深い「SDGs」の4つの目標

ここからは、企業の人事と関係の深い「SDGs」の目標を紹介する。17の目標のうち、人事担当者が特に押さえておきたい目標は次の4つだ。

●ジェンダーの平等の実現(5番):ダイバーシティの推進

17の目標の5番目には、ジェンダー平等の実現が掲げられている。女性も男性と同様に活躍する社会を実現するために、企業にはダイバーシティの推進が求められている。国内において男女平等を掲げるようになって久しいが、日本企業では依然として男性優位の状態が続いていることも少なくない。

また、あらゆる差別をなくし個人の多様性を認め、活かす方向にシフトチェンジする必要がある。セクシュアルマイノリティ、いわゆるLGBTなどにも配慮した組織づくりが急務となっている。

●人や国の不平等をなくそう(10番):多様な働き方の実現

「SDGs」では、年齢、性別、障害、人種、民族、宗教、社会的地位に関わりなく、すべての人々が平等なチャンスを得て、格差を減らすために「人や国の不平等をなくそう」という目標を掲げている。

企業においては、差別のない公正な採用や公平な労働環境の実現が求められている。これまで日本の企業では、育児や介護のために出世を諦めなければならない社員や、妊娠を機にキャリアが途絶えてしまった女性の姿が多く見られていた。

しかし今後は、社員の評価や処遇は能力と実績をもとに公正・公平に行う必要がある。また、年齢や性別、国籍の違いで処遇を変えない、差別をしない労働環境を構築しなければならないと考えられている。

●働きがいも経済成長も(8番):従業員への能力開発の機会提供

一人ひとりが働きがいを持てる労働環境を作り、さらに安定した経済成長に寄与する。企業においては、「若者や障がい者を含むすべての男女が働きがいのある仕事に就き、同一労働同一賃金を達成すること」がこの目標のターゲットに据えられている。

企業の人事側は、すべての働く人の権利を守り、安心して仕事に取り組める環境の構築や、すべての従業員に対して能力開発の機会を提供するなどしてやりがいを持てる職場づくりを推進しなければならない。

●すべての人に健康と福祉を(3番):健康経営

「すべての人に健康と福祉を」という目標を達成するために企業側ができることは、健康経営への取り組みである。この目標では、感染症以外の病気で命を失う人の割合を減らし、心の健康への対策を行うことがターゲットに据えられている。

「SDGs」の達成にもつながる健康経営に関する取り組みとしては、次のようなものが考えられる。

・従業員に運動の機会を与えるためにスポーツジムの利用料を補助する
・社員食堂等で栄養バランスを考えた食事を提供する
・健康に関する正しい知識を習得するための研修を行う
・ストレスやメンタルヘルスに関する正しい知識を得るための研修を行う
・分煙、禁煙環境の整備


自社の従業員の健康管理を経営的な視点から戦略的に行う健康経営は、従業員だけでなく企業にも大きなメリットをもたらすものだ。従業員に病気や不調が起これば、採用コストの増大や生産性の低下などで企業に損失をもたらす。

従業員の病気やメンタルヘルス面の不調を防ぐことで、これらのリスクを回避できるだけでなく、SDGsへの取り組みとなるほか企業価値および業績の向上が期待できる。

企業イメージや採用ブランディングに良い影響をもたらす「SDGs」

「SDGs」への取り組みはそれぞれ簡単ではない部分もあるが、企業側に大きなメリットを与えてくれることも覚えておきたい。SDGsへの取り組みを行うことによって、企業イメージを向上させ採用ブランディングにも良い影響を与えてくれるだろう。

●企業イメージの向上

「SDGs」に取り組む企業は、クリーンなイメージを持たれやすく信頼性も高まりやすい。社会にある課題や環境問題を見て見ぬふりせず、自社で行える対策を具体的に打ち出し実行している企業というイメージも持たれるようになる。またSDGsは国際目標であることから、海外からの評価も高まるだろう。

●採用ブランディングの向上

企業イメージの向上は採用にも役立つ。「SDGs」への積極的な取り組みを通じて、学生たちに自社の存在を知ってもらえるかもしれない。

先進的な取り組みを行う企業は、優秀な人材、若い人材の興味・関心を引きやすい。公正で平等な雇用と昇進、あらゆる差別のない労働環境、ジェンダーへの平等に取り組む企業には、多様な個性と能力を持つ人材が集まるだろう。

SDGsへの取り組みによって、企業成長にも欠かせない多様な人材を採用できるチャンスが高まるのだ。

●従業員のモチベーションの向上

「SDGs」への取り組みを通して、従業員は知識やスキルを身につけ働きがいを得られる。企業価値の向上、ブランド力の向上によって、その会社で働く喜びも感じることができるだろう。また、SDGsを達成するために自社で何ができるのかを社員それぞれが考え、話し合うことで従業員同士の一体感も得られる。

「SDGs」に取り組むうえで直面する課題とは

「SDGs」に取り組む際、企業はこれまでにない課題と向き合うことになる。今まで放置していた課題が噴出することもあるだろう。

●従業員への負担

「SDGs」への取り組みを強化することで、従業員の業務にこれまでにない負荷がかかってしまうことがある。自社での取り組みを明文化するために会議を行い、書類を作ったり、始めた取り組みが実を結んでいるのか定期的に振り返ったりなど、業務以外の部分に時間を割かなければならなくなる。

働き方改革によって労働時間の軽減を求められている中で、SDGsに関する取り組みが長時間労働につながることだけは避けたい。

●コスト増

「SDGs」への取り組み自体にコストが発生することもある。例えば健康経営に関する施策として「スポーツジムの利用料の補助」を行った場合、社員一人当たり数千円のコスト増が発生する。

コストが増えすぎて経営を圧迫するのでは本末転倒となってしまう点は覚えておきたい。企業側はどこまでSDGsに関するコストを許容できるのか、ある程度定めて周知しておく必要があるだろう。

●モチベーションの低下

「SDGs」への取り組みについて経営陣が一方的に決定し、従業員に負担をかけているケースも考えられる。このような状況では、従業員のモチベーションが低下する事態になりかねない。社会貢献や環境課題への取り組みが押し付けにならないよう、また従業員の業務負担増につながらないよう気を付ける必要がある。

「SDGs」の企業事例を紹介

最後に、SDGsに取り組む企業の事例を紹介する。

●パナソニック

パナソニックでは、人権の尊重を基本として、性別、年齢、人種、信条、宗教、障がい等によって差別することがないコミュニティづくりに力を入れている。多様な働き方にも対応するとともに、サプライチェーンにおける人権や労働問題に関しても製造・調達部門を中心に取り組んでいる。

同社は人材育成やダイバーシティ&インクルージョンなど人権の尊重に関する課題への取り組みを通してSDGsの達成に貢献していきたい考えだという。

●シャボン玉グループ

「シャボン玉せっけん」でおなじみのシャボン玉グループでは、「健康な体ときれいな水を守る」を理念に、SDGsの17の目標すべてに関する取り組みを行っている。

自社の製品による環境改善への貢献はもとより、生態系保全活動や災害・衛生教育・子育て支援活動、そして働きやすい環境づくりにも取り組んでいる。

2019年6月には、女性監督職クラス以上の比率を5%引き上げることを目標にした「女性大活躍推進宣言」を行った。また、全社全域における禁煙の実施、リフレッシュ休暇制度の創設、安全衛生委員会の創立等、従業員の健康を心と身体の両面から守る取り組みも行っている。
2030年までの達成を目指した国際目標、「SDGs」は、政府や自治体だけでなく各企業、各個人が意識して取り組む必要がある。これまで、経済成長のために人類はさまざまなものを犠牲にしてきた。時にそれは同じ人類にも牙をむき、不平等や貧富の差、差別といった形で世界社会に大きな影を落としている。「誰一人取り残さない世界」を実現するために、企業は自社にできることからSDGsを始めてみるのがいいだろう。その取り組みが自社の価値やブランド力を向上させ、ひいては優秀な人材の獲得につながるはずだ。
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