「自己啓発」とは?
「自己啓発」とは、自分の意思や意欲をもとに、自身の能力を高め、心の成長を目指す活動のことである。会社からの指示や「業務に必要なので仕方なく」といった動機ではなく、「自分自身の意思」で「能力の開発と精神的な成長の双方を目指す」ための取り組みが「自己啓発」と呼ばれている。「自己啓発」は、スキルアップと業務範囲の拡大、将来的なキャリアの広がり、さらにはプライベートの充実につながる可能性を秘めている。また自発的にスキルアップと精神面の成長を果たす従業員が増えることは、企業にとって優秀な人材の確保というメリットがある。こうしたことから「自己啓発」は、ビジネスの現場で重視されているのである。
「自己啓発」のメリット
「自己啓発」をすることで、具体的にどんなメリットがあるのだろうか。本人と企業両方の視点で解説していく。【本人のメリット】
●スキルアップ
マネジメント、マーケティング、経理、プログラミングなど、日々の業務に活かせるスキルを磨くことで、ビジネスマンとして大きな成長を果たすことができる。現在の仕事に直結しない知識・能力であっても、それを身につけることが将来的なキャリアチェンジに役立つ可能性もある。また自発的に行動することで、計画力や自己責任のマインドも育つだろう。●モチベーションの向上
習得した知識やスキルを活用して仕事上の成果を出していくことで、自分に自信を持てるようになり、モチベーションが高まる。ポジティブな意識で仕事をすることができれば、より成果は上がり、さらなる向上意欲が呼び起こされるだろう。●対応力の向上
精神的な成長と新たな思考能力の会得により、多角的な視点で物事を分析できるようになる。自発的に考えて行動するスタンスが身につき、課題解決力も高まる。自分の中でルールや価値判断の基準が確立することで迷いがなくなり、想定外のシチュエーションに陥っても切り抜けることができるようになる。【企業にとってのメリット】
●生産性の向上
ビジネスに活かせる知識・能力やIT分野でトレンドとなっているスキルを身につけた従業員が増えれば、業務プロセスと効率の改善、生産性の向上へとつながるだろう。現場に任せることのできる業務は広がり、自社の事業範囲が拡大するかもしれない。●自律的な成長への期待
技術革新やビジネス環境の変化が激しい現代においては、企業が先導するのではなく従業員自身の意思によって自発的に成長してもらうことが望ましい。時代の変化を機敏に捉えながら自分自身の将来を具体的に考え、主体的・能動的に行動する「キャリア自律」と「自己啓発」の広がりは、企業が望むべき状況といえる。●エンゲージメントの向上/企業イメージの向上
スキルアップによって成果が上がれば、仕事に対するやりがいや会社に貢献できているという実感が高まり、自律的なキャリア形成への取り組みが促進され、従業員エンゲージメントが向上するだろう。離職率が低下し、定着率は上がり、採用コストは削減されるはずだ。自律的なキャリア形成と「自己啓発」が浸透すれば、企業イメージも向上する。代表的な「自己啓発」の方法
では、「自己啓発」のやり方・方法を紹介していく。代表的なものは以下だ。●読書
成功者の言葉や行動をまとめ、「自己啓発」の重要性を説き、能力開発の手法などを解説した書籍が多数発刊されている。これらを読んで「自己啓発」へ向けて心の下準備を進めるのが第一歩となるだろう。身につけたい能力が明確化されれば、そのジャンルの書籍を読むことになる。さほど費用はかからず、通勤中や休憩時間でも可能であるため、「自己啓発」のファーストステップとして取り組みやすい手法といえる。●セミナー/研修/コンサルティング
「自己啓発」に関するセミナー(オンラインを含む)、研修、ワークショップ、講演会が多数開催されている。これらに参加することで「自己啓発」の重要性を理解でき、同志との交流によってモチベーションも維持されるだろう。専門家によるコーチングやコンサルティングなら、自分の課題に応じた個別アドバイスを受けられる。もちろん能力ごとに用意されている専門的な研修への参加も「自己啓発」においては重要である。●資格取得/スクール/通信講座
資格の取得を目指すことは、メジャーな「自己啓発」手法だ。資格そのものや習得した知識を業務に生かせるほか、将来のキャリアも広がる。国家試験・民間試験の日程が決まっている資格も多いため、計画的な「自己啓発」が可能だろう。一般的には資格取得のための講座やスクールに通うことになる。外部向けの講座を開講している大学や専門学校、企業に在籍したまま受け入れてくれる教育機関、時間や場所を選ばず受講できる通信講座なども活用できる。いずれも自己流より効率的・効果的に学べる点が大きなメリットである。●成功者の考え方を学ぶ
自分が目指している分野で成功した人から方法論を学ぶという手法がある。その人が登壇するセミナーや講演会に参加する、直接会って話を聞く、あるいは出向や“武者修行”のような形でその人物のもとで働くことも考えられるだろう。企業による「自己啓発」の支援施策
「自己啓発」に取り組む従業員を支援するため、企業は各種の施策を拡充していくべきである。社員の自発的な能力開発を促すことで生産性向上を見込めるうえに、「自己啓発」に取り組む社員のエンゲージメント向上も期待できるからだ。●研修やセミナーの開催
「自己啓発」の重要性や成功の秘訣などを解説するセミナーと、個々の技術やスキルの習得を目指す研修を拡充させることは、絶対とも言える取り組みである。“自発的”という「自己啓発」の特性を考えれば、全員参加型ではなく受講したい社員だけが参加する形とすることが望ましいだろう。●eラーニングの導入
各種技術やビジネススキルの解説動画を、パソコン、タブレット、スマートフォンなどを用いて、いつでもどこでも閲覧できるようにしたオンライン研修システム「eラーニング」は、ぜひとも導入したい。必要な講座を自分で選択して受講する、通勤時間などを利用して自分のペースで学習を進められる、といった特徴を持つ「eラーニング」は、「自己啓発」と相性が良い。研修やセミナーの開催と比較して会社側の労力は小さく、費用も少なくて済む。サービス提供事業者ごとに講座内容などは異なるため、社員へのリサーチで必要な講座を見極めたうえで導入することになるだろう。●書籍や映像の提供
「自己啓発」や個々の技術に関する解説書籍・映像メディアを会社が取得し、希望者に貸し出すようにしたい。比較的低コストで実現できる施策であり、また「何から始めればいいのかわからない」、「どんな書籍を読むべきか知りたい」という従業員に一歩踏み出してもらうきっかけとなりうる。●資格取得のサポート
社員が目標とする能力開発に合わせて、必要な資格の情報を提供し、合格・資格取得までのロードマップを提示したい。合格者がその資格や知識を仕事に活かし、会社に貢献してくれることを期待できるため、支援する意義は大きい。●費用の補助
外部研修・セミナーへの参加、関連書籍や映像メディアの購入、各種スクールや通信講座の受講には、当然ながら費用が発生する。そのすべてを従業員負担にすると、「自己啓発」の足取りは重くなるだろう。費用の一部や全額を補助する制度によって金銭面での個人負担を軽減できれば、「自己啓発」の活性化につながるはずだ。●休暇制度
日々の業務と並行して「自己啓発」に取り組もうとしても、学習時間の確保がままならなかったり体力を消耗したりで思うように捗らないことが考えられる。有給休暇とは別に「自己啓発休暇」や「資格取得休暇」といった制度の整備を進めたい。●副業・兼業の解禁/出向・武者修行制度
社員の副業・兼業を許可する企業が増えている。また数か月から数年単位で大学や外部機関、他の会社に通学・出向・武者修行ができるような制度も広まりつつある。通常業務だけでは望めない能力開発が可能な手法であり、会社にとっては貴重なスキルを持った人材の確保というメリットがもたらされるだろう。●情報交換・交流・アウトプットのための機会提供
同じ志を持つ従業員が集まる勉強会・交流会の開催、グループ活動の奨励などを通じて「自己啓発」に対するモチベーションの維持・向上を図ることも考えたい。習得した知識やスキルの発表会・実演会、仕事に活かす方法を考える研究会など、アウトプットの機会を作ることも重要である。「自己啓発」を進めるうえでの注意点
「自己啓発」を進めるうえで、知っておきたい注意点がある。本人が陥ってしまいがちなことと、企業が抱えやすい悩みを紹介しておく。【本人が陥ってしまいがちなこと】
●知識を得ただけで満足してしまう
自己啓発本を読んだだけ、研修・セミナーに参加しただけで「自分は自己啓発を進めている」と感じてはならない。読書や研修を通じて得た知識、哲学、気づきを、自身の思考に取り入れ、モチベーションの向上につなげ、目標を設定し、学習など具体的な行動に移していくことが重要だ。●学んだ情報に囚われすぎてしまう
「自己啓発」によって新たな考え方や価値観を身につけた人が、その素晴らしさに影響を受けすぎてしまうことがある。「この方法を実践すれば成功する」といった観念に囚われ、視野を狭めてしまうのだ。書籍やセミナーで知った手法をそのまま真似するのではなく、哲学や方法論のエッセンスを取り入れ、情報を取捨選択し、自分の現状に合った形で実践していくべきである。●悪徳業者に騙される
高額な参加費を徴収したり法外な価格の教材を売りつけたりする講習会や、別のセミナーにしつこく勧誘するセミナーなど詐欺まがいの事例もある。主催者や講師の実績と評判、信頼性は必ず確認したい。【企業側の悩み】
●必要性の認識が低い/制度の利用率が低い
「自己啓発」の必要性を社員が認識していない、せっかく支援制度を設けても利用率が低い、研修やeラーニングへの参加率が低い、といった悩みを抱える企業は多い。新入社員オリエンテーション、階層別研修、上長との面談などで、キャリア自律と「自己啓発」の重要性を何度も丁寧に説明し、社員が自発的に学ぼうとする文化を醸成していくことが必要だ。●従業員が「自己啓発」にネガティブなイメージを抱いている
「自己啓発」に対して、「誰かの言うことを妄信して周囲が見えなくなってしまう」、「まるで洗脳だ」といったネガティブなイメージを抱く人もいる。こうした誤解を招かないよう、「自己啓発」の意義・目的や必要性をキャリア自律と絡めて説明すべきである。「自己啓発」に取り組む人たちが“思い込み”に囚われていないか、進捗や状況を確認することも大切だろう。●社内セミナーや支援制度の効果が薄い
スキルアップ研修の参加率が低い、参加した人の成長が鈍い、支援制度の効果が薄いといった問題がある場合は、研修・セミナーの内容や支援制度が、自社の実情や社員のニーズに合っていない可能性がある。研修・セミナーと支援制度の導入においては、現場の従業員に対するアンケートやヒアリングを実施すべきである。「自己啓発」の支援において企業側が心がけるべきポイント
では、従業員の「自己啓発」を支援するために何を心掛ければいいのか。ポイントを解説していこう。●目標と課題の明確化と段階的な進行
いきなり「自己啓発」を従業員に呼びかけてもハードルは高い。まずは個々の従業員に、将来の夢や目標、やりたいことなどを書き出してもらおう。そうすれば、夢を実現するために必要なスキルとマインド、そのための学習プラン、自身が抱える課題など、次のステップに進むための道筋が明らかとなる。企業側には、社内のキャリアパスに関する情報や自己分析のためのデータ提供が求められる。個々の従業員の現状・課題・将来像に合わせて資格に関する情報を整理し、さまざまなレベルと形の学習方法や支援制度を社内に整備することも重要だ。
●方針やルールの明示
全従業員、あらゆるスキル・資格を対象に学習費用を補助しようとすると予算は足りなくなる。補助の対象者を職種・勤続年数・役職などで絞り込むほか、対象スキル・資格、会社が負担する費用割合と上限、「自己啓発休暇」を申請できる条件なども決めておかなければならない。●ロールモデルの紹介
「将来こうなりたい」といった意欲を喚起するためには、社内にいる先輩社員をロールモデルとして紹介し、対話させてみることが有効だろう。●あくまでも“主体的”な成長を促す
自らの意思をもとに、自ら計画して学び成長することが「自己啓発」の意義である。会社側が自己申告シートなどで進捗を把握することは必要だが、無理強いや過度な干渉は避けなければならない。キャリアデザイン研修や面談におけるアドバイスなどを通じて「自己啓発」に対する意欲を喚起することが大切である。●目標設定と達成時への配慮
資格やスキルの取得を目指す際、ハードルが高い、実現不可能、あるいは不明瞭な目標設定ではモチベーションの低下を招く恐れがある。自己分析と会社からの評価に基づいて、その人の現状とキャリアプランに応じた適度な難易度の目標を具体的に設定してもらうことが重要だ。目標達成へのインセンティブを用意するなど、「自己啓発」の経過・結果と評価とを連動させることでモチベーションを維持・向上させることも考えたい。「自己啓発」支援の取り組み企業事例
最後に、実際の企業が取り組んでいる「自己啓発」支援の事例を3つ紹介しよう。●旭化成
旭化成は、従業員一人ひとりの成長をサポートする独自の学習プラットフォーム「CLAP」を展開している。社内の豊富な知見を活かしたオリジナル学習コンテンツに加え、外部の教育サービスとも連携し、幅広い学習機会を提供している。また、事業部や拠点の垣根を越えた「新卒学部」という新卒社員向けのラーニングコミュニティも推進。従業員同士が知識を共有し、互いに刺激し合いながら成長できる環境を整備している。●三菱UFJフィナンシャル・グループ
三菱UFJファイナンシャル・グループの人材育成において特徴的なのは、階層的に設計された支援制度だ。まず「知る」段階でキャリア研修を通じて自身の興味・関心を探索し、「学ぶ」段階では、ビジネス、デジタル、グローバルの3領域で豊富な学習機会を提供。eラーニング、オンラインスクール、英会話アプリなど、時代に即した学習ツールを取り揃えている。さらに「挑戦する」段階では、「Position Maker」制度による業務改善提案や、「Job Challenge」による部署間異動、最長3年間の休職を認める「Challenge Leave」制度など、知識の習得にとどまらず、実務での挑戦を通じたキャリア開発をバックアップしている。●SHIFT
SHIFTは、独自のキャリアアップ制度「トップガン」を通じて、従業員のキャリア形成をサポートしている。「トップガン」は、テスト設計者やITコンサルタントの実務スキルを図る検定が複数あり、これに合格すると上位職へのアサインと給与アップにつながる画期的な仕組みだ。自発的なスキルアップを促し、IT人材不足解消と待遇改善、IT未経験で入社したエンジニアの成長や単価の向上に寄与している。まとめ~「自己啓発」の広がりが企業を救う
自発的に能力開発と精神の成長を目指す「自己啓発」は、現代の会社員にも最も求められる取り組みといえる。自身のキャリアプランを実現させるためには、また技術革新やビジネス環境の変化に素早く対応するためには、自律的・能動的にスキルアップしていくことが不可欠だからだ。個々の従業員が「自己啓発」に成功すれば、能力の高い人材が社内に増え、生産性が高まる。企業としては、優秀な人材が“自ら育ってくれる”機会・方法論であると捉え、「自己啓発」の支援施策を拡充していくべきである。「自己啓発」の支援に積極的な企業では従業員エンゲージメントが高まり、離職率は低下するだろう。自律的なキャリア形成を実現しやすい企業として認知され、さらに人材が集まってくることも期待できる。
「自己啓発」の重要性を多くの従業員に認知してもらい、研修・セミナーの開催やeラーニングの導入、支援施策の整備など「自己啓発」を継続させやすい環境づくりを進め、モチベーションの維持・向上を図り、「自己啓発」が当たり前という風土を築き上げていく。その取り組みが、企業全体の生産性向上と、採用市場における優位性をもたらしてくれるはずである。
よくある質問
●「自己啓発」とは何か? 具体例は?
「自己啓発」とは、自分の意思や意欲をもとに、自身の能力を高め、心の成長を目指す活動のこと。具体的な方法としては、読書、セミナー/研修/コンサルティング、資格取得/スクール/通信講座、成功者の考え方を学ぶ、などがある。●「自己啓発」の言い換えは?
「自己啓発」は、「自己研鑽」、「自己成長」、「自分磨き」、「スキルアップ」といった言葉に言い換えることができる。- 1