近年、企業経営において「サステナブル」という言葉の重要性が増している。様々な環境問題や社会課題が生まれ、企業にもその解決に向けた対応や事業活動が求められるようになっているのだ。企業経営に関わる人であれば、「サステナブル」は誰しもが理解しておきたいキーワードである。そこで本稿では、「サステナブル」の意味から、経営におけるメリット、具体的な取り組み事例まで、人事担当者や経営者が押さえるべきポイントを解説していく。
Green city on earth, World environment and sustainable development concept, vector illustration

「サステナブル」とは?

「サステナブル(Sustainable)」とは、「sustain(持続する)」と「able(~できる)」を組み合わせた言葉で、「持続可能な」という意味を持つ。一般的には、環境や社会、経済が破綻せずに未来に続くように、現代の課題を解決していく考え方を指す。この考え方には、環境保護や資源の有効活用だけでなく、社会や経済の発展を追及することも含まれている。

また、名詞にすると「サステナビリティ」となる。これは「sustain(持続する)」と「-bility(可能性)」を組み合わせたもので、「持続可能性」と訳す。

●「サステナブル」という言葉が生まれた背景

産業革命以降の急速な経済発展が環境破壊や資源の枯渇を引き起こし始め、1980年頃に人類存続への危機感から世界的に環境問題の議論が深まっていった。その中で環境や社会、経済を維持する考え方として「サステナブル」という言葉が生まれたと言われている。

さらに1987年には、国連の「環境と開発に関する世界委員会(WECD)」が発表したブルントラント報告書(Our Common Future)によって、「開発は環境や資源などの土台の上に立つものであり、持続的な発展には環境の保全が不可欠である」という概念が提唱され、「サステナブル」の考え方が広まっていった。

●「サステナブル」と「エコ」や「エシカル」の違い

「エコ」は、主に環境保護や環境負荷の低減に焦点を当てた取り組みのことを言う。例えば、省エネや廃棄物削減などだ。一方で「サステナブル」は、環境だけでなく、経済や社会全体が持続可能な状態を目指す、より幅広い概念だ。

「エシカル」は、「倫理的」、「道徳的」を意味し、人や社会、環境に配慮した良識的な選択や行動を指す。「サステナブル」が持続可能性という大きな枠組みを示しているのに対し、「エシカル」は消費行動に重点を置いているのが特徴だ。

●「サステナブル」とSDGsの関係性

SDGs(Sustainable Development Goals)は「持続可能な開発目標」と訳し、サステナブルの理念を具体的な目標として示したものだ。2015年に国連で採択された17の目標と169のターゲットは、サステナブルな社会の実現に向けた国際社会共通の指標となっている。企業活動においても、SDGsへの貢献を通じてサステナブルな経営を実現する取り組みが活発化している。

「サステナブル」が注目されている理由

近年なぜ「サステナブル」が注目されているかについて説明していこう。

●環境問題

「サステナブル」が強く叫ばれるようになった一因は、産業革命以降の大量生産・大量消費により、深刻な環境問題が引き起こされていることだ。二酸化炭素の大量排出による地球温暖化、プラスチックごみによる海洋汚染、無計画な開発による森林減少など、地球環境への負荷は限界に達しつつあると言える。また、気候変動による異常気象の増加や生態系への影響が目に見える形で現れてきたことも、環境問題への関心を高める要因となっている。そのため、2015年の国連によるSDGsの採択以降、環境への関心が高まっている。

●労働問題

低賃金労働の常態化、長時間労働、非正規・正規、男女間の待遇格差など、労働者の権利や福祉に関わる課題も「サステナブル」が注目されるようになった要因だ。特に発展途上国では、劣悪な労働環境や労働安全衛生の問題が後を絶たない。こうした労働問題を是正しようと、世界各国で労働環境改善の取り組みが進められるようになってきている。

企業が「サステナブル」に取り組むメリット

「サステナブル」の取り組みが企業にどんな好影響をもたらすのか。その主な4つのメリットについて解説しよう。

●企業価値の向上

環境配慮や社会貢献など「サステナブル」に本気で取り組む企業はブランドイメージが向上し、信用を高めることができる。また近年、投資家たちは企業を選ぶ際に、環境・社会・企業統治(ESG)への取り組みを重視しているため、投資家から高い評価を受け、株価上昇という形でも企業価値を高めることができる。

●消費者ニーズへの対応

環境や社会問題への関心が高まる中、消費者も商品やサービスを環境保護や社会貢献の視点で選ぶようになっている。「サステナブル」な取り組みや商品は、そうした消費者の期待に応え、顧客満足度を高めることができる。また、環境に配慮した商品の開発が新たな市場の開拓にもつながり、ビジネスチャンスを広げることもある。

●人材の確保

求職者が働く企業を決める際に、CSR(企業の社会的責任)や環境への取り組みを重視する傾向が強まっている。そのため、「サステナブル」な事業や経営方針を掲げる企業は、優秀な人材を採用しやすく、また定着率向上の効果も得ることができる。

●コスト削減

書類の電子化やLED証明の使用、節電・節水といった省エネや資源の効率的な活用は、コスト削減に直結する。また高効率な機器や環境に配慮した設備への投資は、初期費用こそかかるが、長期的に見れば大きな経費削減につながる。

●気候変動などのリスクへの対応

異常気象や災害によって、工場の操業停止や原材料の調達難、エネルギーコストの高騰などが起こり得る。そうしたリスクに対して自社での再生可能エネルギーの導入や、省資源化の推進といった「サステナブル」な取り組みをしていれば、対応しやすく、安定した製品供給を行うことができる。

各業界における「サステナブル」の広がり

「サステナブル」は、様々な業界で広がり新たな関連用語が生まれている。ここでは主な8つを紹介していきたい。

●サステナブル経営

「サステナブル経営」とは、環境・社会・経済の持続可能性を重視しながら企業価値の向上を目指す経営手法のことを指す。2015年の国連サミットでSDGsが採択されて以降、企業の持続的な成長と社会課題の解決を両立させる新しい経営モデルとして注目を集めている。

具体的な取り組みとしては、環境に配慮した製品開発や廃棄物のリサイクル、自然エネルギーの活用などが挙げられ、こうした「サステナブル」な取り組みを通じて企業価値の向上や社会からの信頼を獲得しようというものだ。また、働き方改革や育児・介護支援といった職場環境の整備も重要な要素となっている。

●サステナブル人事(サステナブルHRM)

「サステナブル人事(サステナブルHRM)」とは、企業の持続可能性を高めるために、人材マネジメントの観点から、社会価値向上と企業の成長の両立を目指す人事戦略のことを言う。例えば、ワークライフバランスの実現や多様な働き方の導入、ダイバーシティ&インクルージョンの推進、メンタルヘルスケアなどの施策はサステナブル人事の一環と言える。

近年では、SDGsへの関心の高まりとともに、この「サステナブル人事」の重要性が増している。従業員のウェルビーイングを重視し、社会課題の解決に取り組む企業文化を醸成することで、優秀な人材の確保や定着率の向上にもつながるからだ。

●サステナブルマーケティング

「サステナブルマーケティング」とは、経済的利益と社会的責任を両立させるマーケティング手法で、環境への影響を最小限に抑えながら、企業の持続的な成長を目指す。サステナブルな製品・サービスへの関心が急速に高まる中で、その消費者意識への変化に対応するために市場を調査し、リサイクル可能な素材の使用や、エコフレンドリーな製造プロセスの導入といった施策へとつなげていく。

●サステナブルシティ

「サステナブルシティ」とは、環境・社会・経済への影響に配慮し、住人の生活の質が持続的に向上するために設計された都市のことだ。具体的な取り組みとしては、再生可能エネルギーの活用や公共交通機関の整備、廃棄物の削減、緑地の保全などが挙げられる。実は日本でも、神奈川県藤沢市が官民連携によるスマートシティ開発が進め、エネルギーの自産自消や環境に配慮したコミュニティづくりを目指している。

●サステナブルフード

食品業界では、環境負荷を抑えながら持続可能な食料生産を目指す取り組みが進んでいる。例えば、代替肉や植物性タンパク質の開発、フードロス削減、サプライチェーンの透明化などが主な施策として展開されている。

●サステナブルファッション

アパレル業界では、大量生産・大量消費、大量廃棄が国際的な問題となっている中で、環境への負荷を考慮した素材選びやリサイクル、廃棄物削減に注力している。現在では、再利用できる素材を活用した循環型のファッションビジネスモデルが広がっている。

●サステナブル建築

建築分野では、省エネルギー設計や再生可能エネルギーの活用、環境負荷の少ない建材の使用による「サステナブル建築」の推進が図られている。例えば、自然光や自然換気を活用した設計、太陽光発電システムの導入などだ。

●サステナブルツーリズム

近年、旅行者が急増し、自然環境や地元住民の生活への悪影響が目立つようになってきた。そうした中で生まれたのが、訪問客や産業、受け入れ地域の需要に合わせつつ、環境、社会経済への影響にも十分配慮した「サステナブルツーリズム」という観光モデルだ。これは、地域文化の保護、環境保全への貢献、地域経済の活性化を同時に実現できるとして注目されている。

「サステナブル」の取り組み事例

次に、実際に企業が行っている「サステナブル」の取り組みを紹介しよう。

●オムロン

オムロンは、気候変動や資源循環といった地球規模の社会的課題に対する取り組みを積極的に展開する。特に注力しているのが「温室効果ガス排出量の削減」、「循環経済への移行」、「自然との共生」の3つの領域だ。事業のエネルギー効率を倍増させることを目標に掲げる企業が集まる「EP100」に製造業として初めて加盟し、2040年までにエネルギー生産性を倍増させること、2050年までには温室効果ガス排出量ゼロを目指している。また、海洋プラスチックごみ削減に向けた包装技術の開発や、村田製作所との協働で日本最大級のカーポート型太陽光発電システムの展開にも取り組んでいる。

●凸版印刷

凸版印刷は、創業以来培ってきた印刷テクノロジーを基盤に、環境に配慮した様々な取り組みを行っている。特に注目が、リサイクル性の高いパッケージ技術だ。「包む技術で世界を変える」という理念のもと、パッケージのCO2排出量削減やパッケージの資源循環を図っている。

●伊藤園

伊藤園は、「茶畑から茶殻まで」の一貫した環境配慮型ビジネスモデルを展開している。「茶産地育成事業」を通じて農業の発展に貢献し、また、「茶殻リサイクルシステム」によって、茶殻を畳やボールペンなどの製品にアップサイクルする仕組みも開発した。

●旭化成

旭化成は、水素関連技術の開発や再生可能エネルギーの活用を積極的に進め、カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みを強化している他、災害時に備えて「LONGLIFE AEDGiS(ロングライフイージス)」というIoT防災情報システムを開発した。地震計の観測データと地域の地盤情報、建物の情報を統合することで、地震発生後10分~2時間程度で、顧客住宅の被害レベルや液状化発生状況を推定することができるようになったという。

人事ができる「サステナブル」の取り組み

人事ができる「サステナブル」の施策について4つを解説していこう。

●ペーパーレスの推進

書類の電子化は、即効性の高い施策と言える。採用書類や勤怠管理、給与明細のデジタル化により、紙資源の使用量を大幅に削減できる。またクラウドシステムを活用すれば、データの保管や共有も効率化され、業務効率の向上にもつながる。

●リモートワークの促進

リモートワークは、働き方の柔軟性を高めるだけでなく、「サステナブル」の観点でも有効だ。オフィススペースの削減によるエネルギー消費の抑制や、従業員のワークライフバランスの改善など、多面的な効果が期待できる。

●サステナビリティ研修の導入

従業員の「サステナブル」に対する理解と意識向上を図るため、サステナビリティ研修を導入するのも良い手だ。その際、環境問題や社会課題に関する基礎知識の習得から、部門別の具体的な施策まで、体系的な教育プログラムを設計したい。

●健康経営の実施

従業員の心身の健康維持も、「サステナブル」の一環と言える。そのため、メンタルヘルスケアの充実や運動促進プログラムの導入などの健康経営を推進することによって、社員ひとり一人のウェルビーイングを実現させたい。

まとめ

「サステナブル」への取り組みは、もはや企業経営における必須要件ともいえる。環境問題や社会課題への対応は、企業の重要な経営課題であるだけでなく、同時に新たな事業機会の創出にもつながるため積極的に取り組んでいきたい。特に人事は、組織全体のサステナビリティ推進において重要な役割を担い、従業員の意識改革や働き方改革を通じて、持続可能な組織づくりに貢献することが求められている。とはいえ、最初から大きな課題解決を考えると身動きが取れなくなる。まずは、省エネやペーパーレス化など、身近にできることから始めていくことが大切だ。

よくある質問

●企業が「サステナブル」に取り組むメリットは?

企業が「サステナブル」な施策に取り組むことで、①企業価値の向上、②消費者ニーズへの対応、③人材の確保、④コスト削減、⑤気候変動などのリスクへの対応などのメリットがある。

●「サステナブル」な人とは?

「サステナブル」な人とは、環境問題や社会課題に対して関心が高く、その解決に向けて行動している人のことを言う。事業だけでなく、環境や社会に配慮した消費行動を心がけるなどの生活習慣を持っているのも特徴だ。
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