「厚生年金」とは、適用を受ける事業所で働く70歳未満の会社員、または公務員が加入する公的年金だ。この「厚生年金」には老後の年金というだけでなく、怪我や病気になり働けなくなっても収入を得ることができたり、受給者が亡くなっても遺族に年金が支給されたりといったメリットがある。従業員としては、ぜひ活用したいものだ。また人事担当者やマネジメント層にとっては、必ず知っておきたい基本用語となる。そこで本稿では「厚生年金」の概要や国民年金との違い、加入条件、保険料の計算方法、手続き方法などをわかりやすく解説していきたい。
厚生年金

「厚生年金」とは

「厚生年金」とは、国民年金と並んで日本の社会保障制度において最も重要な公的年金制度だ。対象となる企業に勤務する会社員が加入し、労働者本人と雇用主とが折半で年金保険料を負担することで、労働者が65歳以上になったときに年金を受け取ることができる。

●「厚生年金」と国民年金の違い

日本の年金制度は「厚生年金」と国民年金の2層構造になっている。国民年金が基礎年金となり、さらに企業などに勤める人は「厚生年金」に加入する。「厚生年金」と国民年金では、加入対象者や納付する年金保険料、その保険料の納付方法、将来給付される年金額などが異なってくる。「厚生年金」の対象は厚生年金保険の適用を受ける事業所で働く70歳未満の会社員・公務員の他、パートやアルバイトとして働く人も、条件を満たしていれば加入することとなる。一方、国民年金は日本に住む20歳以上、60歳未満の全ての国民が対象だ。
厚生年金と国民年金の違い

●厚生年金基金とは

厚生年金基金とは、「厚生年金」に加えて会社自らが上乗せして給付する年金制度だ。会社が国に代わって積み立て、給付を行う厚生年金基金の一部は代行部分と呼ばれており、被保険者と事業主はその部分に関わる掛け金の厚生年金保険料の納付が免除される。その免除された保険料を「免除保険料」と言う。この免除保険料と代行部分以外の加算分を掛け金として国に収めることとなる。

「厚生年金」の種類

次に、「厚生年金」の種類について説明する。

●老齢厚生年金

老齢厚生年金とは、老齢を迎えた段階で受給資格を得ている人がもらえる「厚生年金」だ。受給資格は老齢基礎年金と変わらない。「厚生年金」の被保険者期間がある65歳以上の人が対象となる。一般的に呼ばれている「厚生年金」という用語は、この老齢厚生年金を意味することが多い。

●障害厚生年金

障害厚生年金とは、「厚生年金」の加入期間中に病気やけがなどで障害が生じてしまった場合に受け取れる年金だ。この場合、障害基礎年金に上乗せして支給される。また、受給対象は身体障害だけではない。がんや糖尿病などの長期療養が必要な病気を患った人も受け取れる。ただし、受給にあたっては、事前に医師の診療を受けておく必要があり、障害等級が1級・2級・3級のいずれかの状態でなければいけない。

●遺族厚生年金

遺族厚生年金とは、「厚生年金」の被保険者が死亡してしまったときに、その方が生計を維持していた遺族が代わって受け取れる年金だ。受給対象者が順位付けされており、該当者の中で最も順位が高い人が受給対象となる。具体的には、第一順位は被保険者(故人)の配偶者、被保険者の子ども。第二順位は被保険者(故人)の父母。以下、第三順位、第四順位とある。

「厚生年金」の加入条件

ここでは、「厚生年金」の加入条件を確認しておきたい。

まず、「厚生年金」に加入するためには、勤務先の事業所が「厚生年金」に加入していなければならない。その上で、以下の条件を満たす必要がある。

・常時雇用されている会社員、または公務員
・70歳未満


なお、外国人であっても上記をクリアしていれば、「厚生年金」の対象者となる。また、70歳以上であっても、「厚生年金」の加入期間が足りずに年金が支給されない人も、不足分を払えば加入できる。

加えて、アルバイトやパートであっても、以下の条件を全て満たしている際には、「厚生年金」への加入が義務付けられている。

・週20時間以上の勤務で、1カ月の所定内賃金が88,000円以上
・従業員数が51名以上の会社に勤務
・学生ではない
・2カ月以上の雇用見込み


これに関連して今、話題になっているのが「106万円の壁」問題だ。この金額を超えると扶養の条件から外れてしまい、自身で社会保険に加入して社会保険料(健康保険料や厚生年金保険料)を支払わなければならなくなる。そのため、年収が106万円以上にならないように抑える人が多くなっている。

「厚生年金」に加入する適用事業所

「厚生年金」に加入する適用事業所は、「強制適用事業所」、「任意適用事業所」、「特定適用事業所」、「任意特定適用事業所」に大別される。それぞれを見ていこう。

●強制適用事業所

強制適用事業所とは、以下のいずれかを指す。

・常時労働者を1人以上雇用している全事業所
代表者1人であっても「厚生年金」に加入する必要がある。

・適用業種に該当し、常時従業員を5人以上雇用する個人事業
ただし、以下のような一部の業種は除かれる
・農林・水産・畜産業
・接客娯楽業(飲食店・旅館・理容業など)
・宗務業(寺社・寺院など)

●任意適用事業所

従業員の半数以上が「厚生年金」の適用事業所になることに同意し、厚生労働大臣の認可を受けることができれば、任意適用事業所となれる。この場合、同意しなかった人もすべて「厚生年金」の被保険者となる。

●特定適用事業所、任意特定適用事業所

「厚生年金」の被保険者数が、常時51人以上在籍する企業を特定適用事業所と呼ぶ。この場合、「1週間の所定労働時間が20時間以上」などの一定の条件に該当する短時間労働者も社会保険への加入が義務付けられている。また、常時51人以下の企業で働く短時間労働者であっても、労使が合意すれば任意特定適用事業所となることができる。

「厚生年金」の保険料率と計算方法

ここでは、「厚生年金」の保険料率と計算方法について取り上げたい。

「厚生年金」は、標準報酬月額または標準賞与額による計算方法で保険料を計算する。標準報酬月額とは、従業員の1カ月の給与額を基に厚生年金保険料を計算した基準となる金額だ。一方、標準賞与額とは、ボーナスなどの賞与(年3回以下)に対する保険料を計算する際の基準となる金額を指す。この仕組みに基づき、該当する等級の「標準報酬月額」、「標準賞与額」に、保険料率(18.300%)を掛けた金額が厚生年金保険料となる。ちなみに、この保険料は従業員に支払う給与から毎月天引きされる。

●標準報酬月額による計算方法

「毎月の保険料額=標準報酬月額×保険料率」として計算するという方法だ。例えば、報酬月額が26万円だとすると、等級は17、標準報酬月額は26万円となる。なので、事業主・被保険者それぞれが支払う厚生年金保険料は、以下のような計算式で算出できる。

(例)
260,000円(標準報酬月額)×18.300%×1/2(労使折半)=23,790円(厚生年金保険料)


なお、毎年4月~6月までの報酬月額の平均を厚生年金保険料率に当てはめたものが標準報酬月額となる。現在の厚生年金保険料率は、以下のとおり。
厚生年金保険料率


4月~6月の報酬月額を算定基礎届によって提出して、毎年、標準報酬月額を見直すことを「定時決定」と言う。「被保険者報酬月額算定基礎届」は毎年7月10日までに、管轄の年金事務所か事務センターに提出する必要がある。

●標準賞与額による計算方法

次に、「賞与の保険料額=標準賞与額×保険料率」として計算する方法だ。例えば、賞与額が39万8,000円の従業員(厚生年金基金なし)だと、等級は24、標準賞与額は41万円となる。なので、事業主・被保険者それぞれが支払う厚生年金保険料は、以下のような計算式で算出できる。
(例)
410,000円(標準賞与額)×18.300%×1/2(労使折半)=37,515円(厚生年金保険料)

「厚生年金(老齢厚生年金)」の受給資格期間と受給開始年齢

続いて、「厚生年金(老齢厚生年金)」をもらえる期間と受給が開始される年齢を説明していく。

●受給資格期間

受給資格期間とは、老齢基礎年金を受給するために最低限必要となる期間を意味する。具体的には、国民年金や「厚生年金」、共済組合などの加入期間を含む保険料納付済期間と保険料免除期間などを合計して10年以上の期間が必要だ。さらに、老齢厚生年金を受給するためには、老齢基礎年金の受給資格期間を満たし、しかも「厚生年金」の被保険者期間が1カ月以上あることが求められる。

●受給開始年齢

「厚生年金(老齢厚生年金)」は、原則として65歳から支給されることになっている。ただし、以下の受給方法も選べる。

【繰上げ受給】
60歳から65歳になるまでの間で月数に応じて年金額が減額される

【繰下げ受給】
66歳以降75歳までの間で月数に応じて年金額が増額される

「厚生年金(老齢厚生年金)」の受給額

ここでは、「厚生年金(老齢厚生年金)」としていくら受け取れるのかを説明したい。結論としては、「厚生年金(老齢厚生年金)の支給額」は、標準報酬月額で定められた保険料によって変動する。基本的には働いていた際に得た総賃金が高いほど高くなる。

●「厚生年金(老齢厚生年金)」の受給額の早見表

「厚生年金(老齢厚生年金)」の受給額の概算は、「平均標準報酬月額×0.005481×加入月数」という計算式で出すことができる。平均年収÷12で該当する標準報酬月額を算定して計算した年額が以下の早見表の数字になる。
厚生年金(老齢厚生年金)の受給額早見表(年額)

厚生年金(老齢厚生年金)の受給額早見表(年額)

●厚生年金保険の受給権者平均年金月額の推移

厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業の概況」を見ると、2022年度(令和4年度)の老齢厚生年金の平均支給月額は14万3,973円、国民年金(基礎年金)の平均支給額は5万6,316円となっており、2.5倍ほどの開きがある。

厚生年金保険の受給権者平均年金月額の推移は以下だ。
「厚生年金」とは? 国民年金との違いや保険料の計算方法、受給額をわかりやすく解説【受給額早見表付き】

「厚生年金」受給のための手続き

最後に、「厚生年金(老齢厚生年金)」を受給するためにはどういった手続きを行えば良いのかを解説したい。

●手続きの流れ

「厚生年金(老齢厚生年金)」を受け取るための請求手続きは労働者自身が行わなければいけない。段取りとしては、65歳の誕生日の3カ月前に日本年金機構から年金請求書が届くので、それに必要事項を記載し必要書類を添付の上、最寄りの年金事務所に提出して手続きを行う。もし、紛失してしまった場合には、日本年金機構のホームページからダウンロードするか、最寄りの年金事務所や年金相談センターで受け取ることができる。ただし、手続きを行わないまま5年間放置してしまうと、その期間の年金を受け取れなくなるので注意したい。

●必要な書類

「厚生年金(老齢厚生年金)」を受け取るために必要書類は、以下の通りとなっている。

【全員共通の必要書類】
・年金請求書(国民年金・厚生年金保険老齢給付)
・戸籍謄本・戸籍抄本・戸籍の記載事項証明書・住民票・住民票の記載事項証明書のいずれか1つ(日本年金機構にマイナンバーが登録されている場合、年金請求書にマイナンバーを記載した場合は不要)
・受給を受ける本人名義の通帳、またはキャッシュカード(コピー可)


【厚生年金加入期間が20年以上で、配偶者または18歳未満の子どもがいる場合に必要な書類】
・戸籍謄本
・世帯全員の住民票の写し(日本年金機構にマイナンバーが登録されている場合、年金請求書にマイナンバーを記載した場合は不要)
・配偶者の、所得証明書、課税証明書、非課税証明書などの収入確認書類(日本年金機構にマイナンバーが登録されている場合、年金請求書にマイナンバーを記載した場合は不要)
・子どもの収入確認書類(日本年金機構にマイナンバーが登録されている場合、年金請求書にマイナンバーを記載した場合は不要)、学生証、在学証明書など(義務教育期間中は不要)


【厚生年金保険の加入期間が20年未満で、配偶者の厚生年金保険(共済年金を含む)の加入期間が20年以上の場合の必要書類】
・戸籍謄本
・世帯全員の住民票の写し(日本年金機構にマイナンバーが登録されている場合、年金請求書にマイナンバーを記載した場合は不要)
・請求者の収入確認書類(日本年金機構にマイナンバーが登録されている場合、年金請求書にマイナンバーを記載した場合は不要)
・所得証明書、課税証明書、非課税証明書など


【その他の場合の必要書類】
・年金手帳(基礎年金番号以外の年金手帳を所持している場合)
・雇用保険被保険者証(雇用保険への加入歴がある場合)
・年金加入期間確認通知書(共済組合への加入歴がある場合)
・年金証書(配偶者を含む他の公的年金を受給している場合)
・医師または歯科医師の診断書(1級、2級の障害を持つ子どもを持つ場合)

まとめ

「厚生年金」は、65歳以上で受け取ることができる公的年金制度だ。将来の生活を支える大切な年金となるので、人事担当者としては十分に留意しておきたい。もらえるはずだった労働者が受け取れなかったりするとトラブルとなる。また、昨今は、年収の壁問題が政局の大きな焦点となっている。具体的には、税金の壁となる103万円、社会保険の壁となる106万円(従業員51人以上の企業)、もう一つの社会保険の壁となる130万円だ。それらを巡って厚生労働省が、どんな改革案を打ち出してくるのか。人事担当者、マネジメント層も注視していく必要があると言える。

よくある質問

●「厚生年金」は毎月いくら払う?

「厚生年金」は、標準報酬月額または標準賞与額による計算方法で保険料を計算する。標準報酬月額とは、従業員の1カ月の給与額を基に厚生年金保険料を計算した基準となる金額だ。一方、標準賞与額とは、ボーナスなどの賞与(年3回以下)に対する保険料を計算する際の基準となる金額を指す。この仕組みに基づき、該当する等級の「標準報酬月額」、「標準賞与額」に、保険料率(18.300%)を掛けた金額が厚生年金保険料となる。

●「厚生年金」を40年間払ったらいくらもらえる?

「厚生年金(老齢厚生年金)」の受給額の年額は、「平均標準報酬月額×0.005481×加入月数」で算出できる。40年間、厚生年金保険に加入した場合は、以下がおおよその年額となる。

生涯の平均年収が200万:126万円
生涯の平均年収が300万:150万円
生涯の平均年収が400万:171万円
生涯の平均年収が500万:189万円
生涯の平均年収が600万:213万円
生涯の平均年収が700万:237万円
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