「アンコンシャス・バイアス」は無意識の偏見や思い込みのことで、本人には自覚が難しいため、放っておくとハラスメントやパフォーマンスの低下などを引き起こしてしまい、組織や周囲にさまざまな弊害をもたらしかねない。それだけに、近年は対策を図る企業が増えている。そこで、本稿では「アンコンシャス・バイアス」について定義や影響、具体例、対策方法を詳細に解説していく。
Head shape with words bias on it.

「アンコンシャス・バイアス」とは

「アンコンシャス・バイアス」とは「無意識バイアス」であり、自分でも気づかないうちに形作られている、ものの見方やとらえ方において生じる歪みや偏りを指す。ベースとなっているのは、本人の過去の経験や知識、価値観、信念だ。それらを基に認知や判断を自動的に行った結果、発言や行動に悪い影響をもたらしてしまう。自分自身ではゆがみや偏りがあるとは思っていないので、「無意識の偏見」、「無意識の思い込み」とも言い換えられる。

●「アンコンシャス・バイアス」の原因

「アンコンシャス・バイアス」が生じる要因は3つあると言われている。一つ目が、「エゴ」だ。自己を守りたいという気持ちの表れといえる。二つ目は「感情スイッチ」。本人が持つこだわりやコンプレックスを意味する。これが刺激されると、人は自分を守りがちになる。三つ目が「習慣や慣習」。長年にわたり慣れ親しんできた考え方や言動が時代にそぐわなくなっても、それを維持してしまう。

●「アンコンシャス・バイアス」が注目される背景

「アンコンシャス・バイアス」は今世界的に注目されている。その大きなきっかけとなったのが、2010年代に米国IT企業で問題視された従業員の人種・性別の偏りだ。原因としてクローズアップされたのが「アンコンシャス・バイアス」の存在だった。ダイバーシティ(多様性)・エクイティ(公正性)・インクルージョン(包含)を重視する「DEI」の動きが世界的に広がっていった。

日本でも最近はダイバーシティやインクルージョンなどの概念が定着してきている上に、働き方も多様化が加速している。それもあって、企業は「アンコンシャス・バイアス」対策を重要視している。

「アンコンシャス・バイアス」が企業・組織に与える悪影響

次に、「アンコンシャス・バイアス」が企業や組織にどのような悪影響を与えるのかを見ていこう。

●人材獲得や定着の阻害

「アンコンシャス・バイアス」によって誤った判断をすると、優秀な人材の獲得や定着を阻害してしまう。結果として、業績の停滞を引き起こす可能性がある。

●公正ではない評価・判断

「アンコンシャス・バイアス」に捉われると、公正な人事評価ができなくなってしまう。それでは、人事評価に対して従業員は不満を抱くようになり、モチベーションの低下や離職を招いてしまう。

●人間関係の悪化

お互いに偏見を押し付け合う組織だと、従業員は自ずとコミュニケーションを取らなくなってしまう。結果として職場の人間関係が悪化し、あまり連携しようとせず、それぞれが自分勝手な行動に走りがちとなる。

●ダイバーシティ促進の阻害

性別や国籍だけを理由とした人事はダイバーシティの促進を阻害するに留まらず、場合によっては法令違反とみなされてしまう。そうした行為が発覚すると、企業としての信頼感は一気に喪失しかねない。

●コンプライアンス違反

価値観の多様性が認められないため、コンプライアンス違反が起こりやすくなってしまう弊害がある。また、ハラスメント行為の発生にもつながりやすい。

「アンコンシャス・バイアス」の代表的な例

ここでは、「アンコンシャス・バイアス」の代表的な例を紹介しよう。

●正常性バイアス

どんな危機的状況に直面しても、自分にとって都合の悪い情報やデータに目を向けなかったり、事態を過小評価したりするバイアスをいう。トラブルに対する反応が遅くなるので、被害を拡大させてしまう可能性がある。

●集団同調性バイアス

集団に所属していると、自分の意見・意思を伝えず、むしろ周囲に同調しがちになったり、同調しないといけないのでは考えてしまったりするバイアスを言う。周りの皆がしているから自分もしても良い」といった判断が、誤った行動をもたらすことがあり得る。

●アインシュテルング効果

自分が慣れ親しんだ考え方やものの見方にこだわってしまい、それ以外の考え方や見方を無視しがちなバイアスをいう。斬新なアイデアや他者の意見を受け入れられない、といった弊害をもたらしてしまう。

●ステレオタイプバイアス

特定のグループに所属するものは皆、属性ごとに共通した特徴を持っているという固定観念によって物事を判断してしまうバイアスをいう。これが生じると、判断を間違えてしまったり、周囲に不適切な発言・態度をとったりすることがあり得る。

●コミットメントのエスカレーション

これまでに自分が行った意思決定を正当化し、自分の立場にこだわってしまうバイアスをいう。時には、損失が出ることがわかっても撤退できなかったりする。

●確証バイアス

自分の仮説や価値観、信念にとって好都合な意見や情報にばかり目を向け、反証する意見や情報を避けてしまうバイアスをいう。確証バイアスが起きてしまうと、客観的・科学的な事実が否定されがちとなり、意思決定を誤らせてしまう。

●権威バイアス

地位や肩書きに基づいて、偏った評価をしてしまうバイアスをいう。「社長が言うことに間違いはない」、「あの部長の言う通りにしていれば悪くは扱われない」などと、権威のある人の言葉を鵜呑みにしてしまう。

●ハロー効果

特定の際立った特徴に基づいて、実態とかけ離れた評価をしてしまうバイアスをいう。評価がプラスに偏るポジティブハロー効果とマイナスに偏るネガティブハロー効果がある。これが生じると、人の本質を見極められなくなってしまう。


●慈悲的差別

自分よりも弱い立場にいる他者に対して、不要な気づかいや配慮をしてしまうバイアスをいう。これによって、気づかぬうちに他者の機会を奪ったり、傷つけたりするリスクが生まれてしまう。

●インポスター症候群

自分を過小評価し、勝手に可能性を閉ざしてしまうバイアスをいう。上司は「大丈夫」と言ってくれるが、私にはマネージャーは務まるはずがないと考えてしまうのもその一例だ。

【場面別】職場での「アンコンシャス・バイアス」の具体例

ここでは、場面別に職場で起きがちなアンコンシャス・バイアスの例を見ていこう。

●人材育成

人材育成にあたっても思い込みをしがちだ。特にバイアスが作用しやすいのは、女性のキャリア形成に関してといえる。本人の意見を何も聞かず、「女性は結婚や出産をすると退職をしがちだ」、「子どもがいる女性を管理職に昇格させると本人の負担となる」と勝手に判断してしまう上司が多かったりする。

●人事評価

「対象者の人柄が好きだから」といった判断で評価をすることはないだろうか。実はこれは、バイアスを含む人事評価の典型的なパターンだ。また、過去のイメージにひきつられて、どれほど成果を出したとしても低い評価を下すということも、同様といえる。

●採用

出身大学の偏差値が高い、前職が一流企業などといった話を聞いた時点で、「優秀に違いない」と選考担当者が思い込んでしまうと、それ以降は本人を見極めるという思考にならなかったりする。結果的に、入社後のミスマッチにつながるといったケースが少なくない。

●人員配置・昇進昇格

人員配置や昇進昇格にあたり、従業員の年齢や社歴、性別など業務内容に関係のない根拠に基づいて不当に判断することは良くある。あくまでも仕事における能力・適性を踏まえて公平にジャッジしなければ、誰も納得しないであろう。

「アンコンシャス・バイアス」解消に取り組む効果

ここでは、「アンコンシャス・バイアス」の解消に取り組むとどのような効果を期待できるのかを解説していきたい。

●マネジメントの品質向上

「アンコンシャス・バイアス」を認識し、解消することで、管理職が先入観による判断をしなくなる。評価や昇進において、実績や能力を公平に見極める目が養われ、適材適所の人材配置が可能になる。結果として、メンバーからの信頼感も高まり、組織の一体感が醸成される。

●ハラスメントの予防・防止

無意識の偏見に気づくことで、ハラスメント的な言動や態度を未然に防ぐことができる。自分の言動が相手にどう受け取られるかを意識するようになり、コミュニケーションの質が向上し、心理的安全性の高い職場環境を実現できる。

●インクルーシブな職場づくり

「アンコンシャス・バイアス」を解消しようと理解を深めることが、従業員一人ひとりの個性や強みを尊重する文化の醸成につながる。

●ダイバーシティな環境の構築

「アンコンシャス・バイアス」に対処することで、採用や昇進において多様な人材を公平に評価できるようになる。性別、年齢、国籍、文化的背景などにかかわらず、能力や適性に基づいた人材活用が進み、組織の多様性が自然と高まるのだ。

●組織の持続的な成長や業績向上

「アンコンシャス・バイアス」を解消できれば、多様な視点から意思決定ができるようになるため、自ずとイノベーションが促進する。顧客の変化に対応した商品・サービス開発や、従業員エンゲージメントの向上による離職率の低下を図れ、組織の持続的な成長や業績向上につながる。

「アンコンシャス・バイアス」への対応方法・取り組み

最後に、「アンコンシャス・バイアス」にどう対応すべきかを紹介したい。

【個人での対応方法・取り組み】

●知識を深める

まずは、「アンコンシャス・バイアス」に関する基本的な知識を把握する必要がある。とかく気づきにくい「アンコンシャス・バイアス」であるが、「これは自分に当てはまるかもしれない」と従業員に注意を促しやすくなるはずだ。

●自覚・認識する

自分自身や組織のメンバーが、「アンコンシャス・バイアス」を抱いていないかという意識を持つことも重要だ。少しでも可能性があるなら、早めに対処した方がリスクも少なくて済む。

【組織での対応方法・取り組み】

●社内アンケート

従業員に「アンコンシャス・バイアス」への意識を植え付けたり、自社の状況把握に役立つのが、社内向けのアンケートだ。いくつかの具体例を示し、自分がそうした言動をしていないかをチェックしてもらうだけでも良いだろう。結果を数値化することで、社内の傾向もわかってくる。

●話し合い

社内で起きている問題や今後起こり得るかもしれないトラブルを把握するために、従業員との話し合いの場を設けるのも一法だ。当然ながら、そうした場では従業員が安心して話せるよう心理的安全性を確保することが重要となってくる。

●研修・トレーニング

座学研修やロールプレイングなどの研修・トレーニングも良策だ。もちろん、社内に専門家がいない企業も多いことだろう。その場合には、外部研修や社外の専門家の力を借りて客観的かつ体制的な知識を習得する教育を進めるようにしたい。すぐには効果が出ないかもしれないので、継続的な取り組みが求められる。

まとめ

「アンコンシャス・バイアス」は、組織や個人にさまざまな悪影響をもたらす。問題は、無意識のうちに誰であっても抱いてしまうことだ。問題が深刻化しないためにどう対応するかといえば、従業員自身が意識的に改善を試みるしかない。まずは、企業として「アンコンシャス・バイアス」について理解する機会を設けることだ。知識を得ることで、意識するきっかけを与えられる。組織全体の対応力や理解力を底上げしていくためにも、まずは第一歩を踏み出していただきたい。



よくある質問

●職場でよくある「アンコンシャス・バイアス」の事例は?

職場でよく見られる「アンコンシャス・バイアス」の例としては、以下がある。
・自分と似た人を優遇する
・「女性には一般職が向いている」といった偏見をする
・直近の成果だけを重視して評価する
・性別や年齢で判断する
・「定時で帰る社員は怠けている」と決めつける
・「お茶出しは女性の仕事」という偏見をする。
・子育て中の女性に転勤を避けさせる

●「アンコンシャス・バイアス」を改善するにはどうすればいい?

「アンコンシャス・バイアス」を改善するためには、個人としては、「アンコンシャス・バイアスに関する基本的な知識を把握する」ことから始まり、自分自身や組織のメンバーが、「アンコンシャス・バイアス」を抱いていないかという意識を持つ。組織としては、社内アンケートや話し合いで社内で起きている問題や今後起こり得るかもしれないトラブルを把握し、研修やトレーニングによって客観的かつ体制的な知識を習得する教育を進める、などがある。
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