社員から「退職の申し出」があった場合、人事担当者はどのような対応が必要なのでしょうか。“実務的な観点”から、全2回にわたり解説します。前編は「退職実務における一般的な内容」を、後編は「出産手当金や傷病手当金を受給している場合の対応」や「退職によくあるトラブルとその対策」などについて噛み砕いていきます。
【退職時の実務:前編】退職金や社会保険はどうなる? 社員から「退職の申し出」があった場合の手続きとは

退職時の対応・1)退職日を確定する

社員から退職の申し出があった場合、「退職日の確定」が何より重要です。後述する「社会保険の資格喪失日」や「退職金の勤務期間の計算」等に関係してきますし、業務の引き継ぎについても影響してくるからです。

具体的には本人に「退職願」を提出してもらいます。口頭で退職のやり取りをすると、本人と担当者や所属部署との間で退職日について認識が違ってくる可能性もあります。そのため、必ず書面(客観的な記録)でもらうようにしましょう。

退職時の対応・2)貸与物等の回収

社員証、キー、パソコン、作業着等、会社から貸与したものを回収します。事前に回収リストを作成しておくと説明もしやすいですし、回収漏れもなくせます。

健康保険証についてですが、2024(令和6)年12月2日から「マイナ保険証」が始まり、この日以降は従来の保健証は発行されなくなりました。一方、2024年12月1日までに健康保険証が発行されている場合には、健康保険の被扶養者となっているご家族分も含め、会社へ返却してもらいましょう。

従来の健康保険証も、2025(令和7)年12月1日までは使用できます。それ以降に退職する場合には、会社へ返却してもらう必要はありません。ご自身で破棄してもらう等の案内をするとよいでしょう。

退職時の対応・3)退職後の健康保険についての説明

退職後の健康保険については、次の4つのパターンがあります。健康保険(証)が退職後どうなるのかは、本人はとても気になるところです。そのため、4つのパターンがあること、どれかを選択してもらう必要があること、をしっかり説明しましょう。

(a)再就職先の健康保険に加入する

加入手続きは再就職先の事業所が行います。

(b)市区町村の国民健康保険に加入

加入手続きは本人が市区町村の窓口で行います。

(c)健康保険の被扶養者になる

家族が健康保険の被保険者であった場合、その扶養家族として被扶養者になります。手続きは当該家族の勤務している会社が行います。

(d)退職前の会社の健康保険に継続して加入

健康保険の被保険者が、退職した後も、希望によって、引き続き最大2年間、退職前に加入していた健康保険の被保険者になることができる制度(任意継続被保険者制度)があります。加入するためには各種条件がありますので、自社が加入している健康保険のホームページなどを確認しておきましょう。

退職時の対応・4)退職金の支給

退職金の制度がある場合、「退職金規程」などに基づき支給します。本人は、いつ退職金が支払われるのか(振り込まれるのか)に関心があります。そのため、例えば「退職金計算書」のような書類を作成し、退職金額などとともに支払方法や支払日を明記しておくとよいでしょう。

退職時の対応・5)社会保険の資格喪失手続き

社会保険(健康保険・厚生年金保険)の資格喪失手続きを行います。提出時期は、退職日から5日以内です。

本人(及び会社)が負担する社会保険料は、被保険者資格を喪失した日(退職日の翌日)の属する月の前月まで発生します。例えば、1月31日が退職日の場合は、1月分まで保険料がかかります。1月30日が退職日の場合は、12月分までとなります。最終給与から何月分の保険料を支払うのか、過控除や控除漏れが無いよう注意しましょう。

なお、賞与に対する社会保険料ですが、退職月に支給する賞与は、月末に退職する場合を除き、保険料控除の対象となりません。

退職時の対応・6)雇用保険の資格喪失手続き

雇用保険についても資格喪失手続きを行います。提出時期は、退職日から10日以内です。

本人が離職票(雇用保険の基本手当の受給申請の際に必要となる書類)の発行を希望した場合、「雇用保険被保険者資格喪失届」とともに、「離職証明書」をハローワークへ届け出る必要があります。

この離職証明書は、退職者本人の記名押印または自筆による署名が必要です。退職日までに準備が必要なので早めに作成に着手しましょう。もし、本人の退職後に署名等が取れない場合は、「本人退職後のため」などの理由を所定の欄に記入した上で、事業主の署名等をすることによって届出が認められます。

雇用保険料は、社会保険料とは異なり、給与を支払うごとに徴収する必要があります。そのため、最終給与からも忘れずに天引きするようにしましょう。

また、2025年1月からは、希望する離職者には離職票をハローワークからマイナポータルに直接送信するサービスが始まっています。電子申請による喪失手続きが必要など、各種要件はありますが、担当者にとっては離職票を郵送する手間がなくなりますし、本人にとってもより早く基本手当の受給手続きを行うことができるなどのメリットがあります。

退職時の対応・7)税金関係(所得税・住民税)

(a)所得税(源泉徴収票の発行)

本人に対して、その年に会社で支払った給与や源泉徴収した所得税の情報を記載した「源泉徴収票」を発行します。退職者が翌年の確定申告や新しい勤務先で年末調整を行う際に必要となります。

(b)住民税

住民税の徴収期間は「6月から翌年5月」となっています。そのため退職月に応じて徴収の仕方が違ってきますので注意が必要です。

(ア)退職月が1月~5月の場合
特別徴収していない残りの住民税全額を、最終給与から控除する。例えば、2月に退職する場合、2月~5月の4ヵ月分の住民税を最終給与から天引き。
(イ)退職月が6月~12月の場合
普通徴収に切り替えるか、残りの期間分をすべて特別徴収として最終給与から天引きするか、本人に選択してもらう。

住民税は、退職後に再就職しない、あるいは退職後の収入が減る場合、本人による納税が困難になる可能性があります。そのため、本人に事前に上記のような住民税の仕組みや対応方法を説明することが重要です。

退職時の対応・8)労務システムの更新と各種アカウントの停止

退職者に関するデータを、社内の労務システム等に反映させます。また、退職者のメールアカウントや内部システムへのアクセスについても「いつ停止するか」を決めておき、確実に実行します。

退職時の対応・9)退職理由の分析

「退職願」には、「一身上の都合により」等の退職理由が書かれていることがほとんどです。今後の採用や労務管理に役立てるため、具体的な退職理由を聞いておくとよいでしょう。本当の退職理由を教えてくれない可能性もありますが、データを取り続け分析する姿勢が大切だと考えます。
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