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企業経営と人材

オリックス株式会社 シニア・チェアマン 宮内義彦氏

日本企業の収益性を欧米並みにするために必要なこと

近頃、日本企業に欠けているものの一つとして、“コーポレートガバナンス”という言葉が頻繁に使われるようになってきました。日本の企業経営は、欧米と比べて収益性が低く、ROEで比較すると半分程度というのが実状であり、“コーポレートガバナンス”の制度の弱さがその要因のひとつではないかと言われています。世界の投資家に日本企業に投資してもらうためには、収益性を欧米並み、あるいはそれ以上に引き上げる努力をしなければなりません。

ではなぜ日本企業の利益率は低いのか。経営者の能力に問題があるのか、日本経済の土壌に問題があるのか、あるいは両方なのか。もしも土壌が悪いのなら、経済構造を変える必要があります。スポーツに例えるなら、グラウンドを整備しないと良いプレーはできないということです。一方、グラウンドが立派でもプレイヤーが下手だと、やはり良いプレーは望めません。いずれにせよ、世界水準で見れば、その両方に少なからず疑問符がつけられているのではないでしょうか。

移り変わる日本の経営の形

日本の経営は、1955年からバブルが崩壊する1990年くらいまで、35年間に渡って快進撃を続けてきた歴史があります。その間の日本企業の経営力は世界に冠たるものでした。世界的な企業や世界的な経営者がたくさん出現しました。つまり日本の経営力は、本来的に弱いというわけではないのです。しかしバブル崩壊により、日本の経営は経費削減やリストラなど内向き志向になり、結果じわじわと収益性が落ちていったというのが実態でしょう。

また世界の大製造基地だった日本ですが、バブル崩壊後はその地位も東南アジアや中国に奪われてしまいました。日本経済を牽引してきた製造業には、高品質な製品を作る能力、大量生産する能力、そして安く提供する能力がありました。そしてそれらの能力は、そこで働く人々、つまり非常に技術の高い、かつ均質な人々によって支えられていたのです。

知識集約型社会に適合した人材戦略を

優秀な若者を大学卒業と同時に大量に採用して、我が社の色に染め、同期の桜として肩を組ませ、朝から晩まで会社人間として働いてもらう——それが今までの日本企業の人材戦略でした。しかし今、日本は工業化社会から知識集約型社会へと移行しています。従来のような人材採用・人材育成で、果たして知識集約型社会に適応できるような人材が生まれるのか、大きな疑問です。世界の人材に目を向けると、平均的に良くできて色々なことがわかる人間より、何か一つのことに突出したとんがった人間が、会社を、そして世の中を引っ張っています。これからの人材に求められるのは多様性や専門性です。日本企業が世界で勝ち抜いていくためには、そうした人材を採用および育成する必要があります。

グローバル人材の育成が急務

今や日本企業も、大企業だろうと中小企業だろうとグローバリズムの影響を受けないで過ごすことはできません。よって我々はグローバリズムに対応した人材を作りあげる必要があります。かつては自動車やテレビなど、日本の素晴らしい製品を見せれば、黙っていても海外で物を売ることができました。しかし知識集約型社会を迎えた今、日本人は海外で工業製品に代わって、日本独自のシステムやサービスなどを売ることになります。例えば宅配便は世界に冠たるものですし、レストランチェーンなども日本で高度に発達したものです。こうした形のないものの魅力を海外の人々に説明し、評価してもらい、売り切ることができる人材をいかに育てるか。そして彼らが会社に定着し、伸び伸びと専門性を発揮するためにはどうしたらいいのか。今、新しい人事、新しい組織の在り方が問われています。

宮内義彦氏

オリックス株式会社
シニア・チェアマン
宮内義彦氏

1935年神戸市生まれ。58年関西学院大学商学部卒業。60年ワシントン大学経営学部大学院修士課程修了後、日綿實業(現双日)入社。64年オリエント・リース(現オリックス)入社。70年取締役、80年代表取締役社長・グループCEO、2000年代表取締役会長・グループCEO、03年取締役兼代表執行役会長・グループCEOを経て、14年シニア・チェアマン就任、現在に至る。これまで総合規制改革会議議長など数々の要職を歴任。現在、ドリームインキュベータ、ACCESSなどの取締役のほか、新日本フィルハーモニー交響楽団理事長などを兼務。著書に『明日を追う』(日本経済新聞社出版社)、『経営論』(東洋経済新報社)、『リースの知識』(日本経済新聞社出版社)、『グッドリスクをとりなさい!』(プレジデント社)など。