株式会社IICパートナーズ
代表取締役社長
中村淳一郎 氏
1996年早大商学部卒。(現)有限責任監査法人トーマツを経て、現職。退職給付会計関連コンサルティング実務と監査実務の経験に基づいた「本質をつく解説」と「体系的に整理した資料」に定評。IFRS対応退職給付会計講座(アビタス社)など講演回数150回超。「週刊経営財務」、「CFO FORUM」等で執筆。公認会計士、DCアドバイザー、日本アクチュアリー会研究会員。
株式会社IICパートナーズ
代表取締役社長 中村淳一郎氏
企業年金・退職金について、深く認識している経営者や人事担当者は少ないかもしれません。まして、コストばかりがかかる負の遺産(レガシーコスト)だと考えている経営者もいるでしょう。しかし、企業年金・退職金を取り巻く環境は大きく変わり、考え方によっては人事戦略上の大きなツールとなる可能性すらあります。株式会社IICパートナーズ代表取締役社長の中村淳一郎氏は、企業年金・退職金の価値=パフォーマンス/コストと説き、企業年金・退職金を設けている目的達成度となるパフォーマンスを上げることが、優秀な人材の獲得にも繋がると語ります。
まず、企業年金・退職金への認識についてです。そもそも従業員の方は、自分の会社に企業年金や退職金制度があるのかを知らない、あるいは、どのように働けば、増えていくのかを知らないことが多く見受けられます。一方、経営者は企業年金・退職金に対して、ネガティブなイメージを持っていたり、レガシーコスト(負の遺産)だと感じているのではないでしょうか。人事担当者からすれば、実務が回れば良く、経営に役立っているのか、さほど意識していないといった状況もあるのではないかと思います。
しかし、本当にこれでいいのでしょうか。現在、企業年金・退職金を取り巻く環境は大きく変わってきています。1つ目は少子高齢化です。2015年現在、人口に占める65歳以上の割合は26.8%ですが、2060年になると39.9%まで上昇すると予想されています。これは、高齢者1人に対する現役世代の人数が1.3人ということになります。
2つ目は、これを受けて公的年金のスリム化が避けられない状況となっていることです。これは新聞などでも報じられています。厚生年金の現役世代の収入に対する割合を示した所得代替率は、2014年ですと62.7%ですが、最もいいシミュレーションで計算しても、2043年には50.9%になります。ご存じの通り、老後の所得保障は国が行なう公的年金、企業が行なう企業年金・退職金、個人での自助努力の3本立てになっていますが、公的年金が縮小すれば、自助努力で補うことが必要となります。そういった状況においては、企業年金・退職金の相対的な価値が増すと考えられます。
3つ目の環境の変化は、厚生年金基金の実質廃止です。代行割れの基金の存在が常態化し、AIJ事件をきっかけに制度廃止の議論が進みました。そこで、2013年6月に「公的年金制度の健全性及び信頼性の確保のための厚生年金保険法等の一部を改正する法律」が成立。2014年4月より施行されています。
4つ目は直近の法案提出です。2015年4月3日に、「確定拠出年金等の一部を改正する法律案」が閣議決定され、国会へ提出されました。この法律案の概要は次の通りです。
5つ目は退職給付会計基準の見直しです。2014年3月に退職給付会計基準の見直しが大幅に行なわれました。これは、一言でいうと退職金・年金のリスクを透明化する改正です。隠れ負債を開示し、これまで以上に退職給付の実態を反映した数字になるよう改正されたわけです。さらに、国際会計基準(IFRS)はもっと開示が細かく、年金のリスク管理に関しても開示しなければなりません。このIFRSの適用社数が伸びていて、2015年には見込みも含めると約110社になる予定です。退職会計基準の改正やIFRSの適用社数が増えることで、企業年金・退職金の実態が株主や投資家の目に触れることになります。
6つ目は労働市場の変化です。2015年4月には有効求人倍率が1.17倍になりました。これは、1992年3月以来、23年ぶりの高水準です。企業の正社員採用意向は2008年度以来7年ぶりの6割超えで、大企業では8割を超えています。そして、業績見通しの下振れ材料として人手不足が懸念されるようになってきました。
1996年早大商学部卒。(現)有限責任監査法人トーマツを経て、現職。退職給付会計関連コンサルティング実務と監査実務の経験に基づいた「本質をつく解説」と「体系的に整理した資料」に定評。IFRS対応退職給付会計講座(アビタス社)など講演回数150回超。「週刊経営財務」、「CFO FORUM」等で執筆。公認会計士、DCアドバイザー、日本アクチュアリー会研究会員。