株式会社すかいらーく
執行役員 人財本部 マネージングディレクター
櫻井 功 氏
株式会社三和銀行、日本GE株式会社、シスコシステムズ株式会社(当時)、 HSBC Japan など、内外資大手複数企業の人事において人事制度改革、タレントマネジメント、組織開発などのプロジェクトをリードしてきた。現在はすかいらーくにおいて大規模な人事制度改革、人事プロセス改革を推進している。
テーブルレストランを約3000店舗展開し、国内で年間約4億人ものお客様が利用されているすかいらーくグループ。そんな同社が、人財と企業の成長をドライブさせるために、人事制度をより活力あるものへと抜本改革しました。果たしてすかいらーくの新たな人財ポートフォリオ戦略とはどんなものなのか。中央大学大学院・戦略経営研究科客員教授の楠田祐氏を聞き手に、同社人財本部マネージングディレクターの櫻井功氏にお話を伺いました。
現在すかいらーくグループは全国に何店舗あるのですか?
櫻井3000店を少し超えたところです。
働いている方はのべ何人くらい?
櫻井社員が約5500人で、クルー(アルバイト)まで含めると約10万人です。
それほど大勢の人が働いている中での、人事の役割や特徴はどういったものになるのでしょうか?
櫻井約10万人いるクルーの方々のうち年間4万5千人ほどが退職します。つまり1年で約4.5万人が入れ替わるというサイクルが毎年続いているわけです。単純に退職率だけ見ると非常に高く見えますが、我々のようなビジネスは基本的に学生さんに多く依存しておりますので、卒業と同時であったり、長い休みが終わると同時に辞められる方が相当数いるのは、ビジネスモデルとして当たり前のことなんです。それを採用し続けていくということが一つの特徴です。また、日本全国に店舗がありますので、クルー一人ひとりに対する教育やコミュニケーションにとても時間がかかるという点も大きな特徴ではないでしょうか。
そういった学生さんをはじめとするクルーの方たちが現場で一番稼いでくれるわけですから、彼らに対する教育やリテンションなどにも工夫が必要となりますね。
櫻井クルー定着のための施策として、マネジャーが入社直後に時間をかけて十分にトレーニングし、その達成度合いを見える化し、きちんと認知してあげる仕組みを作りました。そのプロセスの中で、個人の成長実感が得られるようになっています。
その仕組みによって何が変わりましたか?
櫻井早期退職率が非常に下がりました。例えばクルーの場合、1年に約4.5万人が辞めるという状態の中で、早期退職率が下がるだけで劇的にクルー採用・教育に関わるコストが削減できます。一つは求人媒体費などにかかる採用コスト、もう一つは新しく入ったクルーの方を教育するための見えないコスト、つまり店舗マネジャーやトレーナーの教育に関わるコストです。さらに、これが最も大事なことですが、経験のあるクルーが一人でも多く長く続けてくれれば、その分店舗のサービス品質の向上に繋がり、新人クルーへの教育なども含め好循環が生まれてくる、ということになるわけです。
今回改革された新しい人事制度についてご説明ください。
櫻井昨年4月に新たな評価制度を導入し、さらに今年4月から新たな等級制度及び報酬制度を本格的にスタートさせました。評価制度の内容は、期待人財像・成果の明示と、9Boxによる総合的な人財評価です。等級制度は、人財の最適配置・適財適所、ステップの明示、働き方の選択とチャレンジへの柔軟な対応を可能にしました。報酬制度は、「マーケット・ペイ」「ペイ・フォー・パフォーマンス」「インセンティブ」の理念をもとに改定いたしました。 今回の新しい制度では、「シンプル」「フレキシブル」「フェア」「オープン」という4つのキーワードを重視し、今後導入を予定している制度に関しても、これらのキーワードに沿っているか常に確認しながら進めていきたいと思っています。
特に大きく変わった部分や改革のテーマになった部分はどんなところでしょうか?
櫻井これは、時代と企業の状態からの要請の結果ですからどちらがいい・悪いではないことを最初に申しあげておきますが、今まで当社には評価に結び付いた細かい賃金テーブルがあり、評価により等級(号数)の変化があるため、必ずしも社員に上昇感を与えるのに適したものではなかったかもしれません。それを今の雇用環境や労働者意識を前提に完全に改定し、昇給率に幅を持たせ、かつ160くらいあった号数に基づく賃金テーブルを7つにくくりました。
これまでは、新卒で入社した社員が就業規則や賃金規定をよく読んで理解してしまうと、「自分は頑張ってもここまでしか行けない」というのが見えてしまう仕組みでした。それでは将来に対する大きな夢や希望を持ちにくい。我々のようなビジネスは、若い人たちでも希望を持って生き生きと活躍できることが重要なんです。将来に対する希望と、コンペンセーションに対する安心感、上昇感を持って働ける仕組みを作ることが、今回の制度改革における一つのテーマでした。
そしてもう一つは、中間管理職への権限委譲です。中間管理職の人たちがピープルマネジャーとして機能するためには、彼らにもっと権限を持たせる必要があります。当社では、中間管理職に対して評価権限や給与・ボーナスの決定権限など権限委譲を進めていく方針です。
現在、中間管理職はどのくらいいるのですか?
櫻井マネジャーを束ねるエリアマネジャーが日本全国に約250人おり、さらにその上のフィールドオペレーションリーダーやフィールドオペレーションディレクターなども合わせると、トータルで300人くらいです。
その300人の方々が新しい制度を完全に理解し、変わっていくまでには、ある程度の時間を要するでしょうね。
櫻井そう思います。当社は、以前はカンパニー制であったため、カンパニーごとに制度の進化の方向性もそのスピードも若干異なりました。つまり300人の中間管理職の人たちはそれぞれ違うところから集まってきていて、そのような中で人に対する運営の根本思想が変化したわけですから、新制度に馴染みのないみなさんにとって最初はとまどいを感じてしまうかもしれません。
今までは上意下達のマネジメントだったのが、今回の新制度により承認という方向に変わったということでしょうか。しかしそういうカルチャーで育ってきた人たちが、そこにシフトするのは簡単ではないでしょうね。
櫻井そもそも従来の仕組みが絶対に悪いとは思っていません。3000もの店舗を動かすとなると、それはある程度、上意下達の仕組みにしないと機能しませんから。しかし単純に上の言っていることだけをやっていればいいのか、もっと自分で判断して動く——ということも問うていかないと、人は育たないと思います。
今回の新制度では、キャリア転向もしやすくなったそうですね。
櫻井はい。それも今回の制度の目玉の一つです。今までのキャリア運用は工場だったら工場、店舗だったら店舗、本部だったら本部と比較的固定化していたのですが、それぞれの人生や成長のステージ、希望に応じて従来よりも自由にキャリア転向ができる仕組みにしました。それともう一つは、我々がIC(Individual Contributor)と呼んでいる、ラインを持たない専門職やシニア等級を用意しました。例えば「購買」や「衛生」や「製造設備」のそれぞれの専門分野で、いわゆる「匠」と呼ばれるような専門的スキルに長けた方々がいらっしゃいます。従来の制度では部下を持ったり、部門の長にならないと、等級が上がらない仕組みだったのですが、専門的スキルに長けた方々に必ずしもマネジメントをもやっていただかなければならないとは限りません。そのため今回、部下を持たなくてもその専門性により等級が上がっていく仕組みも導入いたしました。
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株式会社三和銀行、日本GE株式会社、シスコシステムズ株式会社(当時)、 HSBC Japan など、内外資大手複数企業の人事において人事制度改革、タレントマネジメント、組織開発などのプロジェクトをリードしてきた。現在はすかいらーくにおいて大規模な人事制度改革、人事プロセス改革を推進している。