日本の採用市場は、世界から取り残されている
はじめに、日本の採用市場についての見解をお聞かせいただけますか。
今回の講演タイトルにもある通り、私はもともと人材紹介会社に在籍しヘッドハンティングに携わっておりました。その後、エグゼクティブ層に特化した人材紹介会社を立ち上げて経営に携わり、2012 年にビズリーチに参画、現在は管理職・グローバル人材に特化した会員制転職サイト「ビズリーチ」を中心にキャリア事業全体を統括しています。
グローバルにビジネスを展開している世界3万8,000社ほどの企業に、「採用が難しいと思う国はどこか」と聞いたアンケートがあります。グローバルでのアベレージは35%でしたが、トップは日本で85%の企業が「日本は採用が難しい」と感じているという結果が出てきました。『まさにこれが現状ではないか』、『日本の採用市場は世界から取り残されているのではないか』と思いました。
日本での採用はなぜ難しいのか…。私自身がヘッドハンター時代に違和感を持ちながら気づいていったストーリーとともに、「日本の採用は、なぜこんなに非効率かつコスト高なのか」「そんな市場のなかで、人材獲得競争に勝ち抜いていくためにはどうしたらいいのか」を紐解いていきたいと思います。
人材紹介業のビジネスモデルに対して抱いた違和感の正体と、その解決策
ヘッドハンター時代に、とまどいになられたことがあるとお聞きしましたが…?
もともと私が就職したのは、リクルート出身の方が経営する小さな人材紹介会社でした。新卒でテレアポをして経営者の方々とお会いする一方で、求職者の方々と面談、企業を紹介し、新卒2ヶ月目に初めての売上が上がり伸びていきました。履歴書をひたすらめくり、この会社にいい人はいないかと探して紹介するだけなのに「このビジネスモデルはすごい。でも自分の付加価値って何だろう」と思ったことが最初のとまどいでした。
もうひとつは、人材紹介会社のお客様は「企業」なのか「求職者」なのかということです。人材紹介会社は企業からフィーをいただいていますので、お客様は企業であるというべきところですが、キャリアカウンセラーとして求職者と面談するときは、「あなたのために私は一生懸命頑張ります。ご希望を聞かせてください」と、あたかも求職者が自分たちのお客様であるかのようなコミュニケーションを取っていることですね。
疑問を感じていた私は、そもそも人材紹介業とはどのように始まったのかを調べてみました。人材紹介業の発祥はアメリカで、マッキンゼーやボストンコンサルティングといった戦略コンサルティングファームの中にあった、ヘッドハンティングやサーチといわれる1部門が始まりでした。要は、企業の経営課題を解決するためにいろいろな提案をする中で、人材に関するソリューションが必要であれば人材を紹介していたのです。その人たちが独立し、いま世界的に展開しているサーチファームというものをつくっていったとわかったわけです。
そこで「企業がお客様」という観点に立たれたわけですね?
その通りです。だったらそのように人材紹介業を行う方がいいと思い独立しました。会社を始めて最初に「お客様は企業である」と定義し、求職者の方と面談するときは「私はある企業様からこのような方を探してほしいとご依頼を受けています。ですから極端な話、ここでお断りすることもあります」とお話しするようなスタンスでやってきました。
でも、本来ならもっとたくさんの求職者がいて、人材を求めるたくさんの企業があるにもかかわらず、「自分が紹介できるところは本当に少ない」「人材紹介業は可視化されていないのではないか」と、常々感じていました。
そんなときにビズリーチと接点を持たれたと…。
そうですね、そんなときに出会ったのが、ビズリーチ代表の南壮一郎でした。南は、それまでヘッドハンター向けに提供していた求職者のデータベースを企業に公開すると言いました。人材紹介会社向けにデータベースを公開する企業はたくさんありますが、「なぜ求人企業に公開するのか?と同業の仲間たちは思ったようですが、私は「確かに公開した方がいい」と思いました。
南が言うには、これは小売業で起こったことと同じ。かつては売り手と消費者の間にたくさんの問屋が入っていたのが、インターネットが普及し、楽天やAmazon といったeコマースの企業が出てくることによって企業が直接消費者に販売できるようになった。つまり流通業界に革命が起きたのです。そう聞いて調べると、海外ではすでに10 年以上前からインターネット上でLinkedIn (リンクトイン)を始め、人材を求める企業と求職者が直接つながれるプラットフォームがあり、活発に使われていました。
人材紹介業は、可視化されたプラットフォームがあれば、あらゆる企業、あらゆる個人の方がお互いに直接アプローチできます。また、そうなることによって海外では人材紹介の料率が、特に若年層に関してはどんどん安くなっています。大手サーチファームでは35%、40%ということもありますが、現在は10%未満という企業も出ています。