高い業績目標を達成するための人材育成や組織強化の解決策として、社員の会社への愛着や貢献意欲を意味する「エンゲージメント向上」にすでに取り組んでいらっしゃる企業も多いことと思います。しかし、社員における会社への帰属意識が変化する中、研修の導入や制度面の改善だけでは、エンゲージメントを高めるには不十分だと感じている経営幹部や人事担当の方も多いのではないでしょうか。現代において、エンゲージメントを向上させるには、いかに「会社が個人に寄り添い、個人の幸せを叶えていけるか」にかかっています。では、日々の業務の中で社員とどのように向き合えばエンゲージメントは達成できるのでしょうか。タカマツハウスで実践している内容をもとに、「社員との向き合い方」のヒントとなるポイントを全5回にわたってご紹介していきます。第2回目は、「全員がパフォーマンスを発揮できる社内環境」をテーマにお伝えします。
「朝礼」がエンゲージメント向上のカギを握っている?
金田 健也
著者:

タカマツハウス株式会社 取締役・専務執行役員 金田 健也

住宅メーカーの2トップである大和ハウス工業出身。大和ハウス工業では、戸建住宅事業のマーケティング部門の責任者を務めたのち、埼玉・横浜の住宅事業部長を歴任。2019年、タカマツハウス執行役員に就任。2022年3月期決算において売上高約80億円・営業利益約1億円の黒字化に成功(事業開始から3年)。2024年3月期決算では売上高269億円を達成。実質「5年で年商269億円」を達成。従業員3人から始まったタカマツハウスは現在従業員数130名を超え、成長を続けている。
タカマツハウス株式会社

社員のエンゲージメントを向上するには「成果が出せない社員」にこそ目を向ける

どのような組織にも、思うように成果が上げられない社員は存在します。しかし、1つ言えることがあります。それは、「誰しも落ちこぼれたいとは思っていない」ということです。

「人と話すのが好きだから、営業が良いな」、「研究や開発に関わる仕事がしたい」など、自分の適性やありたい姿をイメージし、誰もが「この仕事なら頑張れる」と希望と覚悟を持って入社したはずです。

本人としては一生懸命努力したものの、成果が出せずに、結果として落ちこぼれてしまう。成長意欲はあったのに、それが活かせないというのは、非常にもったいないことです。会社として、社員のエンゲージメントを向上するには「成果が出せない社員」にこそ、目を向ける必要があるのです。

といっても昔の私も成果を上げられない社員に対して、期待感から「もっと頑張れるはずだ」「実力はこんなものじゃないはずだ」と発破をかけるようにしていました。しかし、社員の実力以上に背伸びをしてもそれは続かないもの。結果的にその社員は自分の仕事に自信が持てなくなり、周囲に悩みを相談することもできなくなり、孤立。やがて会社を辞めてしまったのです。そこで気がつきました。

落ちこぼれそうな社員の力となるのは、1人からの注意や催促ではなく周囲の「応援」なのだと。応援を実践すべく、当社では、さまざまな方法を活用しています。

例えば、営業部署内で契約が取れていない社員には、「業務のフィードバック」「ロールプレイング」「同行営業」などを実施しています。設計やバックオフィスの部署では、業務のサポート。さらに管理部門では、定期的に社員とコンタクトを取り、抱えている悩みや問題をキャッチするなど、実務面でも精神面でもさまざまなサポートを続けます。

端的に言えば「ひとりぼっちにさせない」ということ。常に四方八方から声がかかり、手を差し伸べてもらえる環境をつくっているのです。そうすることで、社員は孤立せず、本来の成長意欲を取り戻せるのです。さらに、社員の成長意欲を最大限に発揮させるのが、当社が毎日行っている「全社員参加の朝礼」です。

「朝礼」が社員同士のコミュニケーションや意欲を高める場になっているか

多くの企業において朝礼は、業務連絡やスケジュール確認などを目的に、上長や一部の社員が発言するだけの形式的なものではないでしょうか。私もずっとその認識でした。しかし、当社の朝礼は全く異なり、「社員同士のコミュニケーションや意欲を高める場」としています。

そのような朝礼であれば、まず、社員の状態を把握することができます。「毎日元気に会社に来ているか?」だけでなく、時間に余裕をもって出社しているか、体調や身だしなみなどをチェック出来ます。

さらに、契約を獲得した社員は、契約に至った過程やエピソード、協力してくれた上司・先輩や関係部署への感謝の気持ちを発表し、社員全員が賞賛の拍手を送ります。具体的な契約までのストーリーを聞くことで、普段関わりがない社員も発表した社員に声をかけたり、質問したりしやすくなります。朝礼は社員同士がポジティブなコミュニケーションを図るきっかけにもなっているのです。

実はこの「賞賛の拍手」にもこだわりがあります。スポーツやコンサートなどで盛大な応援や拍手が人の心を奮い立たせ、一体感や満足感を高めることは皆さんも感じたことがあるでしょう。心のこもった拍手は、ビジネスにおいても大きな力を発揮します。

ポイントは、「全力」で拍手すること。なかなか全力でといっても気恥ずかしさがあってできません。そこで、リーダーや営業担当者から拍手の練習をすることもあります。何回か練習するとできるようになる。「当たり前のことを当たり前にできる」小さなことですが、拍手があることで、実際の業務に前向きに取り組むことができると思っています。

以前の私は、営業は契約を獲得するのが当然であり、社員に感謝や労いの言葉をほとんど述べることはありませんでした。しかし、当社の朝礼で拍手を送られた社員の姿を見てその考えは変わりました。 

長期未契約から脱出し、賞賛や応援の拍手を送られて感極まる社員。連続契約を達成し誇らしげな表情を見せる社員たちは、さらなる飛躍を続けているのです。拍手は、誰でも何も準備しなくてもすぐにできる本当に簡単なことです。応援の力により、社員はチームの一員として自発的に行動します。それだけではなく、社員全員が「よかったね!」「おめでとう!」「自分も頑張ろう!」と前向きな気持ちになれるのです。

事務連絡だけをする形式的な朝礼にはっきり言って意味はありません。社内掲示板があれば充分です。社員の士気を高めるためにも、ぜひ賞賛と拍手の起こる、朝礼を取り入れ応援の持つ力を感じていただければ幸いです。
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