個人事業主と労働者のどちらに該当するかは “実態” で決まる
厚生労働省は本年11月1日の「フリーランス法」の施行に合わせ、『自らの働き方が労働者に該当する可能性があると考えるフリーランスからの労働基準法等の違反に関する相談窓口』を全国の労働基準監督署に設置した。これは、フリーランスとして企業と契約しているにもかかわらず、当該企業の社員・労働者であるかのような勤務を強いられている人々の労働環境整備を図ろうという試みである。企業で働く人が「労働基準法」(以下「労基法」)の保護対象となる労働者に該当するかどうかは、契約の形式や名称ではなく実態を勘案して総合的に判断される。そのため、雇用契約を締結していれば労働者であり、請負契約や委託契約を締結していればフリーランスであるなどの形式的・外形的な判断は行われない。実際に適用されている勤務の環境が「労基法」上の労働者に該当するかどうかが、判断のポイントになるものである。
労基法上の労働者に該当するかどうかを労働者性という。従って、実態として労働者性が確認できる環境で勤務しているのであれば、当該企業と請負契約や委託契約を締結して働いていたとしても労働者と判断されて「労基法」の保護対象になる。その結果、企業側がフリーター扱いで労働させている者に対しても、同法を遵守する義務を負うケースが生じるのである。
労働者性は “使用従属性” の有無で決まる
労働者性が存在するかどうかは、使用従属性の有無で判断される。企業と従業者との間に使用従属性が存在するのであれば、フリーターとして契約していたとしても当該企業の労働者と判断されるわけである。使用従属性は「労働が他人の指揮監督下で行われていること」、「報酬が指揮監督下の労働の対価として支払われていること」の2条件を充足した際に認められることとされており、具体的には以下の判断基準が用いられる。
(1)指揮監督下の労働であること
(a)仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
(b)業務遂行上の指揮監督の有無
(c)拘束性の有無
(d)代替性の有無(指揮監督関係を補強する要素)
(2)報酬の労務対償性があること
上記を用い、実態に基づいて総合的に判断されるものである。
ポイントは「指揮監督下の労働」と「報酬の労務対償性」
具体的に見ていこう。上記(1)(a)「仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無」とは、企業からの業務依頼に対し「従業者側が受託するかどうかを自身で決定できるか」という観点である。自分で決められる場合には、両者間に指揮監督関係は存在しないことを示す重要な要素になる。一方、自身で決められないケースであれば、企業と従業者は指揮監督関係にあると判断されやすい。次に(1)(b)「業務遂行上の指揮監督の有無」とは、「企業側が業務の内容・遂行方法の具体的な指揮命令を行っているか」という点である。具体的な指揮命令を行っている事実が存在すれば、企業と従業者とは指揮監督関係にあることを示す基本的かつ重要な要素となる。
(1)(c)「拘束性の有無」では、「企業側が従業者の勤務場所・勤務時間を指定し、管理しているか」がポイントとなる。このような事情があれば、一般的には企業と従業者とに指揮監督関係が存在することを示す基本的な要素となる。
(1)(d)「代替性の有無」では、「本人に代わって別の人材が労務提供を行ったり、補助者を使用したりすることが認められているか」が問われる。従業者が代役を立てて業務を遂行させることや他の人材に依頼をして手伝ってもらうことが、企業側の了解を得ずに自らの判断で可能な場合には、指揮監督関係はないことを示す要素となる。
最後に、(2)「報酬の労務対償性があること」では、「支払われる報酬が、企業の指揮監督で一定時間労務を提供していることに対する対価と認められるか」が考慮される。報酬がこのようなものと認められる場合には、使用従属性を補強する要素となる。なお、仮に報酬の名称が賃金や給与であったとしても、その点のみを根拠に使用従属性が認められるとは判断されない。
労働者性の判断を補強する要素
「指揮監督下の労働であるか」、「報酬の労務対償性があるか」の2基準のみでは、労働者性の判断が困難な場合もあるであろう。そのようなケースでは、以下を「労働者性の判断を補強する要素」として考慮し、総合的な判断が行われる。(1)事業者性の有無
(2)専属性の程度
(3)その他
(1)「事業者性の有無」では、「業務に必要な機械、器具等の負担者」と「業務に対する報酬額」が考慮対象となる。著しく高価な機械、器具等を従業者側が所有、用意しているのであれば事業者としての性格が強くなるため、労働者であるとの判断は行われにくくなる。また、業務に対する報酬額が当該企業に雇用されて同様の業務に従事する労働者よりも著しく高額な場合には、報酬は事業者に対する代金の支払いと認められ、労働者であるとの判断は行われにくくなるものである。
(2)「専属性の程度」では、「特定企業への専属性の度合い」が考慮対象となる。「他企業の業務を受託することを制度上制約している」、「報酬に固定給部分があり、生活保障的要素が強い」などのケースでは専属性の程度が高いと認められ、労働者であるとの判断が行われやすくなる。
(3)「その他」としては、「正規従業員とほぼ同様の選考過程を経て採用している」、「報酬について給与所得としての源泉徴収を行っている」などの状況が、労働者であるとの判断を補強する事由になることもあるようである。
本稿を読んでいる皆さんの企業では、フリーランス・個人事業主として契約している人材に対して、労働者性が認められるような労務環境を提供しているようなことはないだろうか。労基署から指摘を受けることがないよう、いま一度、確認をしたいものである。
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