「人事制度」とは、どのようなものでしょうか。広く「人事制度」という場合は、“会社が社員の採用から退職までのプロセスを管理するために設けた仕組み”のことを言います。具体的には、採用、等級、評価、昇格昇進、昇給、賞与、福利厚生、退職までを統一的に管理するルールです。そのうち、本稿では、採用および福利厚生、退職を除いた「人事(賃金)制度」を範疇とし、シリーズで解説していきます。
【人事制度の作り方:1】「人事制度」とは? 設計に必要な考え方と、経営における重要性を考える

「人事制度」に関する基本的な考え方

上記の「人事(賃金)制度」とは、具体的には以下の内容になります。

【1】等級制度

社員の役職や職務内容、職務遂行能力等に応じて、等級(職階)を定める制度で、賃金や役割分担を決める基本的な指針となります。

【2】評価制度とその運用

社員の能力や業績を公平に評価する基準を設け、賞与支給時に合わせ、自己、一次、二次評価、結果のフィードバックなどをシステム的に行う方法を決めます。そして、その評価結果を昇格降格、昇進降職、昇給降給、賞与決定へ反映させます。

【3】賃金制度

社員の基本給、賞与、昇給、手当など、入社から退職までの賃金体系を決めます。

「人事制度」の設計はなぜ重要なのか

多くの経営者は、人事制度に関してあまり理論的なことは求めません。例えば、賃金について考える場合には、自社における「高卒や大卒の新卒採用時、30歳、40歳、50歳、定年時の月収、または年収をどれくらいにしょうか」からスタートします。当然、同業他社や地域の会社の賃金も横にらみします。

これに、「管理職が勤まるか人材か、勤まらない人材か」、「担当させる職種」、また、「その時の求人倍率の高低等」を考慮して決めます。社員が不満を持たない程度であれば十分で、人事制度の理屈を考える暇があれば、仕事のネタを考えたり行動したりするのが先と考えがちです。

では、多くの経営者が普段はあまり考えない人事制度について、関心を示さざるを得ないのはどんな場面なのでしょうか。それには、次のようなことが考えられます。

(1)創業者の場合

少人数で会社を設立し、社員数が “社員とその家族を把握” できる位であれば、社長が「鉛筆なめなめ」で決めることができます。ところが、社員数が増え続けると賃金をどう決めていくかについての理論的な裏付けが、必要になる時期が来ます。

(2)事業継承者の場合

創業者の場合は「俺がルールブックだ」とばかりに、社員のすべての処遇を決めることができていたのが、後継者となると処遇の違いを社員に説明するための理屈が必要になります。

(3)人事制度の重要性

そもそも人事制度は経営の「ヒト、モノ、カネ」の「ヒト」に関わることであり、上記のような場面のみならず、常に経営上のきわめて重要な事項です。会社は生き残りを図るため、常に業績を維持拡大していかなければなりません。

そのためには、会社の経営理念や価値観を明示し、その旗印の下、必要な人材を獲得し、会社の競争力の向上に寄与できるよう成長させることが必要です。そして、社員の能力、成果、貢献を公正に評価し、評価結果のフィードバックと共に、それに応じた報酬を提供するプロセスが重要なのです。社員からみても、会社の人事制度を知ることで、将来のキャリアアップや処遇の概要を把握できるのです。

日本における「人事制度の変遷」を知り、理解を深めよう

日本において人事制度は、戦後から現在に至るまで何度か変遷してきました。それは、経済情勢の変化を反映して、「何を基準に人事制度を構築するか」が変わってきたためです。この変遷の理由を知ることで、人事制度の構築に対する理解が深まります。

(1)戦後復興期から1970年代までの「高度成長期」

「年功賃金」と「終身雇用」を基本とした年功主義人事制度が主流で、勤続年数や年齢を重ねることで昇進昇給がなされました。これは、敗戦の窮乏生活から脱却するため生活保障の面を重視せざるを得なかったためです。

(2)オイルショック(1974年)後の「低成長期」

「職能資格制度」に基づく人事制度が一斉を風靡しました。職務遂行能力と職位を分離した点が、企業成長の鈍化に伴い年功序列賃金の運用が難しくなった会社から支持されたのです。 

(3)バブル経済崩壊(1994年)後

低成長からマイナス成長となり、全国的にリストラの嵐が吹き荒れました。「リストラ」を「リエンジニアリング」と言い替え、「賃下げ」を「成果主義人事制度」と言い替えました。 “成果を上げた” と評価される一部の社員の賃金を、大幅に引上げるのと引き換えに、全社ベースでの人件費引下げを図るケースもしばしば見受けられました。しかし、その後は成果主義を取り入れた会社で疲弊感が広まり、「成果主義人事制度」は大きく後退しました。

(4)ポスト成果主義

最近では、日本の労働生産性の低さが大きく問題視され、「働き方改革」の旗印のもと長時間労働の排除が法制化されました。また、非正規社員の処遇改善を目的とし、これも同様に同一労働同一賃金が法制化されました。

これらを反映して、「職務等級人事制度(最近は「ジョブ型」と称されていますが、職務と賃金を結びつける点で同根といえます)」や、「人材育成型人事制度」の導入が進んでいます。

「人材育成型人事制度」を検討

本シリーズでは、「職務等級制度」を念頭に置きつつ、「人材育成型人事制度」について検討します。

そもそも、前者を導入するためには、一人ひとりの職務内容を明確にする必要があります。これは、日本企業にとっては高いハードルになります。何故なら、多くの日本の企業ではむしろ各自の職務を限定せず、フレキシブルに周りと協調しながら業務を進めることを良しとしているからです。このため、一人ひとりの社員の職務の境界が曖昧であることが一般的なのです。

また、職務等級に応じた職務給も、欧米のような企業横断型賃金でなく、その企業内でしか通用しません。この2点が、日本において職務給やジョブ給制度が取り入れにくい大きな要因と言えます。

このような観点から「職務等級制度」は目指しませんが、一人ひとりの職務の内容を明確にすること自体は、人材育成面からも大変重要といえます。次回以降、会社業績の維持向上や人材育成に必要なレベルで職務の整理をし、それを “等級制度” と “人事評価制度(目標、能力、行動の評価基準)” を基本とした「人材育成型人事制度」の検討を進めます。
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