2023(令和5)年の地裁判決で、学校側から能力不足を理由に「有期労働契約の更新」を拒否され、雇止めにあった非常勤講師が“地位確認”を求めた訴訟があったのですが、学生に行ったアンケートを根拠に、「能力不足を理由とした雇止めは無効」と判断されました。そもそも「有期労働契約」は労働契約に期間があり、期間満了となれば終了するのが前提です。今回は、“契約更新の拒否(雇止め)が無効になる”とはどういうことなのか、“有期労働契約を適正に終了させるために必要なことは何なのか”についてお話しましょう。
能力不足の「雇止め」は無効に? 適正に“有期労働契約”を終了させるために知っておくべき事とは

「雇止め」が無効となる根拠とは

「有期労働契約」とは、労働契約に期間を定めるもので、本来はその期間が満了となれば、労働契約は当然に終了となります。ただ、その有期労働契約が何度か更新され、結果的に通算契約期間で見ると長期となる場合が生じます。その後、企業側が労働契約の更新を拒否して雇止めをしたときに、「もっと働きたい」と考えていた労働者とトラブルになることが往々にしてあるのです。

そこで、「労働契約法」では、

1)有期労働契約が何度かが更新されていた場合に、雇止めを行ったことが無期の労働契約の労働者を解雇することと同視できる(無期の労働契約と同視されるケース)

または

2)労働者が、次回も労働契約を更新してもらえると期待することに合理的な理由がある(契約更新に対する期待権)

ときに、労働者が有期労働契約の申込をしたものの、企業が拒否することに客観的に合理的な理由がなく、社会通念条相当であると認められない場合は、労働者の有期労働契約の申込が認められる、としています。

つまり、上記のどちらかの要件が認められれば、「雇止め」が無効となり有期労働契約が更新されるというものです。

では、この2つの要件について詳しくご説明しましょう。

「雇止め」が無効となる“2つの要件”とは

まず、雇止めの是非について判断される要素がいくつかあります。

それは、

●有期雇用が臨時的なものか、それとも常用性が認められるのか
●有期労働契約の更新回数・通算期間
●労働契約の更新時の状況
●労働契約の更新について会社側が従業員に期待を持たせる言動があったかどうか


などです。

それを踏まえ、「無期の労働契約と同視されるケース」では、たとえば、これまでに雇止めされた従業員がほとんどおらず、有期労働契約の更新手続きも契約期間が過ぎてから行われていて、更新手続きが実質的に形骸化しているようなことが挙げられます。

場合によっては、有期労働契約書を交わしたのは最初だけで、次の更新時以降、契約書を交わされることなく契約の通算期間が長期化した、というケースも多々あります。

このように、更新手続きが形骸化していると、事実上、無期の労働契約と同じであると判断される可能性が高くなり、雇止めをしても無効とされることがあります。したがって、無期の労働契約と同視されないようにするには、契約更新の都度、事前に面談等の機会を設けて、次回の労働条件についての説明・確認をすることが必要です。

次に、「契約更新に対する期待権」が生じるケースとは、有期労働契約の期間の長さについて特に根拠がなく、業務も臨時的ではなく基幹的な業務を行わせている場合が考えられます。

たとえば、有期労働契約の期間を6ヵ月としていたとしても、「業務が忙しいからその期間だけ臨時的に増員した」というものではなく、正社員と同じような基幹的な業務をさせていると、おのずと労働契約は更新される傾向にあります。

そうなると、従業員側から見た場合、契約は6ヵ月更新ではあるが、次も労働契約を更新してもらえるだろう、という「期待」が従業員に生じます。その「期待」について合理的な理由が認められると、雇止めをしても無効となることがあります。

したがって、最初に述べた地裁判決のケースのように、単に能力不足であるという理由で雇止めをしたとしても、たとえば、「能力不足と言われても、これまで指導・教育を受けたことがない」、ということになれば、雇止めの理由としては弱いものにならざるを得ず、「契約更新に対する期待権」の方が強くなることが考えられます。

そのため、雇止めの理由が、従業員の能力不足であるとするならば、普段から従業員に対して指導・教育を行い、改善の機会を与えることがプロセスとして必要となります。

最後に、有期労働契約について、契約の不更新条項や更新回数の上限を設けておく、という対処法を考えてみましょう。

「契約の不更新条項」や「更新回数の上限」を設けること自体は問題ありませんが、2024(令和6)年4月に「労働基準法施行規則」が改正され、有期労働契約の締結と契約更新のタイミングごとに、労働契約の更新回数の上限(契約の通算期間も対象)の有無と内容の明示が義務となりました。

また、「有期労働契約の更新回数の上限を新設する」、「更新回数をこれまでより短縮する」などの場合は、あらかじめ従業員にその理由を「事前に」説明をする義務が生じますので注意が必要です。

いかがでしょうか。雇止めをしてトラブルになるのは、従業員に対して十分な説明や指導、教育などコミュニケーションの不足が原因になることが多いです。いったんトラブルになれば、手間を惜しんだ分以上の労力が発生することになりますので、お近くの社会保険労務士に有期労働契約のあり方についてご相談されることをお勧めします。
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