●2024年4月から「障害者法定雇用率」が引き上げに。従業員40人以上の企業は要チェック!
●職場における「障がい者の合理的配慮」とは? まずは厚生労働省のチェックリストで自社の現状の把握を
※最新版※【2024(令和6)年度版:法改正】フリーランス新法やマイナ保険証の詳細追加<社労士監修>
雇用の分野における「障がい者への差別禁止」とはどのようなものか
「障害者差別解消法」は、 “日常生活や社会生活に関する差別禁止” と “合理的配慮の提供” について規定しています。このうち雇用分野では、「障害者雇用促進法」と、同法に基づき厚生労働大臣が定める指針によって、事業者が取るべき措置を定めています。事業者には障がい者に対して “障がいのない者との均等な機会と待遇を確保し、障がい者の能力が発揮できる措置を取ること” が求められています。具体的には、「募集・採用」、「賃金」、「配置」、「昇進」、「教育訓練」などで障がい者に対する不当な差別が禁止されています。
「障害者差別解消法」の対象となる障がい者は、障害者手帳の所持者だけではなく心身などの障がいに起因して、日常生活や社会生活に相当な制限を受けている人も含まれます。
また、事業者には法人や個人事業主、ボランティア活動のグループなども含まれます。
(1)「差別」の具体的な内容
不当な差別的取扱いとは、障がいのある人に対して、正当な理由なく「障がいを理由として、サービスの提供を拒否すること」や、「サービス提供にあたって場所や時間帯などを制限すること」、「障がいのない人には付けない条件をつけること」などを指します。差別には障がいを理由とした明確な差別である「直接差別」と、一見公平な基準でも実質的に障がい者に不利に働く基準や方法が含まれる「間接差別」があります。下記はその例になります。
●障がいを理由にした採用拒否:視覚障がい者の応募を拒否する
●不利な待遇を与える:身体障がいがあるために昇進できない
■間接差別■
●視覚障がい者にとって不便な紙ベースの申請手続きしか行わない
●マイカー通勤禁止を定める就業規則のため、公共交通機関の利用が困難な、車いすを使用する障がい者は採用されない
(2)差別的取扱いの判断基準
差別的取扱いに当たるか否かは、「総合的・客観的判断」によります。障がい者側からの感じ方だけで不当な差別的取扱いに当たると決まるのではなく、具体的な場面や状況に応じて判断することとなります。また、禁止される差別は「障がいのある人とない人との間の差別的取扱い」であり、「身体障がい者」と「知的障がい者」など、障がいの種別で異なる取扱いをすることなどは、該当しません。
「合理的配慮の提供義務」で企業に何が求められるのか
(1)「合理的配慮」とは
2006年に国連で採択された「障害者権利条約」第2条には、合理的配慮について以下のように規定されています。(太字は筆者)
合理的配慮とは、障がい者が職場でその持てる能力を発揮できるように、過度な負担を伴わない範囲で職場環境や業務内容を変更および調整することです。配慮という言葉からイメージするような、「思いやり」ではありません。
(2)障がい者との調整で避けるべき考え方
障がい者に対して合理的配慮を提供しないことが、差別とみなされます。障がい者が必要とするサポートについて、「できるかできないか」の二択ではなく、どの程度ならできるかなどを「双方の対話」を通じて、「個別に決定する」ことが求められます。「前例がない」、または「何かあったら困る」というような抽象的な理由で必要な配慮を検討しないことも、合理的配慮の不提供となります。どのようなリスクが生じ、そのリスクを低減するためにどのような対応(配慮)ができるかを、個別的かつ具体的に考える必要があります。
(3)「合理的配慮」の提供手順
企業は合理的配慮を提供するために、まずは環境整備を行うことが必要です。環境整備とは、「事業所内をバリアフリー化する」などのハード面に関するものと、「従業員に対して障がい理解促進のための研修を実施する」などのソフト面の措置も含まれます。そのうえで、障がい者本人との対話を重視し、適切なサポートを提供する体制を整えます。具体的には、以下の手順となります。
障がいの特性や支援の希望を確認し、どのような配慮が必要かを具体的に話し合う
B)業務内容や作業環境の調整
必要に応じて業務の分担を見直し、周囲の理解も含めたサポート体制を構築する
C)フォローアップと見直し
配慮内容が適切であるか定期的に確認し、必要があれば改善を図る
(4)「合理的配慮」の具体例
合理的配慮にはさまざまな方法があり、企業の人事担当者は状況に応じた配慮を実施する必要があります。以下は、主な合理的配慮の具体例です。●身体障がい者のための出入口や通路のバリアフリー化
●視覚障がい者のための点字案内や音声案内の導入
●聴覚障がい者のための会議に際してのレジュメの配布やWeb会議での字幕の生成
■制度面などの整備■
●勤務形態の柔軟化
●テレワークの導入
●勤務時間の調整による通勤ラッシュの回避や短時間勤務制度の導入
●業務内容や評価基準の配慮
●障がい特性に応じた作業分担の考慮
多様な人材を活かす契機に
「合理的配慮」を提供することは、障がい者にとって働きやすい環境を構築するだけでなく、企業にとっても多様な人材を活かすことで職場の活性化や業務の効率化につながるメリットがあります。例えば、視覚障がい者向けに導入した音声ソフトが他の従業員にも役立つことや、柔軟な勤務時間制度が他の社員の働き方改革にもつながるといった相乗効果が期待されます。
法的な義務をクリアするためだけではなく、「障がいの有無にかかわらず、社員が能力を発揮し事業に貢献するためにはどのような措置が必要か」という視点で捉え直すことが、企業には求められています。
●内閣府:障害者差別解消法リーフレット
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