在宅勤務が“非効率”と判断される理由は?
発端はアメリカのアマゾン・ドット・コム社かもしれない。同社は2025年1月から、社員に「原則週5日の出社」を義務づけることを決定したようである。コロナ禍の収束後は週3日出社としていたようだが、在宅勤務をついに廃止してしまうという。アマゾン・ドット・コム社を含む、アメリカのいわゆるGAFAMでは、マイクロソフト社以外は在宅勤務がなくなることになる。日本でも、2020年5月に31.5%だった在宅勤務率が、2023年7月には15.5%まで低下しているとの調査結果が出ている(公益財団法人日本生産性本部の調査)。個別の会社では、すでに在宅勤務を廃止したり、縮小したりしているところもあるようだ。例えば、サントリーホールディングスは、2021年に導入した1日200円の在宅勤務手当を、今年4月に廃止している。
在宅勤務に慣れてしまった人にとっては、「今さら出社の義務化はないだろう」という心境だろう。しかし、会社の本音は違うところにあるようだ。それは、一部の優秀な社員を除いた大多数の社員にとっては、在宅勤務が非効率な働き方となっている実態がデータで示されているからだ。
なぜ、非効率な働き方なのか? それは、多くの会社ではサラリーマン・サラリーウーマンが「チームを組んで働く」ように仕組まれているからである。それによって、社員は会社に利益の最大化をもたらすことを運命づけられている。経営者やフリーランスの働き方とはまるで違うのが「雇用された社員」の働き方なのである。
「企業文化に根ざして働く」ことの重要性
在宅勤務では「効率的なチームワーク」を発揮することは難しい。不可能ではないが、異なる価値観やスキル、経験や年齢といった用意されたフレームワークの中で、ダイバーシティを活かしたアイデアや施策を生み出すのは容易くはない。やはり、出社してのフェイス・トゥ・フェイスには敵わない。本来、会社へのロイヤリティや企業文化に馴染むためには、「経営理念」や「組織風土」といった価値観を共有する人の中に入り込むことが必要だ。人間は意識、無意識に関わらず、周りの環境からとてつもない影響を受ける動物である。出社して働くということは、机を並べて働くということであるから、それによって有形無形に相互に触発されながら成長しているのである。
人間は賢い生き物ではある。しかし、本当は自分自身をメタ認知することなどできず、周りからの良い影響を受け続ける必要があるわけである。
在宅勤務はどこまでいっても「ソロプレイとしてのワークスタイル」であり、物理的距離を置くことで企業文化に根ざして働くというコミットメントは低下していく。加えて、在宅勤務はチームワークが成り立ちにくい働き方でもある。そのような理由から、会社によっては在宅勤務不要論が趨勢となりつつあるのかもしれない。
もちろん、社業の性格から「在宅勤務こそベストマッチ」という会社もあるだろう。また、在宅勤務に否定的な会社であっても、給与計算、経理・財務事務など仕事の中身によっては在宅勤務に適合する職種もあるだろう。
今後の在宅勤務の未来を敢えて予想すれば、流れとしては衰退していくことになるだろう。しかし、在宅勤務にも事業コストの削減、業務効率の改善、生産性の向上など、多くのメリットがあるのも事実である。このように考えると、在宅勤務とオフィス出社の間でバランスを取った「ハイブリッドワーク」も一定の共通解になるのかもしれない。
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