厚生労働省の調査によると、2022年度 の育児休業(育休)取得率は女性が80.2%、男性が17.1%となっており、女性は過去10年で横ばいであるのに対し、男性は増加を続けています。今後も男性の育休取得者は増えていくことが想定されますが、初めて男性社員から育休の申出があった場合、企業としてはどのような対応をすべきでしょうか。今回は、男性の育休について人事担当者が対応すべき事項を、ポイントを押さえて解説します。
2025年4月「改正育児・介護休業法」を前に押さえておきたい「男性の育児休業の制度」と「活用できる助成金」

「男性社員の育休」にかかる会社の義務

育児休業に関するルールは、「育児・介護休業法」に定められています。2022年の改正で、会社には「育休を取得しやすい雇用環境を整えること」と、「配偶者(本人)の妊娠・出産を申し出た社員には育休制度の周知・制度利用の意向確認を個別にすること」が義務付けられました。

さらに 2025年4月からは、従業員300人超の企業にも「男性の育休取得率等の公表」が義務化されます。男性の育休制度を十分に理解し、取得の促進に努めましょう。

男性の育休制度とそのルール

男性が利用できる育休制度は、「産後パパ育休」と「育児休業」です。

「産後パパ育休」は、子の出生後8週間以内に4週間(28日)までの休業が取得できる制度で、2回まで分割して取得可能です。

一方で「育児休業」は、原則子が1歳になるまで取得でき、産後パパ育休と同様に2回までの分割取得が認められます。また、子が保育園へ入園できない等の場合には、最長で子が2歳になるまで休業を延長できます。

「産後パパ育休」は、原則2週間前(一定の条件を満たした場合は1ヵ月前)まで、育児休業は原則1ヵ月前までに申し出る必要があります。会社は、育休取得時のルールや休業中の給与等の扱いをどうするのか、就業規則(育児休業規程)にあらかじめ定めておかねばなりません。

育休取得の申出~休業~復職までの流れ

男性社員から取得の申出があった場合、「(出生時)育児休業申出書」(社内様式)を提出してもらいます。

社内では、休業を開始するまでの間に、業務の整理および引継ぎを実施します。代替要員の確保が難しい場合、アウトソーシングも検討すると良いでしょう。育休取得中のルールの周知や連絡手段の確認もしておきます。

育休中は無給とするのが一般的です。雇用保険から「出生時育児休業給付金」または「育児休業給付金」が支給されますが、受給には一定の要件があります。事前に要件を確認し、当人に周知をしておくことが重要です。

また、給付金の手続きは会社が行うものです。申請書類を作成したうえで、添付書類とともにハローワークに提出します。添付書類には母子健康手帳のコピーも含まれるため、子の出生後に提出してもらいます。申請が遅れると給付金の支給も遅れてしまうので、早めに準備をしておきましょう。

休業中は、当人の希望に応じて、会社からの連絡や最新情報を提供します。

復職の際は、原則として休業前の職務に復帰させます。難しい場合には、当人に復職後の業務内容や勤務形態の希望を聞いたうえで、「時短勤務」や「在宅勤務」など柔軟な働き方の選択肢を提示すると良いでしょう。

男性の育休取得で企業が活用できる助成金

初めて男性の育休取得者が出た場合、会社は「両立支援等助成金」の「出生時両立支援コース (子育てパパ支援助成金)」を受給できる可能性があります。

この助成金は、男性社員が育休を取得しやすい環境を整備し、実際に育休取得した場合に申請できるものです。助成には、育休の取得実績に対する「第1種」と、さらに取得率を向上させた場合の「第2種」があります。

<第1種の要件>

●男性が育休を取得しやすい「雇用環境整備」や「業務体制整備」に取り組むこと
●男性社員が子の出生後8週間以内に連続5日間以上の育休取得を開始すること
●育休制度等を就業規則に定めていること
●一般事業主行動計画を労働局へ届けていること


支給額は次の通りです。

1人目:20万円(一定の要件を満たした場合は30万円)
2人目・3人目:10万円
厚労省「両立支援のひろば」での育休等に関する情報公表加算:2万円

<第2種の要件>

●第1種を受給後、3事業年度以内に育休取得率が30%以上上昇したこと
(または、一定の場合に2年連続70%以上となったこと)
●第1種(1人目)の申請後に育休を取得した男性社員が、第1種(1人目)の対象者の他に2名以上いること


支給額は次の通りです。

1事業年度以内に30%以上上昇:60万円
2事業年度以内に30%以上上昇等:40万円
3事業年度以内に30%以上上昇等:20万円
「プラチナくるみん」認定事業主は15万円加算


ただし他にも要件等があります。助成金の申請には、専門家である社会保険労務士へのご相談をおすすめします。

自治体などの支援制度も活用して男性の育休取得を促進

自治体などでも、男性の育休支援制度を設けているところがあります。自治体の公式サイト等で情報を取得して活用しましょう。

たとえば東京都では、東京しごと財団が「働くパパママ育業応援奨励金」として、男性の育休取得と環境整備の実施に対し最大410万円が受け取れるコースなどを設けています。山口県には、育休取得を促進する取り組みや育休取得者への手当支給などに対し、最大約180万円の奨励金を支給する「山口県もっと育休奨励金」の制度があります。

これまで「女性の育休の実績はあっても、男性の取得者はいない」という企業もあるでしょう。育休制度は度々改正されており、それに伴って給付金や助成金の制度も変更されています。最新情報を把握し、男性社員が安心して育休を取得できるようにしておきたいものです。
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