会社が給料の減額を行う際、次の2つのパターンがあります。「(1)懲戒処分として行う場合」(たとえば、服務規律違反で罰金1万円を給料から天引き)、「(2)人事評価が下がる場合」(たとえば、昨年より人事評価が下がるため基本給を5,000円減額)です。今回は、この2つの違いについて、実務上の注意点も含めて解説します。
「減給」には “懲戒処分” と “人事評価によるもの” の2種類が。法律を含めた違いと実務上のポイントを解説

そもそも「減給」とはどういうことか

減給とは、その名のとおり、「給料が減額されること」です。従業員にとって、給料の減額は生活に直結するため、会社が好き勝手に減給を行うと労使トラブルになる可能性が高くなります。

そのため、従業員が安心して働けるために、「労働基準法」では、会社が「懲戒処分」として減給を行う場合に厳格な制限を設けています。これとは別に、「人事評価」による減給は特に法的な規制はありません。とはいえ、人事評価による減給も公正さや公平性がないと不満がたまり、モチベーションが下がる要因となってしまいます。

懲戒処分としての減給は、「明文化」と「限度額」がポイント

懲戒処分として減給を行う場合、懲罰・制裁としての性格をもつため、会社の人事権には大きな制限がかかります(「労働契約法」第15条)。

具体的には、懲戒処分を行うためには、就業規則等に懲戒処分の内容が明記(及び周知)されていなければなりません。刑法のように、「どのようなことを行ったら、どのような処分を受けるのか」、これが明示されていないといけないのです。規定されていないこと、周知されていないことで人を罰することはできないからです。

よって、就業規則等に減給を含んだ懲戒に関する項目を記載するとともに、従業員への周知を行なうことが必要となります。

また、懲戒処分として減給する場合には、減給額につき「労働基準法」第91条で次のような制限が設けられており、それを超える減給処分は違法となります。

●違反行為1回あたりの減給額は、平均賃金の1日分の半額まで
●違反行為が複数あった場合、減給総額は、月額賃金の10分の1が上限


たとえば、月給30万円の従業員で、日給を計算して仮に1万円だった場合、1回あたりの減給額は半額の5,000円を超えてはいけません。また、1ヵ月の間に複数回の減給処分を下した場合でも、減給額は3万円が上限となります。

懲戒処分の場合は対象者に弁明の機会を設ける

このように、懲戒処分として減給を行う場合には、就業規則への「明文化」と「限度額」がポイントになります。

そのうえで、もうひとつ大事なポイントを付け加えるならば、弁明の機会を設けることです。懲戒であることから、確かに従業員の言動に非があるにせよ、従業員側にも何らかの「言い分」があるかもしれません。「言い分を何も聞いてもらえなかった」という気持ちは、行動を改めるきっかけにならないばかりか、会社に対する不満につながる可能性もあります。

そのため、懲戒委員会を開催し弁明の機会を作りましょう。会社にとっても、このような弁明の機会は、減給処分を手続きに則って行っていることになるため、透明性が確保できるというメリットがあります。

人事評価による減給は、「公正・公平」が肝心

人事評価による減給は、懲戒処分の減給に比べて、会社の人事権の裁量が広く認められています。具体的には、「社会通念上著しく妥当性を欠き、権利の濫用にあたる」と認められない限り、人事権の裁量の範囲内とされ違法とはなりません。

たとえば、人事評価の結果、基本給が月額25万円から5,000円減額される、ということは通常、人事権の裁量の範囲内といえるでしょう。

とはいえ、そもそも評価の基準がなければ、恣意的な減給となり、公正さや公平性を欠くことになります。場合によっては、社会通念上著しく妥当性を欠くとされ、人事権の濫用となるかもしれません。

そのため、評価制度の策定は必須といえます。小規模な会社であったとしても、簡単なものでいいので評価の基準は作っておくべきだと考えます。社長の頭の中にある評価基準を言語化してみましょう。それだけでも簡単な評価基準は作れます。

評価制度を策定し運用することで、評価に対する一定の公平性は担保され、それに伴う減給があったとしても、従業員の不満の程度やモチベーションはそれほど落ちることはないと考えられます。

以上のように、今回は、会社による「減給」という行為について、2つの方法があることを解説しました。減給を行う際には、それぞれ「『労働基準法』による制限」や「人事権の裁量の限界」があることを忘れずに実務にあたっていただければと思います。
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