2024年度の最低賃金は、前年度よりも50円以上引上げられる見込みとなった。例年にない大幅な引き上げである。このような最低賃金の引き上げは、企業経営にどのような影響を与えることになるのだろうか。また、最低賃金の上昇に合わせて自社の給与額を変更した場合、利用可能な公的制度はないのだろうか。今回はこれらの点を整理してみよう。
2024年度の最低賃金は平均50円以上増額され、早いところでは10月1日に開始。中小企業は「業務改善助成金」の活用も視野に

最低賃金の全国平均は1,055円に

2024年度の地域別最低賃金(都道府県ごとの最低賃金)が、ほとんどの地域で決定された。最低賃金とは企業が従業員に必ず支払わなければならない労働の対価のことで、時間単位で金額が定められている。

今回、最低賃金の引き上げ率の平均は初めて4%を超えて5.1%となる見込みであり、新しい額が決定した全ての都道府県で時間当たり単価が50円以上引き上げられるという、過去に例を見ない状況にある。その結果、最低賃金の全国加重平均額(都道府県ごとの労働者数を加味して割り出した平均額)は、2023年度の1時間当たり1,004円から51円アップして1,055円になる見込みである。

なお、新しい最低賃金が適用される時期は都道府県ごとに異なり、早いところでは2024年10月1日から、遅いところでも同年11月1日までには使用が開始されることが決定している。

各都道府県の2024年度の地域別最低賃金及び前年度からの引き上げ額は、本稿執筆時点の2024年9月19日現在で下表のとおりである。
各都道府県の2024年度の地域別最低賃金及び前年度からの引き上げ額
過去20年間、わが国の最低賃金は右肩上がりに引き上げられ続けてきた。

今から20年前に当たる2004年度の最低賃金の全国加重平均額は、1時間当たり665円。その後、2016年度には800円を、2019年度には900円を超え、昨年度(2023年度)は1,000円を超えて1,004円となった。さらに、2024年度は前述のとおり51円アップし、1,055円になる見込みである。

過去20年間の地域別最低賃金及び前年度からの引き上げ額の推移は、下図のとおりである。
過去20年間の地域別最低賃金及び前年度からの引き上げ額の推移

月給20万円では最低賃金を割るケースも

今回の最低賃金引き上げの影響について、具体例で考えてみよう。

例えば、東京都の最低賃金は本年9月30日までは1時間当たり1,113円だが、同年10月1日からは50円アップして1,163円と決定されている。仮に、1日の所定労働時間が8時間、1ヵ月の平均所定労働時間が173時間、月給(基本給)20万円で勤務する社員がいるとする。この場合、この社員の月給を1時間当たりに換算すると、1,156円(≒20万円÷173時間)となる。

1,156円は1,113円を上回るので、本年9月30日までの勤務については問題がない。しかしながら、1,163円は下回るため、本年10月1日以降は最低賃金を支払っていないことになる。つまり、月給20万円の条件で雇用しても、最低賃金に満たない賃金と取り扱われてしまうことがあるわけである。

それでは、このケースで企業と従業員とがお互いに同意の上で、最低賃金に満たない1,156円(月給20万円)という条件で雇用契約を結んで働いたとしたら、どうなるだろうか。

お互いが了承しているのだから問題はないように思えるかもしれないが、実はそうではない。最低賃金に満たない金額で雇用契約を結んだ場合、契約のうち賃金部分の定めは無効とされて最低賃金と同額を約したものとされる。従って、企業側には差額を支払う法律上の義務が生じることになる。

また、最低賃金に満たない賃金を支払う行為は、企業側への罰則の対象とされている。「お互いが了承していたのだから問題はない」と判断されることはないので、注意をしなければならない。

賃金アップ時に使える業務改善助成金

最低賃金に近い金額で雇用する従業員が在籍している企業では、今回の最低賃金の金額変更に伴い、当該従業員の賃金をアップさせる必要があるケースも出てくるだろう。そのような際に利用できる制度として、厚生労働省の「業務改善助成金」がある。

「業務改善助成金」とは、事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)を30円以上引き上げ、同時に生産性向上に資する設備投資を実施したりコンサルティングを受けたりした場合に、その設備投資等にかかった費用の一部として最大で600万円の助成を受けられる制度である。

この助成金は「賃金の引き上げに伴う企業負担の増加を、生産性の向上によって吸収・軽減すること」を目的としている。ただし、助成金を利用できるのは、以下の3つの条件を全て充足している事業者に限定される。

●中小企業または小規模事業者であること
(「資本金等」または「常時使用する労働者数」のいずれかの条件を満たすこと)
●事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)と当該事業場が所在する都道府県の地域別最低賃金との差額が50円以内であること
●解雇、賃金引き下げ等の不交付事由がないこと


今回のように最低賃金の大幅な増額は、企業経営に与える影響が決して小さくない。財務基盤の脆弱な中・小規模事業者にとってはなおさらである。要件を満たせるのであれば「業務改善助成金」を活用し、最低賃金の引き上げに対応していただきたい。
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