「週休3日制」を導入する企業がいま増加傾向にある。働き方改革の推進やワークライフバランスが重要視される中で、「休日を1日増やす」ことに踏み切った国内企業が現れているのだ。週休3日制は従業員のモチベーションと生産性の向上に役立つとともに、人材不足を解消する一手になるとも考えられている。しかし企業側からすると、週休3日制には少なからずデメリットが存在している。導入を検討する上ではメリットとデメリットをしっかり理解しておかなければならない。そこで本稿では、「週休3日制」のメリットとデメリット、導入するうえでのポイント、さらには導入企業の事例も解説する。
週休3日制度,Calendar

「週休3日制」とは?

「週休3日制」とは、1週間当たりの労働日数を減らし、休日を3日設ける制度のことである。従来、週休2日制を採用する企業が大半であったが、近年では週休3日制を採用する企業も増えてきている。

●「週休3日制」が注目されている背景

昨今、企業にはワークライフバランスのさらなる重視が求められている。企業は、従業員に育児や介護等の事情があっても働けるよう環境を整備しなければならない。また最近では、新型コロナウイルスの感染拡大を防止するために週休3日制の導入を検討している企業もあるようだ。

さらに、近い将来確実に訪れる「労働力不足」を補うために、企業間で多様な人材をシェアできる環境の構築が急務となっていることも挙げられる。これらを背景として、週休3日制に踏み切る企業が出てきているのだ。

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「週休3日制」の導入パターン

「週休3日制」の導入パターンは大きく分けて3つある。それぞれ紹介していく。

●給与維持型

給与維持型は、従業員の給与を変えずに「週休3日制」を導入するパターンだ。この方式では、1日あたりの労働時間を延長したり、業務効率化を図ったりすることで、週4日で従来の5日分の仕事をこなすことになる。従業員にとっては、収入を維持しながら休日が増えるメリットがあるが、企業側には生産性向上が求められ、業務プロセスの見直しなどの負担が増える。

(例)1日8時間労働×週5日(40時間)→1日8時間労働×週4日(32時間)で給与は維持

●総労働時間維持型

総労働時間維持型は、週の総労働時間を変えずに、それを4日間に集約する。企業にとっては総労働時間が維持されるため、生産性への影響が比較的小さい。一方で従業員は長時間労働になる一方で、連続した休暇が取れるようになる。ただし、1日の労働時間が長くなることによる疲労の蓄積や、仕事と私生活のバランスへの影響には注意が必要となる。

(例)1日8時間労働×週5日(40時間)→1日10時間×週4日(40時間)で給与は維持

●給与減額型

給与減額型は、労働時間の短縮に伴い、給与も比例して減額するパターンだ。企業にとっては人件費の削減につながるメリットがある一方で、従業員にとっては収入が減少するデメリットとなる。自由時間の増加を重視する人や、副業・複業を希望する人にとっては魅力的な選択肢となり得るが、生活への影響が大きいため、従業員の同意を得ることや段階的な導入を検討するなど、慎重なアプローチが求められる。

(例)1日8時間労働×週5日(40時間)→1日8時間労働×週4日(32時間)で給与は8割に減少

週休3日制の導入パターン表

「週休3日制」のメリット

「週休3日制」を導入した企業は、次のようなメリットを得られる可能性がある。

●イノベーションが促進される

休日が1日増えることにより、従業員は業務以外の何かに打ち込める時間を持てるようになる。スキルアップやキャリアアップに積極的に取り組みたい従業員は、休日を利用し自己研鑽に励むようになるだろう。

セミナーや勉強会に参加したり、専門学校や大学で学んだりする従業員が現れることもあるだろう。社外の人間とのコミュニケーションが活発化することで、思考が柔軟になり新たなアイデアを持って業務に取り組めるようになる可能性もある。

そのような従業員が増加すれば、イノベーションが促進され新規事業の創出や業務の効率化に関するさまざまなアイデアが出てくるようになるだろう。また、休日が増えることで従業員のモチベーションが向上し、生産性の向上に寄与する可能性がある。

●人材不足の解消につながる

労働人口の減少による労働力不足が深刻化していく中で、各企業は「どうしたら優秀人材を確保できるのか」を考え対策を取らなければならない。

優秀な人材を確保するためには、手厚い福利厚生制度や優秀人材が活躍できる環境づくりとあわせて「他企業と優秀人材をシェアする未来」を見据えた「週休3日制」の導入が有効打になると考えられる。

自社だけでなく、あらゆる場所で自分の能力をいかんなく発揮できる環境を用意することで、より多くの優秀人材を確保できるようになるだろう。「週休3日制のホワイトな職場」であることが認知されれば、働きやすい職場を求める優秀人材の目にもとまりやすくなる。

●従業員が育児や介護があっても仕事を続けられる可能性が高まる

従業員が妊娠や出産、親の介護等を理由に離職する事態は避けたいものだ。従業員の働き方の選択肢が増えれば、育児や介護があっても仕事を続けられる可能性はこれまでより高くなるだろう。「週休3日制」で実働時間を短縮しつつも、短時間でしっかりと業務にあたれる体制を作ることで、従業員は仕事を継続しやすくなるはずだ。

●コストを削減できる

「週休3日制」の導入で、従業員の出勤日数が減った分、企業はオフィスの光熱費をおさえることができる。また、週休3日制という働き方に合った組織体制を構築し、従業員の残業時間をらすことができれば、残業代の削減にもつながるだろう。

●従業員のウェルビーイングが向上する


「週休3日制」により、従業員のウェルビーイングの向上が期待できる。余暇時間の増え、家族や友人と過ごしたり、趣味や自己啓発に充てたりすることができ、精神的な充足感が高まり、ストレス軽減にもつながる。

●感染症のリスクを減らすことができる

2020年以降、企業は従業員への感染症のリスクを低減する取り組みが必須となった。休日が1日増えるだけで従業員同士の接触機会が減り、新型コロナウイルスなどの感染リスクを低減させられるだろう。

「週休3日制」のデメリットと対策

次に、「週休3日制」のデメリットについても見ていこう。

●これまで通りの業務をこなせないリスクがある

実労働時間の減少によって、今まで行っていた業務をすべてこなすことが難しくなってしまうケースもある。特に、毎日従業員が残業をしていた会社では、残業時間の減少によって業務に支障をきたしてしまうことがあるだろう。

「週休3日制」の導入によって業務をこなせない部署が発生することが明らかであれば、増員を検討するなど対策が必要になってくる。

●コミュニケーションの量が減る

従業員同士のコミュニケーション機会の減少、上司と部下のコミュニケーション不足もこの制度のデメリットといえる。業務を円滑に遂行するためには、人間関係も円滑でなければ難しい。

また、経理と営業、経理と各部署の上長、人事と各従業員など、業務を進めるために不可欠なコミュニケーションもある。労働時間が減少し業務に関するコミュニケーションが取れない可能性がある場合は、チャットツール等コミュケーションツールを導入したり、クラウド型の経費系精算システムや人事管理システムを導入したりといった対策が必要だろう。

●給料が減少する

実労働時間に見合った給与に変更したいと考える企業もあるだろう。休日が増える分、給与を減らせば企業側はコストも削減できる。しかしながら、休日が1日増えたとしても従業員が取り組む業務内容には差異がないはずだ。

「週休3日制」の実施で給与が減少するとなれば、離職を検討する従業員が発生するかもしれない。もし給与を下げるのであれば、従業員によく説明し理解を求める、副業を推進するなどの対策が必要だ。

●制度の見直しや新たな構築の時間が必要になる

新たな制度を構築するためには少なからず時間が必要だ。どのようにして「週休3日制」を運用するのか、その詳細が決定するまでに人事担当者、労務担当者に大きな負担をかけてしまうだろう。

また現在の労働基準法は、週休2日制度を前提としたものになっている。1日8時間、週40時間の労働が原則となっているため、週休3日制を導入すると勤怠管理が複雑化し、やはり勤怠管理部門の担当者に大きな負担をかけてしまう可能性がある。

自社にとって明確なメリットを見いだせないままに週休3日制をスタートさせようとすると、従業員から反感を買ってしまうかもしれないため、必ず目的を明確にして自社に適した制度運用をしていかなければならない。導入の際には段階的に進めていくと良いだろう。

●ビジネス機会の損失につながる

労働時間、労働日数の減少は営業担当にとって大きな障壁となりかねない。せっかくアポイントメントが取れそうなのに、相手方が自分の休業日にしか対応できないといわれてしまったら会社側にとっても大きな損失となってしまう。

取引先や顧客とのコミュニケーションにタイムラグが生じ、その間に別の会社に対応をお願いされてしまうこともあるだろう。取引先や顧客とのコミュニケーションツールとして問い合わせ対応にはAIの自動返答システムを利用する、勤務をシフト制やフレックスタイム制にして従業員がオフィスに常駐しているように工夫するなどの対応が必要だ。

●長時間労働になりやすい

従来は週5日でこなしていた業務を週4日で遂行しなければならないため、業務量が増加し、結果として残業が増える傾向にある。そうなると従業員は結局、休日にリフレッシュし切れず、疲労を蓄積させることになる。長期的には、心身に悪影響を及ぼす恐れもある。

業務効率化のための業務管理や、AIなどのテクノロジーを活用して業務を自動化して従業員の負担を軽減する必要が出てくる。

●評価が難しくなる

上司と従業員の接触頻度が減少し、業務の評価が難しくなることが多い。また、出勤日数が限られることで、従業員の努力や成果を正当に評価できないリスクも発生するうえ、他の従業員のパフォーマンスを把握することも難しくなり、不公平感が生じる可能性がある。成果ベースで評価する制度を導入して評価基準を明確にしたり、定期的な1on1ミーティングを取り入れて上下間のコミュニケーションの機会を増やしたりする必要がある。

●業務が偏りやすい

週休3日制では、特定の曜日に休む従業員が多くなるため、業務が偏りやすくなる。例えば、月曜日や金曜日に休む従業員が多い場合、その日の会議や業務に参加できず、情報共有や意思決定に支障をきたすことがある。その結果、特定のメンバーに業務が集中し、不均衡な負担を強いることになってしまいかねない。フレキシブルなシフト制やローテーション制度を導入し、特定の曜日に偏らないように工夫すると良いだろう。

「週休3日制」を導入する企業の事例5選

ここからは、実際に「週休3日制」を取り入れている企業の事例を紹介する。

(1)ファーストリテイリング

ファーストリテイリングでは、「1日10時間×土日を含む週4日の勤務」で週休2日制と同様の給与を支給する、変形労働制の「週休3日制」を導入した。

この制度は、育児や介護を行う社員や、自己研鑽のための時間を求めている社員が利用しているようだ。夫婦共働きの家庭では、夫が週休3日制を利用するようになったことで、仕事と家庭の両立がかない、家族で過ごす時間も増えたという。

(2)日本マイクロソフト

日本マイクロソフトでは、2019年、2020年と試験的に選択制の「週休3日制」を導入した。その結果、印刷枚数と消費電力量の削減ができたほか、スポーツやレジャー、旅行、自己啓発など、プライベートを充実させる行動をとった従業員が多くいた。

日本マイクロソフトの週休3日制は、土日に加え金曜日を休業日とし、さらに従業員を支援する取り組みとして自己啓発関連の費用や旅行費用、社会貢献活動費用の補助を行ったという。

(3)ヤフー(LINEヤフー)

ヤフー(現LINEヤフー)では、育児や介護など、サポートが必要な家族がいる従業員を対象として「週休3日制」を選べる「えらべる勤務制度」を導入している。選べる勤務制度では、従業員の申請によって月単位で自分が働く曜日を変更できるだけでなく、週休2日制への復帰も自由としている。これにより、小学校の夏休みに合わせて8月のみ制度を利用するなど、柔軟な働き方が可能となるのが特徴だ。

(4)みずほフィナンシャルグループ

みずほフィナンシャルグループでは、従業員本人の希望によって週休3日・4日制を選択できる制度を導入している。「社員自らが働き方をデザインし、モチベーションを高められるよう働き方の選択肢を拡充」するのが狙いだという。給与は週休3日の場合、従来の8割、週休4日の際は従来の6割の仕組みとなっている。

(5)リクルートホールディングス

リクルートホールディングスは、年間所定労働時間と給与を変えずに年間休日を増加する体制をとっている。この体制では、年間の休日日数は合計で145日となっており、週に換算すると週休約3日。従業員がメリハリのある働き方を実現できるよう、休日を増やしたのだという。

「週休3日制」を導入・検討するうえでのポイント

「週休3日制」を運用していく場合、次のポイントをおさえておきたい。

●導入する目的を明確にする

「週休3日制」には上述したようにメリットとデメリットが多数存在する。そのため導入には、明確な目的設定をしてメリットとデメリットを天秤にかけることが不可欠だ。まずは、生産性向上、従業員の健康増進、ワークライフバランスの改善といった課題に応じた目標を定めることがカギになる。つまり単なる福利厚生ではなく、企業の成長戦略の一環として位置づけることが重要だ。目的が明確であれば、経営陣や従業員の理解も得やすく、スムーズな導入につながる。

●導入パターンを慎重に検討する

「週休3日制」を導入する企業は、前述した「給与維持型」、「総労働時間維持型」、「給与減額型」という3つのパターンのうちどれかを選択していることが多い。休日を増やす分、1日の労働時間も増やすのか、労働日数(時間)が減少する分、給与も減らすのか、あるいは維持するのか、自社の状況や目的に照らして慎重に検討したい。

●対象者を定め、理解を求める

「週休3日制」の対象社員を希望する一部の従業員にするのか、それとも全従業員を対象にするのかを決定する。導入の前には、従業員によく説明し理解を求めるとともに従業員側の意見をよく聞くようにしよう。

●給与体系を決定する

「週休3日制」の導入と同時に給与体系を決定する必要がある。上述した3つのパターンを参考にして給与を減らす、維持する、増やす、のいずれかを選択しよう。

●利用期間をどうするか

「週休3日制」を一定期間のみにするのか、年間を通して実施するのかを決定する。1ヵ月単位で変更できる制度にして、従業員のリフレッシュに利用してもらうこともできるだろう。

●副業の解禁をどうするか

「週休3日制」を導入する場合、これまで以上に従業員の副業に対するニーズが高まるかもしれない。従業員自身のスキルアップ・キャリアアップにつながる副業は、自社にも好影響を与える。組織強化や業績向上という観点からも、副業を解禁するかどうかは考えておきたい。

●ワークフローを再構築する

「週休3日制」を導入するには、業務効率化のためにシステムやワークフローの再構築が求められる。まずは業務プロセスを精査し、無駄な作業を削減できないか検討し、デジタルツールによって自動化できる業務は積極的に取り入れていく。また、人員を増やすなど、フレキシブルな勤務体制に対応する職場環境を整える必要がある。

●勤怠管理や評価システムを見直す

週休2日制の社員と「週休3日制」の社員を誰がどのように管理するのか。働き方が多様になれば、それだけ勤怠管理の方法にも見直しが必要となってくる。また、労働時間ではなく成果に基づく評価制度への移行も必要に応じて検討すべきだろう。

まとめ

「週休3日制」はイノベーションの促進や人材不足の解消というメリットがある。ただ、週休3日制でも週の労働時間は変わらないタイプや週の労働時間が減少した分給与を減らすパターンもあり、「蓋を開けてみたら想像と違っていた」と従業員が肩を落としてしまう可能性もある。週休3日制を導入する際には従業員への説明を行うのはもちろんのこと、検討の段階から従業員の意見に耳をよく傾けることが肝要だ。

よくある質問

●「週休3日制」は1日何時間働くのか?

「週休3日制」の労働時間は企業の方針や導入方式によって異なる。週5日勤務であれば1日8時間労働が基本だが、例えば総労働時間維持型の「週休3日制」であれば、週4日の1日10時間勤務と設定することになる。

●「週休3日制」の義務化はいつから?

「週休3日制」の義務化は2024年9月現在で予定されていない。2021年6月に政府が「経済財政運営と改革の基本方針2021」において「選択的週休3日制」の普及を促す方針を示したが、これは企業の自主的な判断に委ねられている。
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