「労働時間」とはどのような状態を言うのか
「労働基準法」における「労働時間」とは、行政の通達によると一般的に“会社側の指揮命令下にある状態”を言います。これは必ずしも現実に仕事をしているかどうかは関係なく、例えば“手待ち時間”も労働時間であるとされます。例えばトラックの運転手が交代で運転をする場合において、運転をしない者が助手席で休んだり仮眠をしている時であっても「労働時間」になります。また、お昼の休憩時間に電話当番などをさせる場合、実際に電話がかかって来なくても待機している時間は「労働時間」になります。
「会社側の指揮命令下」についてもう少し深く踏み込みますが、使用者の指揮命令下にあるかどうかは “上司からの指示”など明示的なものである必要はなく、“社風として暗黙の了解のもとに行われている場合”も含まれる可能性があります。
では、冒頭で述べた「休憩時間・睡眠時間」と「労働時間」はどのように違うのでしょうか。
「休憩時間」と「労働時間」の境界はどこにある?
休憩時間は、「会社側の指揮命令下になく、労働者が権利として労働から離れることを保障されている時間」のことを言います。言い替えると、就業規則などで規定している時間が休憩時間になるわけではなく、“実態として業務から離れることを保障されているか”がポイントとなります。今回の労基署の是正勧告では、会社が「休憩時間」としていた時間中に、突発的な業務が発生し、社員が対応をしていたとのことです。会社側は、その都度手当を支給していたとのことでした。ですが、対応頻度が多くなったため、業務に対応していた時間だけではなく、休憩時間や睡眠時間の多くを労働時間として取り扱うよう指導を受けたとのことです。
つまり、「休憩時間や睡眠時間とされていた時間が、“労働から離れることを保障されている時間”とはならない」と判断されたということになり、手待ち時間として労働時間と判断されてしまったと解釈することもできます。
このように、会社が労働時間として認めていなかった時間について、是正勧告等で「労働時間」と判断されてしまうと、その労働時間には賃金が発生することになり、企業に支払義務が発生します。
気をつけるのは「休憩時間」だけではない。「始業前の時間」の考え方は
さて、「休憩時間・睡眠時間」だけでなく、始業前の時間も「労働時間」に該当するかどうかが問題になることが考えられます。つまり、従業員が始業前に出勤して仕事をしていた場合、「会社側の指揮命令下にあったかどうか」が判断されることになります。たとえば、店舗のオープン時間を労働の始業時間としていて、店長からはオープンの30分前に出勤をするよう指示されているものの、タイムシート上の労働時間はオープンの時間となっているようなケースです。業務終了後の残業については“労働時間の延長である”という意識があるため、労働時間の管理をしやすい面がある一方、始業時間前の時間管理が追いついていないことが多いようです。
また、「制服への着替えの時間は労働時間なのではないか」ということで2023年末、賃金の支払を命じる判決も出ました。これは、>「制服での通勤を禁じられていたこと」、「勤務中は制服を着ることが義務付けられていたこと」などから、着替えも会社側の指揮命令下にあったと判断されたようです。
制服への着替えについては、「本来の業務の準備行為にすぎない」という判例もあり、すべての着替えに要する時間が労働時間に該当するとは言い切れませんが、従業員側も労働時間についての考え方について情報を得やすい環境にありますから、“説明を求める声”が今後増えることを想定して準備をしておくことは必要になるでしょう。
いかがでしょうか。労働時間の考え方について、会社側が再点検をすることで、賃金支払リスクを下げるだけではなく、従業員が納得して業務を遂行できる環境を整備することが安定した経営にもつながりますので、これを機に労働時間・休憩時間の管理についてチェックしてみてください。
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