「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(以下「フリーランス保護法」という)が2024年11月1日に施行される。同法は、特定受託事業者(フリーランス)にかかる取引の適正化や就業環境の整備を目的とし、「下請代金支払遅延等防止法」と同様の規制をするとともに、労働者と類似の保護を与えている。本稿では、「労働者性」と「ハラスメント防止義務」に絞り、企業の対応方法を述べることとする。

2024年11月1日「フリーランス保護法」が施行。契約書だけでは避けられないリスクと留意点とは

「フリーランス保護法」の概要

「フリーランス保護法」は、特定受託事業者につき、[1]業務委託の相手方である事業者であって、[2a]従業員を使用しない個人、または[2b]1人の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しない法人と定義している(2条1項)。「従業員を使用しない」とは、“1週間の所定労働時間が20時間未満、または雇用期間が継続して30日以内である従業員(派遣労働者を含む)”や、“同居の親族”が当たる。特定受託事業者の雇用状況によって変化するものであり、取引中に従業員を使用しなくなった場合に留意する必要がある。

一方、特定受託事業者に業務委託をする事業者を「業務委託事業者」という。そのうち、従業員を使用する個人か、2人以上の役員があり、または従業員を使用する法人を「特定業務委託事業者」という。労働者類似の保護として、次に掲げる義務(12~16条)が定められており、これは特定業務委託事業者が負うものである。

▼募集情報の的確な表示
▼6ヵ月以上の継続的業務委託における妊娠・出産・育児・介護に対する配慮
▼ハラスメント対応に必要な体制整備や不利益取扱いの禁止
▼継続的業務委託にかかる契約解除・不更新の30日前予告と理由の開示

また、労働条件の明示と類似する義務として、「給付の内容」、「報酬の額」、「支払期日」、「給付の受領」や「役務の提供を受ける期日・期間および場所」などを書面または電子メール等で明示する義務がある(3条1項)。これは、特定業務委託事業者だけでなく、業務委託事業者も負うことになるので、注意が必要だ。

「フリーランス保護法」の留意点1:“労働者性と実態に即した契約書”の整備

労働者が柔軟な働き方をしやすい環境を整備するため、「非雇用型テレワーク」や「副業・兼業」が推進されている。一方、企業が迅速に事業展開をするためには、フリーランスが持つ余剰能力を外部資源として活用し、自社に不足する経営資源を補完することが一つの方策となる。これにより、組織が活性化して、新製品開発や新市場開拓を促進できるようになるだろう。少子高齢化による採用困難時代においては、外部人材を活用することが企業の経営課題となるが、その前提として法的に問題となるのが「労働者性」である。

裁判例では、(1)“労働者が使用者の指揮監督下において行われているか否か”という労務提供の形態、(2)“報酬が提供された労務に対するものであるか否か”という報酬の労務対償性によって「使用従属性」を判断している。

具体的には、(1)について、「具体的仕事の依頼」、「業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無」、「業務遂行上の指揮監督の有無」、「勤務場所・勤務時間に関する拘束性の有無」、「代替性の有無」等に照らして判断する。また、(2)について、報酬が「一定時間労務を提供していることに対する対価」と判断される場合には使用従属性を補強する。

そして、(1)と(2)の基準のみでは使用従属性の判断が困難である場合には、(3)労働者性を補強する要素として、「事業者性の程度(機械、器具の負担関係、報酬の額、損害に対する責任、商号使用の有無等)」、「専属性の程度」、「その他の事情(報酬について給与所得として源泉徴収を行っていること、労働保険の適用対象としていること、服務規律を適用していることなど)」を勘案して総合判断するとしている。

近時も、この判断基準から、宮大工やバイクのテストライダーなどが「労働基準法」にいう“労働者”に当たるとして、労災保険の適用を肯定した判決が言い渡されている。

このように裁判例は、使用従属性について、雇用契約、委任契約、請負契約といった契約の形式にとらわれるのではなく、労務提供の形態や報酬の労務対償性、これらに関連する諸要素を総合考慮し、実質的に判断している。

そのため、特定受託事業者に発注する企業としては、業務委託契約書や請負契約書を作成しておけば足りるというわけではない。名目が委託や請負であっても、実質的には、仕事の依頼等について諾否の自由がなく、業務内容や遂行方法について指揮命令を受けており、作業時間の拘束があるのであれば、労働契約の実態があると認められ、「労働基準法」や「労働安全衛生法」が適用されるリスクが生じる。仮にフリーランスが業務に起因して負傷した場合は、労働基準監督署が労働者性を肯定し、後から労働保険料を徴収されるということにもなりかねない。

そこで、企業としては、裁判例が挙げた考慮要素を参考にして、フリーランスの業務遂行や時間配分について裁量を認めなければならず、報酬は仕事の成果に応じて支払わなければならないので、その旨契約書に明記すべきだ。これに対し、実態として労働契約と評価され得るということであれば、労働契約に切り替える決断も必要となるだろう。

「フリーランス保護法」の留意点2:“ハラスメント防止体制”の整備

フリーランス保護法は、特定業務委託事業者に対し、セクシュアルハラスメント(セクハラ)、マタニティハラスメント(マタハラ)およびパワーハラスメント(パワハラ)を防止するため、相談対応などに適切に対応するための必要な体制の整備を義務づけている。その具体的な内容は自社の従業員と同様のものであり、既存の制度を活用すればよい。

しかし、契約の実態から黙示の労働契約の成立が認められると、フリーランスが業務に起因して疾病を発症した場合に安全配慮義務違反になるリスクがある。たとえ労働者性が肯定されないとしても、使用者は、「特別な社会的接触の関係に入った当事者間の法律関係上の信義則に基づく付随義務」(最高裁判例)としての安全配慮義務を負うので、ハラスメントが発生すれば民法に基づく損害賠償責任を負う可能性がある。

裁判例として、フリーランスの女性がセクハラ行為とパワハラ行為後にうつ状態と診断された事案につき、性的自由を侵害するセクハラ行為のほか、業務委託契約に基づいて男性経営者自らの指示の下に種々の業務を履行させながら、女性フリーランスに対する報酬の支払いを正当な理由なく拒むという嫌がらせにより経済的な不利益を課すパワハラ行為を認定し、男性経営者の不法行為とともに、委託企業の安全配慮義務違反を理由とする損害賠償責任を認めたものがある。セクハラとともに、いわゆるパワハラ6類型の1つである「精神的な攻撃」が違法になることは、業務委託契約に基づくフリーランスに対しても認められたのだ。

企業としては、フリーランスをハラスメントからの保護対象にするルール作りと、社内への周知を徹底することにより、フリーランスに対する安全配慮義務を履行することが望まれるといえよう。
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