2024(令和4)年の労働基準監督署(以下、労基署)の監督指導において、「賃金不払い」と見なされた件数は20,531件でした。対象労働者数は179,643人、不払いの金額は121 億2,316万円にのぼります。賃金不払いには、割増賃金や休業手当などの不払いも含みます。この記事では、「労基署の調査で賃金不払いとされたケース」や、「是正勧告を受けたときの対応方法」、そして「賃金不払いを発生させないための対策」について解説します。
【労働基準監督署(労基署)調査の対応方法 2】「賃金不払い」を指摘されたらどうする? 是正方法と予防方法を解説

労基署の調査により賃金不払いと判断された例

厚生労働省は、2015(平成27)年度からインターネット上に書き込まれた賃金不払残業などの情報を監視・収集しています。こうした情報から労基署の調査が入ることも増えてきました。

定期監督では、タイムカードや賃金台帳といった資料をもとに、過去の出勤状況や賃金の支払い状況を確認、問題があれば監督指導を行います。過去、次のようなケースが賃金不払いの指摘を受けました。

●自己申告制による労働時間管理をしていた企業で、パソコンの使用記録や警備システムの情報と自己申告の労働時間とが大きく異なっている事実が判明。労働時間の過少申告として、不払いの割増賃金を支払うよう指導された

●事前の残業申請があった場合のみ残業手当を支払うとしていた企業で、申請せず社員が長時間労働をしていた日があったと判明。管理者が残業を黙認していたとして、不払いの割増賃金を支払うよう指導された

●業務に際し制服の着用を義務付けている会社で、始業時間前に着替えを行い、その後にタイムカードを打刻している実態が判明。制服への着替えの時間も労働時間に含まれるとして、賃金を支払うよう指導された

是正勧告を受けた場合の対応方法

調査により労働関係法令に違反すると見なされた場合には、労基署より是正勧告書が交付されます。

是正勧告を受けたら、期日までに改善を行わなければなりません。賃金不払いの場合、まずは指定された期間にさかのぼって対象者の賃金を再計算し、是正した賃金を支払います。そして是正内容を記載した「是正報告書」を作成、再計算した「賃金明細書」とともに労基署に提出します。

「是正報告書」には、単に不払いの金額を支給したというだけではなく、不払いが生じないためのルールの見直しなど、将来に向けた取り組みの内容についても記載する必要があります。

賃金不払いによる是正勧告を受けないために

では、賃金不払いの指摘を受けない、賃金不払いを生じさせないためには、どうすればよいのでしょうか。ここでは、実際に是正勧告を受けた企業のその後の取り組みと、筆者が顧問先の賃金計算を行う際に注意している点を紹介します。

●是正勧告後の取り組み事例

1)残業時間の申告と実態との相違により割増賃金の不払いが生じたケース
この企業では、全社員を集めた説明会を実施、社長が「賃金不払残業撲滅宣言」を行いました。また、労働時間申告書とパソコンのログ記録に30分以上の相違がある場合には、社員から理由書を提出させ、所属長の承認を得ることとしました。

さらに、定期的に労働時間が適正に把握されているかの実態調査を行い、適切な指導を行うことをルール化しました。

2)着替え等の準備時間を労働時間にカウントしていなかったケース
この企業では、業務命令により「始業前に必要となる準備」や「終業後の片付けの時間」(制服の着替えや清掃など)については、労働時間と扱い、始業前の5分間、終業後の5分間を賃金支払い対象とすることとしました。また、その旨を就業規則にも規定しました。

●賃金計算を行う際に注意すべきこと

1)残業計算に含む手当・含まない手当
「家族手当」や「住宅手当」といった個人的事情にもとづく賃金は、残業基礎単価(残業計算時に用いる1時間あたりの賃金)を算出する際に除くことができます。ただし、社員全員に一律支給される家族手当や定額で支給される住宅手当は、残業基礎単価に含めなければなりません。除外して計算すると賃金不払いになるので注意が必要です。

家族手当は「扶養家族の人数に応じて支給されることになっているか」、住宅手当は「家賃などの一定割合を負担する規定になっているか」など、支給額の算定方法を確認しておきましょう。

2)月給制の場合の最低賃金
時給制の場合は、最低賃金に抵触していないかのチェックが容易にできます。しかし月給制の場合、1時間あたりの単価の算出方法を誤ると、最低賃金を割ってしまう恐れがあるので注意が必要です。

1時間あたりの単価は、毎月支給される月給から残業手当を除き、さらに精皆勤手当、通勤手当や家族手当なども除いた金額で算出します。そのうえで最低賃金を割っていないかをチェックするようにしましょう。



日頃から賃金不払いが起こらないような対策を講じ適切な労務管理をしていれば、いざ労基署の調査が入るとなっても心配することはありません。就業規則の規定や実務に問題がないかを、専門家に確認しておくことをおすすめします。
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