2024年6月、定額減税がいよいよ開始された。しかしながら、必ずしも準備作業に十分な時間を割けた企業ばかりではなく、6月からの減税処理が間に合わなかったというケースもあるかもしれない。ところが、定額減税事務でのこのような対応は、「労働基準法」(以下、労基法)違反になると考えられるという。それは一体、どのような仕組みなのだろうか。今回は、定額減税事務に伴う「『労基法』違反リスク」、「当該行為に対する労働基準監督署(以下、労基署)などの対応姿勢」について整理してみよう。

6月から定額減税を行わない企業は「労働基準法」違反? 減税不備に対する労基署の対応とは

月次減税事務は6月からスタート

企業勤務者に対する所得税の定額減税は、給与・賞与にかかる所得税から減税額を差し引くことによって実施される。

減税の事務には「毎月の手続き」と「年末の手続き」とがあり、前者を月次減税事務、後者を年調減税事務という。月次減税事務は、2024年6月1日以後最初に支払う給与・賞与から行うことが定められている。

しかしながら、定額減税事務の実施に対する企業側の対応が遅れ、月次減税事務の6月開始が間に合わなかったというケースもあるかもしれない。その結果、6月に支払う給与については通常どおりに所得税額を計算し、源泉徴収をしたような事例もあるであろう。

このような対応には法律上、どのような問題があるのだろうか。

6月に月次減税事務を行わないと「労基法」違反も

給与の支払いルールについては、「労基法」に詳細な定めが規定されている。具体的には、同法第24条第1項で「給与は通貨で直接労働者に全額を支払わなければならない」とされている。

ただし、その例外として「法令に別段の定めがある場合には、給与の一部を控除して支払える」とも規定されている。社員に支払う給与から所得税を源泉徴収できるのは、この例外規定に該当するためである。

それでは、6月に支払う給与について減税額を相殺せず通常の源泉徴収を行った場合にも、上記例外規定の対象として適法な行為と取り扱われるのだろうか。

この点について厚生労働省は、「そのような過大な税額の控除については、労働基準法第24条第1項の例外規定に該当すると評価はできない」という趣旨の見解を示している(厚生労働省労働基準局監督課長通知 令和6年5月30日基監発0530第1号『令和6年分所得税の定額減税に係る申告、相談等への対応について』)。

従って、仮に企業側が月次減税事務の対象社員に対し、6月以降に支払う給与で減税額を相殺せず通常の源泉徴収を行うようなことがあれば、労働基準法第24条第1項違反になると考えられるものである(同通知)。

定額減税の不備に対して全国の労基署が統一的に対応

月次減税事務を行わずに通常どおりの源泉徴収をする行為について、厚生労働省では全国の労働局および労基署の関係職員に対し、「労働基準法第24条第1項違反になると考えられる」との認識に基づいて対応するよう指示している(前述の厚生労働省労働基準局監督課長通知)。

さらに、定額減税に関して「労基法」第 24 条第1項違反であるとする申告が労働局や労基署に行われ、当該申告を受理した場合には、厚生労働省の労働基準局監督課監督係まで関係書類とともに報告を上げることも要求している(同通知)。

以上のように、定額減税の不備に伴う「労基法」上の対応は、厚生労働省の指導の下、全国の労働局・労基署が統一的に実施することになるのである。

労基法違反のリスクがあるのは「月次減税事務」の対象社員のみ

ただし、「労基法」上の上記のような違反リスクがあるのは、あくまで月次減税事務の対象社員のみである。月次減税事務の対象となるのは、定額減税の対象者のうち2024年6月1日現在勤務する社員で、給与などの源泉徴収で源泉徴収税額表の甲欄が適用される者である。

従って、月次減税事務の対象とならない以下の社員については、上記のような問題が発生することはない。

●2024年6月1日以後に支払う給与などの源泉徴収で、源泉徴収税額表の乙欄・丙欄が適用される者(扶養控除等申告書を提出していない者)
●2024年6月2日以後に入社した者


6月の月次減税事務を実施しなかった企業が「年調減税事務で帳尻を合わせればいいだろう」などと考えていると、労働基準法違反の指摘を受けかねない。十分に注意をしていただきたい。
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