人と人とのコミュニケーションは、言葉のやり取り以外の方法でも行われていることをご存じだろうか。このようなコミュニケーションをノンバーバルコミュニケーション(非言語コミュニケーション)という。リーダーの行うノンバーバルコミュニケーションは、部下の心理的安全性を構築する上で非常に重要な要素だといわれる。そこで、今回はこの点を考察してみよう。
第28回:部下の行動を左右する上司の「ノンバーバルコミュニケーション」とは

言葉以外の手段で行われるノンバーバルコミュニケーション

好ましい人間関係の構築には、コミュニケーションが重要だといわれる。組織風土は組織構成員の人間関係の集合体なので、職場内に良い風土を醸成したければ、職場で行われている個々人のコミュニケーションの質を改善することが不可欠となる。

一般的にコミュニケーションというと、「言葉のやり取り」を想像しがちである。そのため、職場でのコミュニケーションの質を改善するために、適切な言葉を発することに焦点を当てる傾向が強い。挨拶の習慣化・正しい敬語の使用などは、典型例といえよう。

しかしながら、コミュニケーション改善はそれだけでは十分ではない。人と人とのコミュニケーションは、言葉だけを介して行われるものではないからである。

意思や感情の伝達は言語に加えて態度・表情・声のトーン・視線など、さまざまな要素が媒体となって行われる。そのため、言葉以外のコミュニケーション手段が否定的な様態を帯びていると、肯定的な発言をしていても相手には否定的メッセージとして伝わることが少なくない。

言語以外の手段で行われるコミュニケーションを、ノンバーバルコミュニケーション(非言語コミュニケーション)と呼ぶ。業務に対する“前向きな感情”を部下の心に醸成し、組織にとって“好ましい行動”を取らせようと思えば、リーダーのノンバーバルコミュニケーションについても改善をする必要があるといえる。

言葉と態度の不一致が不信感を招く

具体例で考えてみよう。リーダーがパソコンで作業をしているところに、部下が「ご提案したいことがあるのですが」と言ってきたとする。その際、リーダーは「聞いているから話してごらん」と言い、パソコン作業を続けながら話を聞こうとしたとしよう。このようなリーダーの対応は、部下にどのようなメッセージとなって伝わるだろうか。

「聞いているから話してごらん」と言っているのだから、言葉では「提案を聞く」という“肯定的な意思表示”をしていることになる。一方、パソコン作業を中断しないという態度は、「提案を聞きたくない」などの“否定的意思の表れ”といえる。つまり、このリーダーの部下対応は、「言葉によるコミュニケーション」と態度による「ノンバーバルコミュニケーション」とで、伝達している情報の内容が正反対なわけである。

『肯定的な意思表示』と『否定的な意思表示』とが同時に行われた場合、情報発信者の本音は『否定的な意思表示』にあると理解されるのが一般的である。そのため、「聞いているから話してごらん」と言いながらパソコン作業を続けるリーダーに対し、部下は「本当に私の話を聞く気があるのだろうか」などと不信感や嫌悪感を抱きやすくなるものである。

その結果、部下は「お忙しそうなので、別の機会にお話をさせていただきます」と言って立ち去り、二度と提案を行わないなどの“好ましくない行動”を取ることも少なくない。リーダーの不適切なノンバーバルコミュニケーションが、部下の行動にマイナスの影響を及ぼした事例といえよう。

「表情を変えないこと」がマイナスのメッセージになることも

それでは、次のケースはどうだろうか。部下が「ご提案したいことがあるのですが」と言ってきたので、リーダーは自身の仕事の手を止めて提案を聞き始めた。提案の最中、終始リーダーは無表情で部下の説明を聞いていたとしよう。このような部下対応が、相手にどのようなメッセージとなって伝わるかを考えてみたい。

読者の皆さんは、このリーダーが表情によるノンバーバルコミュニケーションを行っていることにお気付きだろうか。「終始、無表情でいる」というノンバーバルコミュニケーションである。

自身の考えを真摯に説明しているのにもかかわらず、リーダーが終始、無表情でいた場合、部下は「私は何かまずいことを提案しているのだろうか」、「リーダーは私の提案に何の興味もないのだろうか」などの不安感に陥ることがある。上席者に提案をするという行為に対し、“後ろ向きの感情”を抱きやすくなるわけである。

その結果、次回以降の提案を躊躇(ちゅうちょ)するなどの“好ましくない行動”を取ることも少なくない。これもリーダーの不適切なノンバーバルコミュニケーションが、部下の行動にマイナスの影響を及ぼした事例といえる。

適切なノンバーバルコミュニケーションは心理的安全性を構築する

前述の2つの事例は、いずれもリーダーの態度・表情によるノンバーバルコミュニケーションが、部下の心に不信感や嫌悪感、不安感を醸成したケースである。このように、リーダーの行う非言語コミュニケーションは、部下の心理的安全性に与える影響が殊のほか大きいといえる。

この事実は、リーダーの非言語によるコミュニケーションが適切であれば、部下の心理的安全性が高まり、前向きな感情から“好ましい行動”が行われやすくなることを意味している。皆さんは、自身が統括する組織で適切なノンバーバルコミュニケーションが取れているだろうか。ぜひ、振り返ってみていただきたい。
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