最初に否定的な反応を示す「ネガティブレスポンス」
冒頭で述べた通り、“円滑なコミュニケーション”を行う上で、相手から投げ掛けられた発言に対し、「最初にどのような反応を示すか」が非常に重要である。最初の反応が相手に対して肯定的・好意的である場合、その反応を「ポジティブレスポンス」といい、反対に否定的・反好意的である場合には「ネガティブレスポンス」という。例えば、部下が上席者に対して「ご相談したいことがあるのですが、少しお時間をいただけませんか?」と声を掛けたとする。この投げ掛けに対し、「構わないよ。一体、何の話だい?」と答えた上席者A氏と、「今、忙しいんだけどな。一体、何の話だい?」と答えた上席者B氏について考えてみよう。
部下からの投げ掛けに対し、どちらの上席者も「一体、何の話だい?」と相談内容を確認して相談に応じるような姿勢を見せており、部下への返答の結論には相違がない。しかしながら、部下からの投げ掛けに対する“最初の反応”が全く異なっている。
急に相談事を持ち掛けてきた部下に対し、上席者A氏が「構わないよ」という肯定的な反応を見せているのに対し、上席者B氏は「今、忙しいんだけどな」と否定的な反応を示している。前者がポジティブレスポンス、後者がネガティブレスポンスである。
ネガティブレスポンス型リーダーが阻害する「心理的安全性」の重要性とは
恐らく、「構わないよ。一体、何の話だい?」と答えた上席者A氏に対しては、部下は予定していた相談をできるであろう。その結果、伸び悩んでいた営業成績が改善に向かうなど、良い結果がともなうかもしれない。しかしながら、「今、忙しいんだけどな。一体、何の話だい?」と、最初に否定的な反応を示した上席者B氏に対しては、「急ぎではありませんので、別の機会にします」などと、部下は相談を諦めてしまうことも考えられる。
上記の上席者A氏のケースのように、組織の中で自分の考えや気持ちを安心して発言できる状態のことを「心理的安全性」という。心理的安全性が高い組織では、メンバー個々人のパフォーマンスが向上しやすいため、「組織生産性が高まる」という特徴が見られる。
会話の中でネガティブレスポンスを示す相手には、一般的に「不快感」、「不安感」、「不満感」などのマイナス感情を抱くものである。そのため、ネガティブレスポンスを示すリーダーが統括する組織は、メンバーの心理的安全性が阻害されやすい。結果として、メンバーから企業業績の向上に繋がる“好ましい行動”を誘引しづらくなってしまう。
一方、ポジティブレスポンスを示す相手に対しては、「安心感」、「信頼感」などのプラス感情を抱くのが一般的である。そのため、ポジティブレスポンスを示すリーダーのもとでは、メンバーの心理的安全性が醸成されやすくなる。その結果、業績向上に向けたメンバーの“好ましい行動”も、十分に引き出すことが期待できるのである。
「まず“プラス面”に着目する努力」で円滑なコミュニケーションの促進を
人が「ポジティブレスポンス」と「ネガティブレスポンス」のどちらを示すかは、「物事の“プラス面”と“マイナス面”のどちらに先に着目するか」に依存している。例えば、前述の事例には「部下の悩みを解決できるかもしれない」というプラス面と、「急な依頼に応じなければならない」というマイナス面が併存していた。このとき、上席者B氏は「急な依頼に応じなければならない」というマイナス面に先に着目したため、「今、忙しいんだけどな」というネガティブレスポンスを示すに至ったわけである。
しかしながら、「今は手が離せない」などの事情があったとしても、「部下の悩みを解決できるかもしれない」というプラス面に先に着目できれば、「分かった、話を聞こう。今は手が離せないから、1時間後でもいいかな?」などと返答できたはずである。このような返答であれば、最初に発したのは「分かった、話を聞こう」という肯定的な発言のため、部下の心にマイナス感情が醸成されることはない。結果として、その後のコミュニケーションが円滑に進みやすいはずである。
組織リーダーの中には、「まずはマイナス面に着目し、相手に否定的な発言を行う」という“コミュニケーションの癖”を持つ人材がいることがある。このタイプのリーダーは「自分のほうが上位者である」などの強い思いから、自分を相手よりも優位な立場に置く目的で、無意識に否定的発言を行うことが少なくない。
しかしながら、「最初にマイナス面に着目して反応する」という行為は、その後のコミュニケーションを無機能化させてしまいかねない。円滑なコミュニケーションを取ろうと思った場合、まずはプラス面に着目する努力をし、肯定的・好意的反応を示す「ポジティブレスポンス型のコミュニケーション」を心掛けることが重要といえるであろう。
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