企業の「両立支援」をご存じですか? 「仕事と生活の両立」を企業が支援するというもので、「育児と仕事の両立支援」、「介護と仕事の両立支援」等々です。この中のひとつに「治療と就労の両立支援」があります。今回はこの「治療と就労の両立支援」(以下「両立支援」と呼びます)についてお話しします。
生産性の向上と退職リスクの低下をもたらす「治療と就労の両立支援」とは

厚生労働省も推奨する「両立支援」とは

“疾病の治療を続けながら仕事も継続できる”ことは、労働者だけではなく企業にとってもメリットがあります。なぜなら、疾病になっても働けることを示すことで、本人だけでなく周りの労働者も安心し生産性が上がり、退職リスクも下がると期待されるからです。また企業の「社会的責任(CSR)」の実現といった意義もあるでしょう。

厚生労働省(以下、厚労省)は「治療と仕事の両立支援ナビ」というサイトを立ち上げ、両立支援を強力に推奨しています。このサイトに2つの重要な資料「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」と、「企業・医療機関連携マニュアル」が載っています。

ある調査によれば、8割の企業が「両立支援に今後取り組みたい」と思っている一方で、このガイドラインを知っているのは半分以下、内容まで理解して割合に至っては5%程度でした。

以下、このガイドラインを中心に「具体的な両立支援のやり方」を説明します。ガイドラインは厚労省のサイトを参照ください。


なお、両立支援の対象となる労働者は「パートやアルバイト等を含んだすべての労働者」、対象となる疾病は「反復・継続して治療が必要な疾病全て」です(捻挫、肺炎など短期に治る疾病は対象外)。

手順その1:「両立支援」が始まるまでの準備

STEP1:宣言


まず、会社トップが「両立支援を行う」と宣言します。ある調査によると、「両立支援はデメリットの方が大きい」と思う従業員が、「メリットのほうが大きい」と思う従業員の2倍以上にのぼりました。会社トップが明確に宣言することで、「疾病を知られると会社から不利に取り扱われる」という不安が払拭されます。厚労省も取り組んでいる国策だということを付け加えると、一層効果的です。

STEP2:相談窓口の設置

相談窓口を作ります。人事労務部門だけでなく、産業衛生部門があるなら一緒に対応することが重要です。多くの従業員が「疾病を知られたら人事上などでデメリットを受けるのではないか」と心配していますが、保健師、産業医などは守秘義務があるので、安心して相談できます。

相談窓口では両立支援のメリットについて説明したうえで、本人が両立支援を利用したいかどうかを確認します。ここで重要なのは、両立支援は本人の申し出があって始まるということです。疾病があるからと言って会社が勝手に始めてはなりません。

手順その2:「両立支援」がスタート

STEP3:主治医へ連絡

会社と本人が相談して、実際の仕事内容を説明し、必要となる配慮や気を付けるべき点について尋ねる文書を作成します。そして、それを本人が主治医に提出します。ガイドラインにひな型がありますが、形式は自由です。事業場に産業医がいる場合は、いっしょに文書を作成しましょう。医師は、医師相手の方が話しやすい傾向があります。主治医の意図をくみ取ったり、会社の実情に合わせて主治医に対して意見を出したりするのは、産業医の得意とするところです。

STEP4:両立支援のプラン作り

主治医から会社あてに返答文書が届きます。産業保健スタッフか、それがいない会社は、衛生管理者や衛生推進者などが受け取ります。この文書の内容に合わせて、両立支援プランを作成します。

(1)治療・投薬等の状況及び今後の治療・通院の予定
(2)就業上の措置及び治療への配慮の具体的内容及び実施時期・期間、具体的には配置転換や軽減業務、通院時間の確保等
(3)産業保健スタッフや人事労務担当者によるフォローアップの方法及びスケジュール

の三つは必ず盛り込んだ方がいい情報です。

STEP5:プランの文書化と業務上必要な範囲に限定した開示

具体的なプランができたら、それを文書化します。本人の同意のもと、「誰に何を開示するか」を決定します。開示の対象は人事部門や上長だけとは限りません。例えば軽減業務に伴い同僚等の負担が増えるなら、理解を得るためにはある程度同僚にも開示することが望ましいです。開示する対象にあわせて、業務上に必要な範囲に絞った情報を開示するようにします。

手順その3:アフターケア

STEP6:病状にあわせてプランの見直しをする

慢性的な疾病は、よくなったり悪くなったりを繰り返すものです。必要に応じて、プランの見直しや主治医への問い合わせを行います。このような丁寧な対応により、疾病があっても安心して働くことができます。

STEP7:両立支援の規程化を目指す

いずれは両立支援の流れを規程化しましょう。ただし、一から作り上げるのは難しいです。各都道府県にある産業保健総合支援センター(さんぽセンター)へ相談に行くと、無料で懇切丁寧に指導・助言を行ってくれますのでお勧めです。



おおよそこのような流れとなりますが、いかがだったでしょうか。皆さんの会社でも、是非「治療と仕事の両立支援」に取り組んでみませんか。
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