
「マインドフルネス」とは
「マインドフルネス」とは、経験や先入観に左右されることなく、「今この瞬間」の現実に集中し、そのまま受け入れる状態やその手法を指す。過去や未来ではなく、「今」の自分自身の状態や思考に集中することで、雑念を消し、不安やストレスから解放される効果がある。「マインドフルネス」は現代では、心理学的治療の一つとしても位置づけられており、慢性疼痛や不安症、うつ病の回復期など、様々な健康問題に対する効果が期待されているだけでなく、ビジネスシーンでも集中力やストレス耐性の向上を目的として組織開発や人材育成に活用されている。
●「マインドフルネス」と瞑想の違い
「マインドフルネス」と瞑想は、どちらも精神統一や心の安定を目指すものであり、ストレス軽減やリラックス効果、集中力向上などの効果にも大きな違いはないと言える。ただし、ビジネスシーンにおいては、「マインドフルネス」が、現在の瞬間に意識を向け、評価をせずに観察することを目的とし、具体的に仕事の効率化や生産性向上などの利益や結果を求めることが多いのに対し、瞑想は、脳をリラックスさせたり休ませたりすることを目的とし、利益を求めずに行われることを指す場合が多い。
●「マインドフルネス」の歴史
マインドフルネスの起源は古代仏教にあり、特にパーリ語の仏教用語である「サティ(sati)」が語源となっている。サティは「覚醒していること」や「意識的であること」を意味し、自己認識を高めるための練習方法として古代から伝承されてきた。そして現代の「マインドフルネス」は、米国マサチューセッツ大学の名誉教授であるジョン・カバットジン博士によって医療の分野に導入され、科学的に実証されるようになった。カバットジン博士は仏教瞑想やヨガを基に「マインドフルネスに基づくストレス低減法(MBSR)」を確立した。この手法は臨床現場で採用され、ストレス軽減や心理的健康の向上に効果があることが確認されている。
日本でも仏教の影響で1500年以上前から「マインドフルネス」と同様の考え方や瞑想法は存在していたが、ツールとして入ってきたのは、1990年代と言われている。2010年代からはメディアでも取り上げられるようになり、2013年には日本マインドフルネス学会が設立。それ以降、広く浸透し始め、現在では多くの本やアプリが登場し、医療やビジネスの分野で広く利用されている。
●注目されている背景
「マインドフルネス」が注目されている背景には、現代社会のストレスや不安が大きく影響している。近年は特に、情報化が進み、人々の生活スタイルや価値観が多様化しているため、自分自身と向き合い、仕事観や人生の意義について再定義する必要性が高まっているのである。また、企業においても、社員のパフォーマンスを向上させる手段として注目されている。GoogleやAppleなどの世界的企業が「マインドフルネス」を研修プログラムに取り入れていることが知られ、その他の企業も導入するようになり、またエグゼクティブ層やスポーツ選手も広く受け入れるようになっている。
「マインドフルネス」の導入メリット・効果
「マインドフルネス」を導入することによるメリットや効果を紹介しよう。●集中力が向上する
「マインドフルネス」は集中力を大幅に向上させる効果があることが科学的に証明されている。呼吸や身体感覚に意識を集中することで雑念から解放され、クリアな状態でタスクに取り組むことができる。しかも、継続的に「マインドフルネス」を実践することでこの効果はさらに高まり、仕事や学習などの生産性を向上させることができる。●ストレス軽減につながる
「マインドフルネス」によって、過去や未来の雑念を排除し、現在の瞬間に意識を向けることで、不安や悩みから離れ、心の落ち着きを取り戻すことができる。その結果、ストレスに起因する身体的・精神的な症状が緩和され、メンタルヘルスの改善に役立ち、日常生活でのストレスに対処しやすくなる。●記憶力・処理速度が向上する
「マインドフルネス」を実践することで、脳の機能が向上し、記憶力や処理速度が向上することがハーバード大学の実験で分かっている。「記憶」と「学習」を司る海馬のたんぱく質の神経密度が増加することが明らかになったのだ。ビジネスにおいても生産性や課題解決能力が向上し、パフォーマンスの改善が期待できる。●人間関係が良好になる
「マインドフルネス」で自分自身に対する認識を高めることで、他者とのコミュニケーションがスムーズになる。また、ストレス耐性も向上するため、人間関係で辛い感情を味わうことがあっても、すぐに平静さを取り戻すことができる。つまり「マインドフルネス」はチーム内でのコミュニケーション改善にも有効なのだ。「マインドフルネス」の導入デメリット
「マインドフルネス」を導入する際に知っておきたいデメリットを解説しよう。●症状を悪化させるリスクがある
「マインドフルネス」は一般的に心身の健康を改善するとされているが、特定の症状を悪化させるリスクがある。英国コベントリー大学の研究によれば、瞑想や「マインドフルネス」を試した約1割の人が、不安やうつなどの悪影響を経験しているという。特に、未診断の不安やうつを抱えた人々が「マインドフルネス」を試みると、症状が悪化することがある。また、「マインドフルネス」や瞑想を過度に行うと、感情の敏感性を高め、パニック発作や睡眠障害を引き起こすこともある。感情の調整が難しくなってしまうのだ。そのため、「マインドフルネス」を導入する際には、医師の診断や指導、サポートが推奨される。
●初心者には瞑想・リラックスが難しい
初心者がいきなり「マインドフルネス」や瞑想によって効果を実感するのは難しいことがある。心が散漫になりやすかったり、逆に興奮してしまってリラックスできなかったりするのだ。初心者は段階的に時間を増やし、静かな環境を整えることが重要になる。また、ガイド付きの瞑想やアプリを利用するのも効果的だ。即効性を期待するのではなく、継続的な実践を心がけると良いだろう。
「マインドフルネス」は向き不向きがある?
「マインドフルネス」は、個人によって向き不向きがある。状況や心身の状態によっては、期待した効果が得られない場合もある。また、逆に悪影響を及ぼすこともある。どんな人に「マインドフルネス」が向いているのか、向いていないのかを解説しよう。●「マインドフルネス」が向いている人
「マインドフルネス」は、素直な性格やセルフコンパッション(自分への慈しみ)を持つ人にとっては効果的だ。雑念が生じても、素直な人は自分の欠点を認め、改善でき、セルフコンパッションがある人は、自己批判をすることなく、自分自身を励ますことができる。●「マインドフルネス」が向いていない人
中には「マインドフルネス」が向いていない人や苦手な人もいる。例えば、頑張りすぎて過度にストレスを感じる人や、自己中心的な人、知識に頼りすぎる人などだ。効果を得ようと頑張りすぎると逆に精神的な安定は得られないし、自己中心的だと他者に対して怒りや憎しみが生じやすい。あるいは、知識に頼りすぎると考えすぎて感覚が鈍り、「マインドフルネス」の実感を得づらい。こうした傾向のある人には、指導やサポートが必要になってくる。また、精神病やトラウマを抱えている人や、不安障害やうつ病を持つ人は、瞑想や「マインドフルネス」によって逆に症状が悪化したり、不安が増幅したりしてしまう可能性がある。専門家と相談し、個別の指導やサポートを受けることが推奨される。
「マインドフルネス瞑想」のやり方
次に「マインドフルネス瞑想」の方法をいくつか紹介していく。●集中瞑想(サマタ瞑想)
集中瞑想(サマタ瞑想)は、心を一点に集中させる瞑想法だ。呼吸や意識を集中することで、心の安定を高める。集中瞑想(サマタ瞑想)は、精神安定のための基礎とも言え、集中力向上だけでなく、ストレス軽減やメンタルヘルスの向上に効果的だ。(1)静かな場所でリラックスした姿勢を取り、呼吸や特定の対象(例えば、ろうそくの火や心地よい音)に意識を集中させる。
(2)心が散漫になったら、再び集中する対象に意識を戻す。
(3)集中力を深めていくことで、心が平穏で安定した状態に達する。
●観察瞑想(ヴィパッサナー瞑想)
観察瞑想(ヴィパッサナー瞑想)は、周囲や自分の心の状態をあるがままに観察する方法だ。情報を取捨選択する能力や観察力の向上に効果があると言われている。(1)静かな場所で姿勢を正して座り、呼吸に意識を向ける。
(2)体の感覚や心の動きをありのまま感じ、観察する。
(3)雑念が浮かんでも反応せず、ただ受け入れる。
(4)呼吸や体の感覚の観察を繰り返して、客観的に自分を見つめる。
●慈悲の瞑想(メッタ瞑想)
慈悲の瞑想(メッタ瞑想)は、自分や他者をはじめ、全ての存在に対して慈悲を広げる瞑想法だ。愛情を込めた言葉を繰り返することで、心の柔軟性や共感性が向上する。また、自分自身や他者に対する理解が深まり、人間関係の改善に役立つ。(1)姿勢を正して座り、呼吸に意識を向ける。
(2)自分自身や大切な人、中立な人や苦手な人に対して、安全や健康、幸せ、安らかであることを願うフレーズを心の中で唱える。
(3)心の広がりを感じつつ、穏やかな感情に変化する。
●ボディスキャン瞑想
ボディスキャン瞑想は、体の各部位に意識を向け、リラックスを促す方法だ。全身の緊張を解くことで身体の状態を改善したり、感覚の向上やストレス解消を図ったりする。(1)仰向けか椅子に座った状態で、身体をリラックスさせる。
(2)自然な呼吸に意識を向け、頭から足先まで順番に身体の部位に意識を向けていく。
(3)各部位の感覚を観察し、緊張を解消する。
「マインドフルネス」を導入した企業事例
Googleが2007年からエンジニア向けに「Search Inside Yourself(SIY)」というマインドフルネスの能力開発プログラムを導入したり、Appleが従業員の創造性を高めるために社内に瞑想リームを設置したりと、世界的な大手IT企業が先駆けて「マインドフルネス」を取り入れてきた。他方、日本企業でも「マインドフルネス」を導入する企業が増えている。例えば、メルカリでは、社員の発案によって立ち上がったマインドフルネス部がある。部員が「マインドフルネス」を利用して集中力をリセットすることで、仕事の能率を高めることを目的としている。
また、Sansanは、2018年に日本企業として初めて全社規模で「マインドフルネス」を使った研修を実施した。一人ひとりの価値観の再確認や集中力向上、ストレス軽減などを図り、会社全体としてのパフォーマンス向上につながることを目指している。
「マインドフルネス」を実施する際の注意点
「マインドフルネス」を実施する際には、いくつかの注意点がある。主な4点を紹介しておきたい。●指導者の資格や経験の有無を確認する
「マインドフルネス」を導入する際には、指導者の資格や経験を確認しておくことが重要だ。例えば、瞑想インストラクター(マインドフルネス資格)の資格を持ち専門的な知識を有し、トレーニングの実践経験が豊富な指導者から学ぶことで、より高い効果を期待できる。●実施者の精神・身体の状態を事前に確認する
「マインドフルネス」を行う前に、実施者の精神や身体の状態を必ず確認するようにしたい。「マインドフルネス」はストレスを軽減する効果があるが、人によっては逆に症状を悪化させるリスクもあるため、事前に医師や専門家に相談することが推奨されている。また、過去の大きなトラウマや重度の不安障害を持つ人は、指導やサポートが必要になる。●目的意識を持つ
なぜ「マインドフルネス」を行うのか、明確な目的意識を持つことで、効果を実感しやすい。目的としては、ストレス軽減や集中力向上、自己認識の向上などが挙がる。そうした目的意識を持つことで、その場限りの実践だけではなく、継続的に行い、効果を高めることにもつながる。●呼吸に集中し、雑念を流す
実際に「マインドフルネス」を実践している最中では、呼吸に意識を集中し、雑念を流すことが大切となる。心が散漫になっても再び意識を呼吸に戻すことで、平穏さを保ち、深いリラックス状態に達することができる。まとめ
多種多様なストレスを抱える現代のビジネスパーソンにとって「マインドフルネス」は有効なスキルと言える。しかも個人のストレス軽減策としてだけでなく、組織全体のパフォーマンス向上や人間関係の改善にも効果的とあって、今後ますます導入が広がっていくことも予想される。手軽に始められる施策でもあるため、ぜひ積極的に導入を検討してみてはいかがだろうか。●「ウェルビーイング」とは? 意味や計測指標、向上施策を解説
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よくある質問
●「マインドフルネス」のやり方は?
「マインドフルネス」や瞑想には、いくつかのやり方があるが、基本的な集中瞑想(サマタ瞑想)は、次の手順で行う。(1)静かな場所でリラックスした姿勢を取り、呼吸や特定の対象(例えば、ろうそくの火や心地よい音)に意識を集中させる。
(2)心が散漫になったら、再び集中する対象に意識を戻す。
(3)集中力を深めていくことで、心が平穏で安定した状態に達する。
●「マインドフルネス」をやってはいけない人は?
「マインドフルネス」をやってはいけないとされるのは、精神病やトラウマを抱えている人や、不安障害やうつ病を持つ人だ。瞑想や「マインドフルネス」によって逆に症状が悪化したり、不安が増幅したりしてしまう可能性があるため、専門家と相談し、個別の指導やサポートを受けることが推奨される。- 1