「社会保険適用促進手当の標準報酬算定除外」の狙いとは
「年収の壁」への対応策の一環として、短時間労働者が新たに社会保険に加入した場合に生じる本人負担分の保険料相当額を、事業主が「社会保険適用促進手当」として支給できるようになりました。この「社会保険適用促進手当」は、「標準報酬月額の算定基礎」から除外されます。つまり、社会保険料の上昇を抑えることができます。この制度の趣旨は、短時間労働者の手取り額の減少を抑えることで、「年収の壁」を超えて社会保険の加入を促進させ、就業調整の解消につなげようというものです。「年収の壁」によって就業調整を迫られている短時間労働者にはありがたい制度ですが、会社側は新たな社会保険料の負担に手当の支給も加わり、かなりの支出増となります。
そのため、「社会保険適用促進手当」を「標準報酬月額の算定」から除外することで、会社側の負担も軽減しようという狙いがあります。また、支給することで「キャリアアップ助成金社会保険適用時処遇改善コース」の支給対象にもなり得ます。
「社会保険適用促進手当の標準報酬算定除外」となる要件
「社会保険適用促進手当」を標準報酬算定から除外するには、対象者の月収の額や支給方法など、細かい要件を満たす必要があります。要件を満たさない場合は算定除外や助成金の対象外となり、受けられるはずの恩恵が受けられなくなる恐れもあるので、あらかじめしっかりとチェックしておきましょう。(1)対象者は標準報酬月額が「104,000円以下の労働者」のみ
標準報酬月額が104,000円超の場合、「社会保険適用促進手当」は標準報酬月額の算定に含まれることになります。そうなれば、随時改定が必要となる可能性もあります。(2)標準報酬月額(標準賞与額)の算定から除外されるのは、本人負担分の保険料まで
本人負担分の保険料を超える手当を支給した場合、超える分は標準報酬月額の算定に含まれることになります。そうなれば104,000円超の場合と同じく、随時改定の契機になり得ます。(3)対象者は新たに社会保険に加入した労働者のみ
ただし、労働者間の公平性を考慮し、「同条件で働く同一事業所内の他の労働者にも特例として同水準の手当を支給する場合」には、既加入者も対象となります。(4)標準報酬算定除外の適用は最大2年間
2年が経過した後は、通常の手当と同様に標準報酬月額の算定に含めて保険料が計算されます。(5)手当の名称は原則「社会保険適用促進手当」とする
労使合意による別の名称設定も可能ですが、算定除外や助成金審査の円滑化のため、「社会保険適用促進手当」とすることが推奨されています。*
このように、要件はかなり細かいので、事前に対象者の確認や適正な支給額の計算を行う必要があります。
「社会保険適用促進手当」を導入する際の注意点
社会保険適用促進手当を導入する場合は、次の点にも注意する必要があります。(2)割増賃金や平均賃金、最低賃金への影響がある
(1)就業規則の変更・届出が必要
新たな手当を支給する場合、「労働基準法」に基づき、就業規則(賃金規程)への規定が必要となります(常時10人以上の労働者を使用する場合)。「社会保険適用促進手当」についての規定を追加したうえで、労働基準監督署へ届出します。なお、「社会保険適用促進手当の標準報酬算定除外」は、各労働者について2年限りの措置となっています。措置期間の終了に伴い手当の支給自体を取りやめる場合、終了時に不利益変更の問題が生じる恐れがあります。そのため、あらかじめ就業規則(賃金規程)には一定期間に限り支給する旨も規定しておきましょう。
(2)割増賃金や平均賃金、最低賃金への影響がある
「社会保険適用促進手当」は保険料算定の基礎には含まれないものの、割増賃金の計算の基礎には含めるものとされています。そのため手当を毎月支給することとなった場合には割増賃金の単価が変わるので注意が必要です。またその場合、平均賃金や最低賃金の計算においても算定基礎に含めることとなります。*
社会保険適用促進手当の導入は、メリットも大きいですが、要件や手続きには注意が必要です。2024(令和6)年10月からは、社会保険の被保険者が常時51人以上の企業も106万円の壁に直面することとなります。労働力不足解消のためにも、制度を有効活用していきましょう。
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