「改正健康増進法」における受動喫煙対策
まず、法制度がどのようになっているかを確認しておこう。望まない受動喫煙の防止を図るため、多数の者が利用する施設等の区分に応じ、当該施設等の一定の場所を除き喫煙を禁止するとともに、当該施設等の管理について権原を有する者が講ずべき措置等について定めており、次の3点を基本とする。●基本的考え方 第2:受動喫煙による健康影響が大きい20歳未満の者、患者等に特に配慮する
●基本的考え方 第3:施設の類型・場所ごとに、実施禁煙措置や喫煙場所の特定、掲示の義務付けなどの対策を講ずる
なお、法改正後の各施設等における喫煙の禁止等の措置は下図のとおりとなっている。
受動喫煙対策により、現状がどのように変わるのか
このような喫煙規制が施行されていることから、従業員も就業時間中に喫煙しようとすれば、執務場所から離席することとなる。そうすると、当該時間は仕事から離れることになるため、会社としては賃金の支払義務はないことになる。いわゆる「ノーワーク・ノーペイ」の原則だ。
周知のとおり、「労働基準法」の原則は、働いた時間に対して賃金を支払うことになっており、月給制の会社であってもこの原則は変わらない。そのため、「時間外労働に対しては1分単位で賃金を支払わなければならない」とされている。そうであれば、逆に「働いていない時間」については、1分単位で賃金控除ができることになる。しかし、実務的には個々の労働者の行動時間を計測することは不可能に近いから、会社の対応としては、以下の3つが考えられる。それぞれの注意点を記しておこう。
1)就業時間中の喫煙離席時間の賃金を控除する
この対応をするときは、前述のように勤怠管理の効率性を確実に図り、未払い賃金が発生しないように注意しなければならない。控除できる時間は「喫煙によって離席し、業務から離れている時間」に限られるから、それを過大にカウントすれば「賃金の未払い」という問題を孕むことになる。この場合は、1回あたりの喫煙離席時間を過少に設定し、喫煙回数を乗じて算定すれば問題はなくなるだろう。また、この仕組みについて従業員に事前に告知しておくべきだと考える。
2)就業時間中の喫煙を全面的に禁止する
この対応で生じ得る問題は、それが「労働条件の不利益変更」に該当しないかという点である。不利益変更については、その変更に合理性がなければ無効となるが、就業中の離席は職務専念義務違反であり、現下の喫煙を取り巻く社会情勢を鑑みれば、合理性が認められるだろう。ただし、無論だが休憩時間中まで喫煙を禁止することはできない。3)就業時間中の喫煙離席時間の賃金は控除しない
この対応を何等の理由もなく採ることは難しい。社内でも多数派であろう非喫煙者からは、喫煙者の優遇、非喫煙者への差別と映ってしまう。もし、この対応を採るのであれば、「喫煙離席は許容するが、その時間が就業と遜色ない時間の過ごし方である」とのコンセンサスが得られる手法や、両者の公平感を担保する仕組みを導入すべきだろう。例えば、喫煙離席者に当該時間の報告レポートを毎月提出してもらう、あるいは会社が社内コミュニケーションに意義を見い出しているのであれば、非喫煙者向けにも「カフェスペース」を設けるなどである。
いずれにしても、予断を排除した喫煙及びそれに伴う離席に対する考え方(デメリット・メリット)を会社が整理し、従業員との対話を重ねながら、全体最適につながる対策を講じることが必要である。そう大層な問題には見えないが、積み重ねは「蟻の一穴」ともなる。慎重かつ大胆に対処しておきたい。
厚生労働省:受動喫煙対策
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