新型コロナウイルスによる世界的な感染拡大によって、「テレワーク」を導入する企業が急速に増加した。陽性者や感染が疑われる人、濃厚接触者などが一定割合で出続ければ、制度として「テレワーク」を導入せざるを得ない企業も多く、人事担当部局の悩みも尽きないのではなかろうか。とはいえ、今や「テレワーク」はさほど珍しいものでもなくなり、「流行としてのテレワーク」から、「ひとつの働き方としてのテレワーク」へ進化しつつあると言ってもよいかもしれない。ただ、問題も顕在化しているようだ。今回は、「テレワーク」における問題点に焦点を当てて、考察してみる。
「テレワークによる心身の不調」にどう対応するか? “企業主導による枠組みの整備“が必要な理由

「テレワーク」の功罪とは

我が国のことではないが、スイス連邦統計局が、昨年の10~24歳の入院理由の第1位が初めて「精神疾患」となったと発表した(AFPの報道より)。それは、前年比26%増と前例がないレベルのようである。その背景についてははっきりしていないものの、新型コロナウイルスの感染拡大で社会の機能が大きく変化したことが指摘されており、「精神疾患患者数」と「新型コロナウイルス感染症対策」との相関関係を認めているそうである。日本国内でも同様の傾向はあるようで、その一つの要因として「テレワーク」が挙げられているのだ。

「テレワーク」の「功」としては、「満員電車やバスに揺られて出社する必要がない」、「身支度に時間を割く必要がない」、「オフィスに出社する必要がなく、場所を選ばずに仕事ができる」、「育児や介護と仕事の両立を図ることが可能」、といったところであろうか。

一方で、「罪」はといえば、結果として心身の不調を訴える人が増加していることだろう。

では、この心身の不調はどこからもたらされるのだろうか? 「テレワーク」ではオフィス出社と違って、直接的な人と人とのコミュニケーションが不足する。コミュニケーションに煩わしさを感じていた人たちも、そのうち孤独感に苛まれるようになり、ネガティブな感情が蓄積していく。一人暮らしの場合は、その傾向が一層顕著となるのではないか。悩みを抱え込んで誰にも相談できず、ストレスがたまり不眠に陥るなどして、心身に不調を招いてしまう。

さらに、自己コントロールが苦手な人は、いつでもどこでも仕事ができる感覚に陥り、長時間労働をやり過ごしてしまう。いわゆる「オン」と「オフ」が切り替えにくい環境なので、業務内容によっては過緊張の状態が継続してしまうのだ。ひと言でいえば、「メリハリ」がきかない状態なのである。

また、「テレワーク」の大きな弊害に「運動不足」があり、これも精神疾患の温床となる。在宅勤務であれば座りっぱなしになり、移動距離たるやわずかなものとなってしまう人も多い。オフィス出社であれば、通勤や外回りだけでなく、ランチに行ったり、トイレに立ったり、他部署への調整に奔走したりして、無意識のうちにそれなりの運動量は確保されているはずだ。各種調査を見ても、「テレワーク」による運動不足は実感されているようである。

「日頃からの一定の運動は、ストレスの発散に繋がり、精神疾患のリスクを軽減する」ということは、エビデンスとして確立している。運動により、全身の血流が促され、脳の血流も改善される。それにより、うつ病などのリスクが抑制されるようだ。また、神経伝達物質のセロトニンの分泌が、有酸素運動によって促進されることもわかっている。

テレワークの「負」の側面に対して、企業が取り組むべきポイントとは?

このように、「テレワーク」には負の側面があることも意識しなければならない。新型コロナウイルスの感染拡大のリスクは減らせたとしても、精神疾患を拡大してしまっては本末転倒だ。

そして、その責任を社員個人だけに負わせるのは間違っている。多くの企業で取り組まれている「テレワーク」であるが、企業サイドがこの負の部分に積極的に介入しているという話はあまり聞かない。少し大袈裟かもしれないが、将来的には労働契約法第5条の安全配慮義務が求められる可能性も高くなるだろう。そのように考えたら、すべてを社員の自律性に任せるのではなく、企業主導でその枠組みを具体的に用意していかなければならない。例えば、次のようなことが考えられる。

(1)テレワーク推進の枠組(プログラム)を全社的なコンセンサスの下に策定し周知すること

(2)テレワーク時の運動プログラムを策定し義務づけること

(3)テレワーク時の上司や同僚との定期的なコミュニケーションを義務づけること

(4)テレワーク対象者のリスキリング研修を実施すること
●指示待ち社員の意識改革
●テキストコミュニケーション力の向上

(5)部下を潰すようなアンコンシャスバイアス上司を再教育すること

以上のような対策は、「テレワーク」の法的コンプライアンスよりも、人事労務管理上の優先順位が極めて高いと認識したほうがよいだろう。


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