「副業・兼業」における“労働時間の通算”とは
まず、複数の会社に雇用された場合、労働時間は通算されます。例えば、ある1日において、A社で6時間働き、その後B社で2時間働いた場合、その日の労働時間は8時間ということになります。ただし、この通算については、あくまで「雇用」されている場合だけです。副業・兼業には「雇用型」と「委託型」がありますが、委託型(例えば、フリーランス、個人事業主等)の場合、労働時間の通算の対象とはなりません。また、週末に副業で農業を行う場合等のように、そもそも労働時間の規制が及ばない業種・業務(例えば、農業、水産業、管理監督者等)であれば、労働時間の通算の対象とはなりません。
●労働時間の通算の方法
労働時間の通算の方法ですが、労働者からの申告等に基づいて次のとおり通算します。(例)
・A社の所定労働時間:6時間
・B社の所定労働時間:3時間
【1】労働契約を先に締結した方から順に所定労働時間を通算する
A社が先に労働契約を結んだ場合、A社(6時間)+B社(3時間)=9時間が、その日の労働時間となります。
【2】労働契約が後の所定労働時間で、法定労働時間を超える部分が時間外労働となる
【1】においては、1日の労働時間が9時間となるため、法定労働時間を1時間超えています。この1時間は、労働契約が後であるB社の時間外労働としてカウントします。すなわち、B社は「副業・兼業」をする前のこの時点で、常に1時間の時間外労働が発生することを認識しておく必要があります。
このように、副業・兼業が始まる前の段階では、労働契約の締結の先後がポイントとなります。
●時間外労働は時間的に先のものから順に通算する
時間外労働については、時間的に時間外労働が行われる順にカウントします。例えば、A社で1時間の時間外労働が発生し、その後、B社でも2時間の時間外労働を行った場合、次のようになります。
・A社:所定労働時間6時間+時間外労働1時間(計7時間)
・B社:所定労働時間3時間(うち1時間は【2】により時間外労働)+時間外労働2時間(計5時間)
【2】により、すでにB社での時間外労働1時間は確定しています。加えて、A社では1時間、B社では2時間の時間外労働をカウントします。あわせてこの日は4時間(A社1時間、B社3時間)の時間外労働が行われたことになります。
A社、B社を単独で見ると、この日は労働時間がそれぞれ7時間、5時間となっており、法定労働時間である8時間以内に収まっています。通常であれば割増賃金の対象ではないにもかかわらず、【1】の所定労働時間の通算の時点で法定労働時間を満たしているため、A社、B社でそれぞれ時間外労働となってしまうわけです。ここが通算のポイントとなります。
「管理モデル」による労働時間の通算
ガイドラインでは、労働時間管理を簡便にするための運用方法が示されています。これを「管理モデル」と言います。「管理モデル」とは、副業・兼業の開始前に、時間外労働の上限の範囲内(単月100時間未満、複数平均で80時間以内)に収まるように、A社とB社それぞれの会社での労働時間の上限をあらかじめ設定しておいて、その範囲内で労働者を労働させるものを指します。あらかじめ上限を設定し、その範囲内で働いてもらう分については、時間外労働の上限規制を超えることがなくなるわけです。そのため、「原則的な労働時間の通算の管理」のように、常に他の会社の労働時間(例えば、「今日はB社で何時間働いたのか」)を把握する必要もありません。
そして、「管理モデル」においては、労働時間の上限を次のとおりに定めていきます。
【1】労働契約が先の会社の法定外労働時間
【2】労働契約が後の会社の所定労働時間と所定外労働時間
この【1】と【2】を合計した時間が、単月100時間未満、複数月平均80時間以内になるようにします。
“労働時間の通算”において把握しておくべき事項
ガイドラインには、労働者から確認する事項として次のような項目が挙げられていますので、ぜひ参考にしてみて下さい。●他の使用者の事業場で労働者が従事する業務内容
●労働時間通算の対象となるか否かの確認
労働時間通算の対象となる場合、併せて次の事項について確認し、各々の使用者と労働者との間で合意しておくことが望ましい。
●他の使用者との労働契約の締結日、期間
●他の使用者の事業場での所定労働日、所定労働時間、始業・終業時刻
●他の使用者の事業場での所定外労働の有無、見込み時間数、最大時間数
●他の使用者の事業場における実労働時間等の報告の手続
「原則的な通算方法」、「管理モデル」ともに、会社は副業・兼業先である他の事業所の労働時間をはじめとした労働契約の内容を把握しなければ、管理ができません。そのため、会社は、労働者が副業・兼業を申し出てきたときには、その内容を確認する必要があります。
自社の従業員の副業・兼業を会社として推進していく際には、ガイドラインなどで制度をよく把握したうえで、対応方法を検討することをお勧めします。
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