「週休3日制」は“多様な正社員”実現の手段となるか
人口減少と少子高齢化が進む日本では、労働力不足が懸念されています。そうした中で政府は、「誰もが生きがいを感じてその能力を発揮できる社会」や、「個人が自由度の高い働き方や暮らしを通じて、豊かさや仕事のやりがいを感じられる社会」を創っていこうとしています。そのために増やそうとしているのが、時間や地域などに制限のある正社員(=“多様な正社員”)です。何らかの理由により制限付きでの勤務を希望する人を、労働市場に復帰・定着させて労働力を確保し、ワークライフバランスを実現することで「やりがいを持って働ける環境」を整備しようとしているのです。
厚生労働省は、「週休3日制」を“多様な正社員”実現の1つの施策として紹介しています。休日が増えるため、労働者としては「ワークライフバランスの実現」などのメリットが、企業としては「人材の多様化」や「優秀な人材の確保・定着」などのメリットがあり、コロナ禍による社会変容も相まって、この数年で注目されている制度です。
「週休3日制」というと、単純に所定労働日を減らすことをイメージする方もいるかもしれませんが、この制度の実現にはいくつかの方法があります。
週休3日制の実現方法(1):1日の所定労働時間を長くする
「1日の所定労働時間長くする」という方法は、休日を増やす代わりに、その分の労働時間を労働日に上乗せするイメージです。この方法では“週の所定労働時間”は変わりませんので、給与の変更等も原則発生しません。例えば、「1日の所定労働時間が8時間、完全週休2日制」の企業でこの方法を採用した場合、1日の所定労働時間を「10時間」、「週4日勤務」とすることで、週休3日を実現できます。週の所定労働時間は「40時間」ですので、総労働時間としては変わらないためです。この方法を採用する場合には、1ヵ月単位の「変形労働時間制」の手続きをとる必要があります。これにより、1日8時間を超える所定労働時間を設定することができます。
この方法のメリットは、労働時間が変わらないため「基本給が変わらない」という点です。株式会社マイナビが2022年2月に発表した調査結果では、「週休3日制に限らず、現在より休みが増えたときに想定される仕事への影響は何か」という旨の質問に対して、最も多かった回答が「収入が減りそう」というものでした。このことから、給与が変わらないまま休日を増やせることは、労働者にとって1つのメリットと考えられます。事実、同調査での「収入は変わらず1日当たりの労働時間が増える場合に、週休3日制を利用したいか」という旨の質問に対しては、5割弱の人が「利用したい」あるいは「どちらかといえば利用したい」と回答しています。
一方で、残業をせずとも1日の労働時間が8時間を超えるため、「休日出勤や時間外労働の管理を徹底する」、「勤務間インターバル制度を導入する」、「産業医面談の機会を増やす」など、労働者の労働時間管理や健康確保には、より一層力を入れたいところです。
週休3日制の実現方法(2):1日の所定労働時間は変えず週の所定労働日数を減らす
「1日の所定労働時間は変えず、週の所定労働日数を減らす」という方法は、今の働き方のまま“週の所定労働日数”を減らすイメージです。労働日が減るため、その分基本給が下がるような運用がされることが多いです。導入は簡単なように見えますが、労働者からすれば元々の労働契約から労働日数と給与が減らされることになるため、“労働条件の不利益変更”になりかねないという点には注意が必要です。また、週の所定労働日数が減ると、年次有給休暇が比例付与になったり、社会保険や雇用保険の適用から外れたりといった可能性も否定できません。制度導入時にはきちんと確認しておきたい点です。
先に紹介したマイナビの調査では、「勤務日数の減少に合わせて収入も減少する場合に、週休3日制を利用したいか」という旨の質問に、8割近くの人が「利用したくない」あるいは「どちらかといえば利用したくない」と回答しています。こうした観点からも、この方法を採用するときには、導入前に労働者の意見を収集し、説明や合意も丁寧に行いましょう。
一方、「労働日数を減らしても給与は減らさない」という選択をしている企業も存在しています。この方法では、労働者の満足度が向上しやすく、全社で「生産性向上」を考えるきっかけにもなるという声もあります。
週休3日制を導入する際の懸念点として、「コミュニケーション不足」を挙げる企業が多くあります。導入前には、「業務の属人化の解消」や「コミュニケーション方法の見直し」などの対策の実施を併せて検討しておきたいものです。また、コミュニケーション不足の問題は、社内だけでなく社外にも当てはまります。担当や仕事の進め方の見直しだけでなく、社外に向けても説明を行い、週休3日制導入後も取引先や関与先と変わらずに円滑な業務を行えるようにすることが求められます。
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