事業拡大に伴い従業員が増えることは喜ばしいことであるが、従業員が増えれば会社として対応しなければならないことも増えてくる。今回は、従業員が50人以上になった際に発生する義務について解説する。
「従業員が50人以上」になった際に発生する労働法令上の義務を解説。事前万全な対策を

「労働安全衛生法」に基づく義務について

「安全衛生法」上、「常時使用する労働者が50人以上の事業場」では従業員の安全と健康を守るために様々な義務が生じる。「常時使用する労働者」とは、パート・アルバイト等の臨時的労働者の数を含めて、常態として使用する労働者の人数をいう。また、「事業場」の捉え方については、一つの事業場であるか否かは“場所的観念”によって決定すべきであり、同一の場所にあるものは原則として一つの事業場とし、場所的に分散しているものは原則として別個の事業場とされている。

「労働安全衛生法」上、対応が必要な事項は、以下のとおりである。

(1)産業医の選任

職場において労働者の健康管理等を正しく効果的に行うためには、医学に関する専門的な知識が不可欠なため、「産業医」を選任し、労働者の健康管理等を行わなければならない。ひとつの会社で、従業員が50人以上の事業場を複数所有している場合は、各事業場にそれぞれ産業医を選任する必要がある。産業医については、ストレスチェックや衛生委員会の運営支援等も関わってくるので、自社の業務内容や状況を理解してくれる産業医を選任するのがよいだろう。

(2)衛生管理者の選任

職場における労働者の健康障害を防止するため、その事業場専属の「衛生管理者」を選任しなければならない。衛生管理者は少なくとも毎週1回は作業場等を巡視し、設備や作業方法などを確認し、衛生状態に有害のおそれがある場合は、直ちに労働者の健康障害を防止するために必要な措置を講じなければならない。なお、建設業等一定の業種については、安全管理者の選任も必要である。

(3)衛生委員会の設置

労働者を危険や健康障害から守るための基本となるべき対策などについて、労働者の意見を反映させるよう十分な調査審議を行うのが「衛生委員会」である。衛生委員会は月1回以上開催され、議長、産業医、衛生管理者、及びその会社の従業員で衛生に関する経験があるメンバーで構成される。なお、建設業等一定の業種については、安全委員会の開催も必要であるが、安全委員会や衛生委員会を設けなければならないときは、それぞれの委員会の設置に代えて、「安全衛生委員会」を設置することができる。

(4)定期健康診断報告について

健康診断自体は従業員の人数に関係なく実施しなければならないが、50人以上になった場合は、健康診断の診断結果を労働基準監督署へ報告する義務が生じる。提出については、「遅滞なく」提出しなければならないとされており、結果が出たらできるだけ速やかに報告書を作成し、提出しておきたい。

(5)ストレスチェックの実施について

労働者がメンタルヘルス不調になることを未然に防止することを主な目的として、ストレスチェック制度が2015年12月に施行された。厚生労働省では、無料の「ストレスチェック実施プログラム」を提供しており、自社で行うこともできるが、外部委託も可能であるので検討したい。

(6)休養室について

労働安全衛生法第618条により、常時50人以上または、常時女性30人以上の労働者を使用する事業場は「労働者が臥床することのできる休養室または休養所を、男性用と女性用に区別して設けなければならない」と規定されている。休養室とは、事業場内で体調が悪くなった従業員を休養させるために使用する場所だ。男性・女性、それぞれで横たわって休養できるスペースが必要になる。労働者の安全衛生管理を怠り労働災害が発生した場合、事業主には6ヵ月以下の懲役や50万円以下の罰金などが科せられる可能性もある。人事労務担当者としては注意しておきたい。

その他の法律による事項について

その他、人数的に気を付けておきたいのは、以下の事項だ。

(1)社会保険の適用拡大について

法律改正により、週の労働時間が20時間以上のパート・アルバイト等に社会保険の加入が義務化され、新たに対象となる企業が段階的に拡大される。現在は従業員数501人以上の企業が対象であるが、2022年10月に従業員数101人以上の企業が、2年後の2024年10月からは従業員数51人以上の企業が対象となる。なお、この場合の従業員数は現在の厚生年金保険の適用対象者数(「フルタイムの従業員数」+「週労働時間がフルタイムの3/4以上の従業員数」)でみる。

(2)障がい者雇用について

全ての事業主は、従業員の一定割合(=法定雇用率)以上の障がい者を雇用することが義務づけられており、これを「障害者雇用率制度」という。障がい者雇用率は2021年3月から2.3%となっており、対象となる事業主の範囲は、労働者数43.5人以上である。50人と近い数字なので、覚えておくとよいだろう。


今回は、従業員が50人以上になった場合に必要な義務について解説した。従業員が50人以上となると、会社としてやらなければならないことが増えてくる。しかし、社内の安全衛生体制の整備等は、今後の成長の土台となるためしっかりと取り組んでおきたい。選任に資格を要するものもあり、すぐに対応ができないことも考えられるため、事前に対策を講じて、労使双方にとって安全で快適な職場環境づくりを目指してもらいたい。
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