パワハラ防止は、従業員の「安全の欲求」を満たすもの
マズローは、「人の欲求はピラミッド状に5段階に分かれ、下層にある低次の欲求が満たされることで、より高次の欲求に向かっていく」としています。パワハラ防止は「安全・安定の欲求(以下、安全の欲求)」を満たすことが目的と言えるでしょう。誰もが「安全の欲求」を満たすことで、より高次の欲求へとつながり、自分らしい人生を歩むこと、さらにはモチベーションを高めることで会社の生産性・効率性を高めることにもつながっていきます。
このような価値観・欲求の違いがある中で、上司のAさんが親切心から部下のBさんに対して「会社への帰属意識を高めたいと思い、親密な関係をつくろうとする」、「定年まで働くことができるように、より厳しく叱咤激励する」などの行動を取ったとしても、Aさんの指導がBさんの欲求とかけ離れているので、あまり効果がないかもしれません。
しかしそれをAさんが理解できていないと、
「効果を得るために行動の強度を上げる」
↓
「コミュニケーションが嚙み合わない」
↓
「コミュニケーションが少なくなる」
↓
「パワハラにつながるリスクが高くなる」
という悪循環につながってしまいます。
パワハラを避けるためには、他者の「安全の欲求」が自分の基準とは違うことを早い段階で意識し、自らの「安全の欲求」に固執しないことが大切です。
パワハラ防止に向け、コミュニケーションを促進するための3つのポイント
【ポイント1】「互いの高次の欲求を尊重すること」が会社の生産性を高める
ひと昔前であれば、会社にはAさんのような人たちが多く、一致団結することで会社の生産性を高めることができたかもしれませんが、職場の「多様化」が進む現在は必ずしもそうではありません。重要なことは、自らの「欲求」を知り、それを部下に押し付けないことです。階層別研修等で上司が自らの人生や価値観を顧みる機会をつくるとともに、外部研修等でいろいろな会社の実践例を知る機会をつくることで、“今の時代に必要とされる職場環境”を上司がきちんと理解することが大切です。
【ポイント2】部下の「自己実現の欲求」を知ること、そして寄り添うこと
日々の忙しさに追われると、部下とのコミュニケーションが希薄になっていくこともやむを得ないかもしれません。だからこそ、要所で行われる面談・研修などの機会を大事にしましょう。部下が目指す将来像を知ることで、本人が大事にしていることも知ることができます。また、部下が参加するOFF-JTなどの様子から、新たな一面が垣間見えることもあるかもしれません。そのような一つひとつの積み重ねが、部下の「自己実現の欲求」に寄り添うことにつながっていきます。
【ポイント3】上司が「待つ」ことも必要
一方で、上司から積極的にコミュニケーションを取ることが、必ずしも良いこととは限りません。踏み込み過ぎると、それがパワハラの要因になることもあるからです。上司がコミュニケーションを主導するだけではなく、時には「待つ」ことも必要です。上司としての責任感が強すぎると積極的に動いてしまいがちですが、大事なことは「部下は、上司の姿を常に見ている」という心構えです。日常の仕事ぶりだけでなく、さまざまな場面における感情の表し方や立ち居振る舞い、周囲への気配りなど、部下は上司の細かい部分をしっかりと見ているものです。上司は、そのような心構えを常に意識し、自らを高めていく姿勢を見せ続けることが大切です。
そのような上司の姿を見ることで、部下が自ずと「上司へ相談したい!」と思うことにもつながっていきます。そのような関係が構築できれば、部下は上司とコミュニケーションを図ることに安心感が生まれ、「パワハラがない職場環境」へと近づいていくでしょう。
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