最低賃金アップを乗り切る注目の助成金その1:業務改善助成金
「業務改善助成金」は中小企業や小規模事業者が対象で、“事業場内で最も低い賃金”の引き上げを図ることを目的とした制度となっています。しかし、ただ労働者の賃金をアップすれば良いというわけではありません。まず、生産性向上のための設備投資などを行なった上で、“生産性が上がった分の余力”を事業場内の最低賃金引き上げに充てます。そうすることで、設備投資などにかかった費用の一部を助成する仕組みになっているのです。助成額は、たとえば「賃金を引き上げる対象の労働者」が1人で、「賃金引き上げ額」が30円以上の場合、30万円が上限となっています。なお、「対象の労働者」が2〜3人の場合、上限は50万円です。助成率も設定されており、事業場内最低賃金が900円以上の場合は「生産性向上のための設備投資にかかった費用」の75%、事業場内最低賃金が900円未満の場合は80%となります。
業務改善助成金の対象となる事業場は、「『事業場内の最低賃金』と『地域別最低賃金』の差額が30円以内であること」と、「事業場の規模が100人以下であること」が条件となっています。
助成金の対象となる設備投資としては、たとえば、レジで金銭の操作をすると在庫状況が反映されるようなPOSレジシステムや、自動釣銭機、券売機の導入などです。また、給与システムの導入や人材育成費用、店舗のレイアウト変更のための改修も対象になり得ます。
もう少し具体例をご紹介すると、
(1)飲食店がテーブルオーダーシステムを導入し、お客さんが自分で注文を行うことで、オーダーと会計の業務を軽減。ホールスタッフの負担を軽くし、生産性を上げる
(2)WEB会議システムを採用して取引先への移動時間を節約することで、業務の生産性を向上させる
といったことが挙げられます。
●厚生労働省:業務改善助成金について
最低賃金アップを乗り切る注目の助成金その2:キャリアアップ助成金
有期雇用労働者を正社員にしたり、賃金規定を改定したりすると、「キャリアアップ助成金」が使えるかもしれません。●正社員化コース
有期雇用労働者等を正規雇用労働者等に転換する、派遣労働者を派遣先の事業場で直接雇用する、といった場合に助成されます。中小企業であれば、有機雇用労働者を正社員にすると、ひとりあたり57万円が支給され、生産性要件が満たされれば72万円に増額されます。また派遣労働者を、派遣先の事業場で正規雇用労働者や勤務地限定正社員などの形で雇用すると、28万5千円が加算されます。支給要件として、「正規雇用に転換前の6ヶ月」と「転換後の6ヶ月」の賃金を比較したとき、3%以上増額されている必要があります。算定対象の賃金には、賞与や通勤手当、住宅手当などは含まれず、基本給などで比較されることになります。
●賃金規定等改定コース
すべてまたは一部の有期雇用労働者等を対象に、基本給の賃金規定などを2%以上増額する改定を行い、実際に昇給させて支給すると、対象労働者の人数などに応じて助成金が支給されます。たとえば中小企業の場合、すべての有期雇用労働者等を対象に賃金規定を2%以上増額するよう改定して、1事業所あたり1~3人の対象労働者に対して賃金を増額した場合、9万5千円が支給されます。さらに生産性要件を満たすと、12万円に増額される仕組みです。
最低賃金アップを乗り切る注目の助成金その3:人材確保等支援助成金
雇用管理制度や人事評価制度を整備する場合は、「人材確保等支援助成金」を検討しましょう。●雇用管理制度助成コース(諸手当制度)
住居手当や資格手当、役職手当などを整備の上、離職率低下などの目標を達成すると、57万円が助成されます。ただし、「諸手当等制度」の助成対象となる通勤手当や家族手当は、最低賃金の算定の対象にはなっていないので注意が必要です。●人事評価改善等助成コース
生産性向上のための人事評価制度と賃金制度を整備し運用することで、離職率の低下などを図る事業主が対象となっています。賃金アップや生産性要件、離職率の低下といった目標を達成すると、80万円が助成されます。いかがでしょうか。最低賃金の上昇にかかる人件費の負担をカバーするために知っておきたい、様々な助成金があります。ただし、それぞれの助成金を受給するためには要件をクリアする必要があり、支給申請の方法も複雑です。助成金の利用を検討される場合は、人事労務のプロで、助成金の申請業務も可能な社会保険労務士に相談されることをお勧めします。
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