じわじわと「老齢厚生年金」の支給年齢が引き上げられている中、これに関連する制度が令和4年にまたもや大きく変わります。具体的には、「在職老齢年金制度」で65歳未満の方に対する「老齢厚生年金の額を減額するための基準」が緩和され、また65歳以降の方については、年金額が毎年改定される「在職定時改定」が新設されます。さらに「老齢厚生年金」の「繰下げ支給枠」の拡大などもあり、改正内容が目白押しとなっています。これらについて、それぞれ詳しく見ていくことにしましょう。
令和4年より「在職老齢年金」や「老齢厚生年金」制度が大きく変更。具体的には何が変わる?

65歳未満の「在職老齢年金」は支給停止の基準額が緩和

現在の「老齢厚生年金」の仕組みでは、会社などに勤めていて「一定の収入」があると年金額が減額される「在職老齢年金」という制度があり、65歳未満の方は、65歳以上の方よりも減額される年金の基準額が低く設定されています。この制度は、企業の定年年齢を「60歳以上」とし、「65歳までの雇用義務が課せられていること」が関係しています。「高年齢者雇用安定法」によって定年年齢を「65歳未満」に定めている事業主には、以下のいずれかの「高年齢者雇用確保措置」を実施することが必要となるからです。

・65歳までの定年の引上げ
・65歳までの継続雇用制度の導入
・定年の廃止


これは、企業に勤める65歳までの高年齢者の「安定した雇用」を確保するための措置となり、基本的に65歳までは「就労期間であること」が前提となっています。「特別支給の老齢厚生年金」は、「低賃金就労者の生活を保障するために支給される」という位置づけになっているため、65歳以上の人と比べて支給停止の額が低く設定されているのです。

一方、65歳以上の場合は「老齢厚生年金が主な収入源」となるので、“高収入就労者”の厚生年金の支給額を調整していく仕組みになっています。しかし、現在65歳未満の方に支給されている「特別支給の老齢厚生年金」は、段階的に引き上げられており、さらに男性は「2025年度」、女性は「2030年度」に終了するため、「在職老齢年金」の仕組みによって“支給停止”になる人はどんどん減っていっているのが現状です。

このように、現行の「在職老齢年金」では、「老齢厚生年金」が支給停止になる基準額について“65歳未満”と“65歳以上”とで違いがありますが、令和4年4月より「65歳未満の支給停止額を、65歳以上に適用されている基準額まで引き上げるよう変更」となります。具体的には、現在65歳未満の人について、「賃金」と「老齢厚生年金」の月額を合計して「28万円」を超えると「老齢厚生年金」の額が減額される仕組みになっていますが、この基準額が65歳以上の人と同じ「47万円」まで緩和されることになります。

今の賃金制度で「老齢厚生年金」の減額対策として、「賃金」と「老齢厚生年金」の月額の合計を、上限である28万円付近に設定しているとしたら、今回の改正では、現行の賃金制度に一石を投じるものになるでしょう。

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【HRプロ編集部Presents】令和4年度(2022年度)版「人事労務 法改正まとめ」~社労士が12の法改正を解説~

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仕事をしていても「老齢厚生年金」の額が増える? 「在職定時改定」とは

現行の制度で「老齢厚生年金」の金額が変わるタイミングは、以下の通りです。

(1)「65歳」

この年齢は「特別支給の老齢厚生年金」が終わり、本来の「老齢厚生年金」が支給されるタイミングです。65歳になる直前の月までの被保険者期間が、老齢厚生年金の額に反映される形で支給されます。

(2)「70歳」

「厚生年金の被保険者」が原則70歳までなので、ここでまた「老齢厚生年金」の額が再計算されて支給されることになります。

(3)「退職時」

改定では、退職して被保険者の資格を失ってから再就職せずに1ヵ月が経過すると、それまでの「被保険者期間」に応じて「老齢厚生年金」の額が改定される仕組みになっています。ただし、会社を退職してから1ヵ月以内に再就職して被保険者になると「老齢厚生年金」の改定は行われません。

しかし、令和4年施行の「在職時改定」によって、65歳以上の方については「会社を退職しなくても、毎年10月に老齢厚生年金の額が改定」となります。そのため、毎年1年分の被保険者期間が「老齢厚生年金」の金額に反映され、年々増額されることになるのです。

「老齢厚生年金」の繰下げ支給範囲が拡大 。「待てば待つほどたくさんもらえる」

65歳以降に支給される「老齢厚生年金」については、支給の時期を遅らせる「繰下げ支給」制度があり、70歳まで支給を先延ばしすることができます。先延ばしするメリットは、すばり「年金の増額」です。66歳になるまでは繰下げ支給をすることができませんが、66歳以降は、支給を1ヵ月先送りするごとに“0.7% ”増額されます。したがって、現行で上限の70歳まで支給を繰下げると、“42%増額”されるわけです。

これが令和4年より、「令和4年4月1日以降に70歳に到達する人(昭和27年4月2日以降に生まれた人)」については、「老齢厚生年金の繰下げ支給」の上限が75歳まで引き上げられ、その場合の増額率は“84%”となるのです。

今回の改正では、
・65歳までの方であれば「老齢厚生年金」の「支給停止の基準額」が変わる
・65歳以上の方の場合は「在職定時改定」の「繰下げ支給枠」が拡大する

が大きな変更点となります。また、先ほど述べた「高年齢者雇用安定法 」が、令和3年4月より改定施行され、「65歳までの雇用確保の義務」に加えて、「70歳までの就業機会の確保」が努力義務となります。

このように、60歳以上の従業員の働き方がどんどん変わっていくので、あわせて賃金設計も変えていく必要があるでしょう。ただ、現行の労務管理体制を変えていくのは、決して容易ではありません。自社の状況に合ったシステムにするためには、社会保険労務士など労務の専門家と相談しながら進めていくのがスムーズでしょう。
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