人づくりの理念を 2 年かけて明文化
経営理念やミッションをきちんと定めてあるからといって,安心はできない。最近では大半の会社がそうしたものを明文化しているが,肝心なのは,どれほど熱く社員の胸に届いているかということだ。野村総合研究所の調査(『仕事に対するモチベーションに関する調査』)によると,現在勤めている会社の理念やミッションを「知ってはいるがピンとこない」と感じている人の割合は57.1%。「知らない,忘れた」「そもそも関心がない」が計14.7%。おおざっぱに見て,働く人の7 割以上は自社の理念やミッションを熱く受け止めてはいないことになる。
トヨタが自社の価値観に「リスペクト」を掲げたこともあって,この言葉はその後ちょっとした流行になった。「わが社が求めるのは自律的人材,メンバーの合言葉はリスペクト」というふうに。しかし耳に心地よい言葉は,右から左へと抜けていきやすいものだ。「知ってはいるがピンとこない」人も多いだろう。だからこそ,トップをはじめ上に立つ者が繰り返し熱く語ることによって,社員の心に深く染み込ませなければならない。迫力と熱意が感じられなければ,言葉に命は宿らないからである。
『トヨタウェイ2001』の策定には,同社の課長クラスが部門を超えて集まり,トヨタの歴史と価値観を議論するところから始まった。さらに上位職を巻き込んでの議論が続き,完成までに2年の月日を要している。そこにはウェイに盛り込まれた5 つのキーワードを実現するために,10ヵ条の行動基準が明文化された(図表)。
次世代のリーダーに対して,「問題を見つけたあなたが決断して実行しなさい」「一人の部下に対して真剣に立ち向かいなさい」「部下があなたに挑戦して,あなたの作った業務プロセスを改善するような風土を作ってください」と語りかけているのだ。
ここには,かつて豊田英二氏が語った「自分を凌駕する部下を育てよ」,張富士夫氏が説いた「クルマづくりの前に人づくり」の精神がそのまま生きている。リーダーは何をなすべきかがストレートに伝わってくる熱い指針ではないか。
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