「マンダラチャート」とは
「マンダラチャート」とは、9×9のマス目に要素を配置しながら目標設定・思考整理をしていくフレームワークである。81マスの中心にメインテーマを置き、周囲に関連する要素を配置していくことで、全体を俯瞰しながら目標やアイディア、計画の立案をしていくのが特徴で、「マンダラート」とも言う。1979年、経営コンサルタントだった松村寧雄氏によって考案され、その後ビジネスや自己啓発の分野で広く活用されるようになった。●「マンダラ(曼荼羅)」の意味
「マンダラ(曼荼羅)」は、仏教やヒンドゥー教で用いられる宗教的な図像で、宇宙の真理や精神世界を表現するものである。サンスクリット語の「マンダラ(mandala)」に由来し、「円」や「輪」を意味する。中心から外側へと同心円状に広がる構造が「マンダラ」の特徴で、「マンダラチャート」も中心のメインテーマから外側のサブテーマへ派生するチャートであることから、この「マンダラ」という言葉がつけられた。●「マンダラチャート」が注目される理由
「マンダラチャート」が一躍注目を集めたのは、プロ野球の大谷翔平選手が高校生時代に作成していたと話題になったことがきっかけだった。その後、スポーツの目標設定以外にも、アイディア創出や問題解決といったビジネスシーンなどでも活用できると、その汎用性がして広く認知されるようになった。●大谷翔平選手の「マンダラチャート」例
実際に、大谷翔平選手が花巻東高校時代に作成したマンダラチャートの例を紹介しよう。中心のメインテーマには「ドラ1・8球団」、つまり8球団からのドラフト1位指名を最大の目標として置いていた。「マンダラチャート」の8つの特徴
「マンダラチャート」には、以下の8つの特徴があると言われている。それぞれを解説していこう。(1)バランスが取れる
中央のメインテーマを囲む8つのサブテーマという配置構造により、目標や課題に対して多角的なアプローチが可能だ。一部の要素に集中することなく、全体を網羅的に考えることができる。(2)全体と部分と関係性が一目で同時に把握できる
メインゴールとその実現までの具体的なタスクが一目でわかる。そのおかげで、目標達成に向けた道筋や各要素の相互関係が明確になる。(3)全ての問題を解決できる
個人の目標設定や企業の戦略策定など、様々な規模や性質の課題解決に活用することができる。(4)無限の発想が湧きながら集約できる
マス目を埋めていく過程で自然とアイディアが湧きながら、それを体系的に整理し、一つのシートに集約することができる。最終的な方針にも落とし込みやすい。(5)階層化した情報を把握できる
中心から外側へと段階的に展開していく構造により、情報を階層にして把握することができる。つまり情報の優先度を明確にしやすいということだ。(6)本質を把握できる
体系的に分析することで、表面的な課題だけでなく、根本的な問題点や本質的な目標を見極めることができる。また、複数の視点から検討するので、見落としがちな重要な要素も見逃しにくい。(7)情報を共有できる
一覧性が高いフレームワークであり、チームのメンバーや関係者との情報共有がしやすい。進捗状況を一目で確認できたり、直感的に理解ができたりするので、プロジェクトのマネジメントツールやコミュニケーションツールとしても有効だ。(8)ビジュアル化できる
複雑な計画や情報であっても、分かりやすく図式で表せる。ビジュアル化できるため、理解が深まりやすく、具体的な戦略策定や行動に移りやすい。「マンダラチャート」を作成するメリット
「マンダラチャート」を作成することで、様々なメリットがある。主な5つを紹介しよう。●目標達成までの道筋を可視化できる
「マンダラチャート」の大きなメリットの一つは、目標達成までの道筋を明確に可視化できる点だ。中心に置いた大目標から、それを実現するための具体的なステップまでが一枚のシートに整理できるため、目標達成へのプロセスを俯瞰して見ることができる。例えば、「次世代リーダーの育成」という大目標を中心に置いた場合、「マネジメントスキル向上」、「専門知識の習得」、「コミュニケーション能力強化」などの小目標、さらにそれぞれの具体的なアクションプランまでを組み込むことができ、効率的な育成計画が立てやすくなる。●多くのアイディアを生み出せる
「マンダラチャート」のマスを埋めていく段階で、自然と多角的なアイディアが生まれる。通常のブレインストーミングよりも体系的にアイディアを整理できるのも大きなメリットと言える。●行動の優先順位をつけやすい
「マンダラチャート」では、目標達成に必要な項目を階層的に並べることができるため、取るべき行動の優先順位をつけやすい。各項目の相関も視覚的に把握できる、どの行動から着手すべきかの判断もしやすい。●1人でもアイディアを整理できる
通常のブレインストーミングでは、複数人でアイディアを出し合うのが一般的だが、「マンダラチャート」を使えば、1人でもアイディアをいくつも展開していける。さらに、単に頭に浮かべるよりも、シートの空白を埋めていく過程で新しい発想が数多く生まれる。個人での意思決定や問題解決に活用しやすいと言える。●抜け漏れを防げる
「マンダラチャート」は、81個という多くのマスを埋めていくため、見逃しやすい項目やタスクを抜け漏れなく洗い出せる。複雑なプロジェクトや課題において、より効果を発揮するフレームワークであると言えよう。「マンダラチャート」のデメリットと注意点
「マンダラチャート」には多くのメリットがある一方で、いくつかのデメリットや注意点もある。対策とともに解説していく。●自由度が制限される
「マンダラチャート」の固定化された構造(9×9のマス目)は、場合によっては自由を制限されてしまう。8つのサブテーマでは不十分または過剰であるケースもあるからだ。81のマスを埋めることに集中するあまり、その枠組みに縛られ過ぎてしまっては、より柔軟な発想や新しいアイディアを考えることが難しい。必要に応じてシートをカスタマイズしたり、他のツールと組み合わせたりする必要があり、またチャート作成後には、別途自由に発想する時間を設けるなど、複数のアプローチで目標や課題と向き合いたい。●深堀りが難しい
「マンダラチャート」は全体像を俯瞰するのには優れているが、各要素を深く掘り下げるためには適さない場合もある。一つひとつのコマを掘り下げることが難しく、各要素の細かな分析が不足したり目標設定できなかったりする可能性があるのだ。そのため、他のツールや手法と組み合わせて使用することが効果的となる。「マンダラチャート」の活用例
「マンダラチャート」は様々な場面で活用できる。具体的な活用例を見ていこう。●目標管理
「マンダラチャート」の一般的な活用の仕方が、個人や組織の目標管理だ。メインの目標と、それを達成するためのサブ目標、具体的なアクションを周りのマスに記載していく。例えば、「従業員エンゲージメント向上」という目標を中心に置いた場合、「社内コミュニケーション強化」、「キャリア開発支援」、「職場環境改善」などのサブ目標を設定し、さらにそれぞれに必要な要素を展開していくことで、具体的な施策を立てやすくなる。●事業計画の策定
新規事業の立ち上げや既存事業の拡大計画、人事戦略を立てる際にも、「マンダラチャート」は有効だ。中心に事業目標を置き、周りに「マーケティング」、「財務」、「人事」、「運営」などの主な事業要素を置く。さらに各要素について具体的な戦略や施策を展開していくことで、包括的な事業計画を策定することができる。●課題解決
複雑な問題や課題に直面した時、「マンダラチャート」を使って解決策や対応策を導き出すことができる。まず中心に問題を置き、その周りに問題の原因や関連する課題を並べる。そして、それぞれの要因に対するアプローチを展開する。例えば、「離職率の改善」という課題に対しては、「評価制度の見直し」、「職場環境の改善」、「キャリアパスの明確化」などの要因を並べ、それぞれに対する具体的な対策を立てていく。●スケジュール管理
「マンダラチャート」はスケジュール管理にも活用できる。中心を年間目標やマイルストーンとして、周りに四半期や月ごとの計画、さらにその期間内でのタスクやイベントを置いていく。年間を通じての全体的な計画を一覧でき、進捗状況が一目で把握できるようになる。●ToDoリストの作成
「マンダラチャート」を使って「ToDoリスト」を作成すれば、日常のタスク管理も容易となる。特定のテーマに関するタスクを展開していくも良し、「仕事」、「家庭」、「自己啓発」といった各領域でのタスクを網羅するも良し、様々な形でタスクを管理できる。●アイディア創出
人事制度の設計や社内制度の改革など、創造的な思考が必要な場面でも「マンダラチャート」は使えば、多角的な視点から制度設計を行うことができる。例えば、「新人事評価制度の構築」をテーマとし、「評価項目」、「評価基準」、「フィードバック方法」、「運用体制」などの要素を検討し、それぞれについて具体的な施策を展開していく。●自己啓発
個人の成長や自己実現を目指すうえでも「マンダラチャート」は役立つ。「理想の姿」や「人生の目標」から、それに必要なスキルや知識を展開し、さらに具体的な行動計画へと広げる。多角的に成長プランを立てることができ、自身の価値観も再認識することができる。「マンダラチャートの作り方」
実際に「マンダラチャート」はどう作っていけばいいのか。具体的な手順を解説していこう。(1)達成したい目標を明確にする
まずは、達成したい最大の目標や解決したい最重要の課題を明確にする。最初の段階で、できるだけ具体的かつ明確な目標を設定することが重要だ。目標は測定可能で、期限が明確であることが望ましい。目標が明確であればあるほど、次のステップでより具体的かつ効果的な計画を立てることができる。(2)中央にメインテーマを書き入れる
9×9のマス目の中央に、目標や課題をメインテーマとして書き入れる。これが「マンダラチャート」全体の核となり、すべての要素がこのメインテーマに向かって収束していくことになる。メインテーマは簡潔に記述し、一目で理解できるようにすると良い。(3)メインテーマから派生したサブテーマを埋める
次に、メインテーマから派生した周囲8マス(中央を除く3×3のマス)に、メインテーマを達成するために必要なサブテーマを記入する。このサブテーマはメインテーマを多角的に分析し、バランスの取れたものを設定しておきたい。(4)サブテーマを分解して周りの要素を埋める
サブテーマの周囲8マスに、そのサブテーマを実現するための具体的な行動や施策を書き入れていけば、「マンダラチャート」は完成だ。サブテーマ実現のための行動や施策は具体的で実行可能なものであることが重要だ。また振り返ることができるよう、測定可能なものであることが望ましい。(5)アクションを実行していく
「マンダラチャート」を作成しただけでは意味がない。記入した具体的なアクションを実行に移すことがなにより重要だ。また定期的に確認し、進捗状況を把握しながら行動を継続することで目標を達成しやすくなる。また実行の過程で新たな気づきや変更点があれば、適宜チャートを更新していく。「マンダラチャート」のテンプレート
「マンダラチャート」を作成するためのテンプレートを紹介しよう。ぜひ活用いただきたい。「マンダラチャート」作成のポイント
最後に「マンダラチャート」作成におけるポイントを4つ解説しておく。●具体的かつ定量的に書く
「マンダラチャート」の各要素は、抽象的なものではなく、できる限り具体的かつ定量的に記述することで、より細かな行動や施策を考えやすくなる。例えば、「従業員満足度の向上」を、「年2回のエンゲージメント調査でスコアを前年比10%向上させる」というように数値目標や期間を併せて設定することで、達成度合いを客観的に評価しやすくなる。●客観的な視点で要素を決める
「マンダラチャート」を作るうえで客観的な視点を持つことが大事となる。自分の好みや感覚だけでなく、データや事実に基づいて要素を選定し、効果的かつ効率的な計画を立てることができる。例えば、事業計画を立てる際には、市場調査データや競合分析の結果を参考にしながらサブテーマや具体的アクションを決定していくと良いだろう。●書きやすい目標から埋める
すべての要素を一度に埋めようとすると行き詰まってしまう可能性がある。そのため、まずは書きやすい、イメージしやすい目標や行動から埋めていくことをおすすめする。日々の習慣化が必要な行動や、すでに実行中の施策などから記入を始めると、そこから全体の構造や方向性が見えてきやすくなる。●定期的に見直す
「マンダラチャート」は一度作成して終わりではなく、定期的に見直し、更新することが大切だ。進捗状況や、環境の変化に応じて、内容を調整していきながら、目標達成の確率を少しでも高めていきたい。まとめ
「マンダラチャート」は、目標達成や問題解決、スケジュール管理など様々な活用ができる有用なツールだ。ただし、あくまでもツールの一つであり、作成しただけでは意味を成さない。重要なのは、作成したチャートを基に実際に行動を起こし、定期的に見直しと修正を行いながら、粘り強く目標に向かって進んでいくことだ。自身の目標や課題に合わせてカスタマイズしたり、他のツールと組み合わせたり、より効果的で実現可能性の高い方法を探ってみてほしい。よくある質問
●「マンダラチャート」の欠点は?
「マンダラチャート」には多くのメリットがある一方で、いくつかのデメリットや注意点もある。例えば、固定化された構造(9×9のマス目)のため、目標や課題によっては不十分または過剰であるケースがあったり、各要素を深く掘り下げるのが難しかったりする。●「マンダラチャート」の作り方は?
「マンダラチャート」は以下の手順で作成していく。(1)達成したい目標や解決したい課題を明確にする
(2)中央にメインテーマとして最大目標や最重要課題を書き入れる
(3)メインテーマから派生したサブテーマを埋める
(4)サブテーマを分解して周りの要素を埋める
(5)アクションを実行していく
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