高い経済成長率を背景に、近年は生産拠点としてだけでなく、消費市場としてもますます魅力が高まっているASEAN。実際、東南アジアに進出する日本企業は年々増加傾向にあり、なかでもタイは日系企業が最も多い国として知られています。

一方で、欧米企業の進出や、現地企業の急成長などに伴い、現地スタッフの確保に苦戦している日本企業も少なくありません。なぜ日本企業はASEAN地域の人材に選ばれなくなったのでしょうか。その理由を探るべく、タイにおける日本企業の動向に精通するガンタトーン・ワンナワス氏を取材しました。

同氏は2004年に埼玉大学を卒業後。在京タイ王国大使館で働き、タイ帰国後の2009年にメディエーターを設立。日本政府機関等の仕事を請け負うほか、在タイ日本企業に向けて、タイ企業とのビジネスマッチング等のサービスを提供しています。そんな同氏に、タイの人材市場の現状や日本企業が現地の人々に選ばれるためのヒントなどを、株式会社マネジメントサービスセンター 取締役 福田俊夫氏が伺いました。(以下敬称略)

【出演者プロフィール】


  • ガンタトーン・ワンナワス氏

    ■ガンタトーン・ワンナワス氏
    MEDIATOR CO., LTD.(メディエーター)CEO

    在日経験通算10年。2004年埼玉大学工学部卒業後、在京タイ王国大使館工業部へ入館。タイ国の王室関係者や省庁関係者のアテンドや通訳を行い、タイ帰国後の2009年にメディエーターを設立。日本政府機関や日系企業のプロジェクトをコーディネート。日本人駐在員やタイ人従業員に向けて異文化をテーマとした講演・セミナーを実施(講演実績、延べ12,000人以上)。2021年6月にタイ日プラットフォームTHAIBIZを立ち上げた。

  • 福田 俊夫氏

    ■福田 俊夫氏
    株式会社マネジメントサービスセンター 取締役

    クレアモント大学院大学 ピーター・ドラッカースクール オブ マネジメント 経営学修士課程修了(M.B.A)。外資系コンサルティング、外資系半導体企業のHRBPを経て現職。26年余の、リーダーシップ開発、組織開発、サクセッション マネジメントなどコンサルティング経験を有する。現在、DDIのソリューションを主に扱うグローバルサービス部、およびマーケティングの責任者として日系、外資系企業にコンサルテーションを展開。

メディエーターガンタトーン氏、MSC福田氏

日本企業の不変的な構造が“日本企業離れ”の要因に

福田 昨今では東南アジアに進出している日本企業が現地の人材の採用・定着に苦心しているという話をよく耳にします。そこでまずはタイの労働市場の現状や、昔と比べてどのような変化が起こっているのかをお聞かせください。

ガンタトーン 労働市場の変化はタイの経済成長と大きく関係しています。私の父の代である75~80歳くらいのベビーブーマー世代はまだ貧しかったため、安定した仕事に就きたいという考え方が主流でした。かつてはタイと比べて日本のほうが経済的に大きく発展していたため、タイに進出していた日本企業は、中流層以上の比較的優秀なタイ人を採用できたのです。

しかし、それから時が流れ、日本以外の外国企業も次々とタイに進出。また、タイの大手企業もどんどん成長し、タイ人の中の「安定した仕事=日本の製造業」という考え方が変わってきました。つまり選択肢が増えてきたんですね。一方、非常に優秀な人材はアメリカやイギリスに留学するケースも多く、そういう人たちがタイの大手企業に就職し、欧米式の人事制度を作り、さらにそれを見た若い世代が魅力を感じ、就職するという循環も起こっています。
メディエーターガンタトーン氏
福田 優秀な若者ほど日本企業を選ばない傾向にあるのでしょうか?

ガンタトーン そうですね。今年1月に、22歳から35歳までの大卒タイ人が選んだ「就職したい企業ランキングTOP50」が発表されたのですが、50社の中に純粋な日本企業は2社しか入っていませんでした。20~30年前は、日本企業がもっと多くを占めていました。

福田 日本企業がタイの方々から選ばれなくなってきた、つまり魅力が低下してきた要因は何だと思われますか?

ガンタトーン まず大前提として、製造業に対する社会的な位置づけが変わってきたことが大きいと思います。「せっかく大学を出たのに工場で働くの?」という先入観もあってか、タイのトップ大学を卒業したエリートや、欧米に留学して帰ってきた人があえて選ぶような仕事ではなくなってきているんです。タイに進出している日本企業はもともと製造業が多いため、そこでミスマッチが発生しているのでしょう。

タイ人の日本企業離れのもう一つの要因は、本社や在タイ日本企業の構造が昔から変わっていないことだと思います。在タイ日本企業では、社長をはじめ上の役職には日本人が就くと決められていて、タイ人社員はいくら努力してもそこには辿り着くことができません。本社も「若手を送って育てよう」と、ポジションに見合わないマネジメント経験の少ない社員をタイに赴任させるケースが増えています。若手の海外赴任は良いことだと思いますが、ポジションと能力のミスマッチが起きていることが問題なのです。

福田 そういった駐在員が増えると、現地の方にはどういう影響があるのでしょうか?
MSC福田氏
ガンタトーン 自分より年下で、能力が低く、部下も持ったことがない。そのうえタイについても詳しくない、そんな上司の下では誰だってモチベーションが上がりませんよね。しかもそのポジションに現地の人を登用するケースもほとんど見られませんから、不満に感じた人は辞めてしまいますよ。

協力:株式会社マネジメントサービスセンター


この後、下記のトピックが続きます。
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●日本人と異なるタイ人のコミュニケーションにおける価値観
●タイという異文化に順応するポイント
●欧米企業との人材獲得競争に勝つために必要な「評価基準の明確化」~日本人マネージャーが心掛けるべき3つのポイント~
●サクセッションプランで成果を挙げる日本企業の共通点とは?
●タイに進出する日本企業が実践する人事制度運用の成功事例

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