■主旨と内容

 社員が出張などで本来の勤務地を離れて活動する場合,交通費,宿泊費はじめ支出が発生します。経費を節約し効率的に活動してもらうためにも,あらかじめ支出のルールを決めておくことは重要です。とりわけ,出張時のルールを定めた「出張旅費規定」は,業務遂行上必要不可欠であり,活用頻度の高い規定といえます。
出張の内容や形態,頻度は会社によって様々で,旅費の考え方も異なります。一定の距離を超える遠方への移動ばかりでなく,近距離でも「出張扱い」にするところがあります。また,海外出張がある場合は,宿泊料や日当のほかに,準備のための渡航雑費や支度金も定める必要があります。さらに人事異動による転勤費用を含めて規定するケースもあります(今回は出張に限定)。
 出張旅費規定はほとんどの会社で一通り整備されていると推察しますが,近年の交通網の整備やサービスの多様化,燃油サーチャージの価格変動,情報網の整備に伴う移動の必要性など,出張を巡る環境は大きく変化しています。
 そこで今回は出張旅費基準の見直しをはじめ,近年の変化を踏まえて,規定の作成や変更時のポイントを整理していきます。

■検討内容

□見直し要素の優先度
 見直しの優先対象が経費節減なのか,業務負荷の軽減なのかで観点が異なってきますので,まずはその点を明確にします。以下の要素の優先順位を決めて作成および見直しを進めます。
①出張経費を削減する
②申請・精算事務を軽減する
③出張業務をスムーズにする
④不正請求を防止する
⑤社員の自由度を高める

□作成・変更の手順
 出張旅費規定は基本的には企業の実情を考慮して任意に定めることが可能です。一般的には就業規則(本則)とは別立て(別規定)で設ける場合が多いといえます。新規作成や変更の場合は,以下の手順で進めていきます。
①労働者代表の意見を聴取し,意見書を作成
②変更の場合は変更後の規定に意見書を添付して労基署に届出
③変更後の内容を従業員に周知支給額の減額や廃止が伴う場合
は不利益変更に当たるため,従業員には十分な説明が必要です。不利益の度合いによっては経過措置や個別の同意が必要になることもあります。会社の実情や環境変化に応じて合理的な見直しを行うためには組合や従業員と協議し,意見を加味して進めていくことがリスクの少ない方法です。著しい利用者の不満やモチベーションの低下を避けるような配慮が必要です。

□「出張」の範囲を定義
 出張を取り巻く環境は年々変化しています。まず交通網の整備が進み,運行本数が増加し,スピードもアップして移動時間が大幅に短縮されました。これにより,過去には宿泊が必要だった出張も日帰りで済むケースが多くなっています。そこで最近では,距離と所要時間のマトリクスで出張の範囲を絞り込む例が増えています。

□出張旅費基準と例外
 出張者の勤務する事業所を起点とし,業務遂行目的地までの最短経路・最少経費で計算することが一般的です。ただし緊急時など通常の手段が確保できない場合を想定し,特例条件を定めるケースがあります。また役員と同行する場合などは同車両同クラスの旅費を認めるといった例外もあります。

□仮払いと精算の方法
 出張費用の支給では,余分な出費を抑えるために予め出張者が請求した経費概算に基づいて仮払いの手続きを取るのが通常です。また,旅費の精算は,迅速な手続きを促すため,提出期限を明記します。最近は法人向けに発行されるクレジットカードを利用する会社が増えてきました。法人名義のクレジットカードを個々人に持たせて,出張時の交通費や宿泊代はそのカードで精算するようにし,支払いは法人が一括する仕組みです。この方法なら仮払い・立替払いの手間を大きく減らせます。会社も月単位・利用者ごとの集計・チェックが可能になり,精算事務の負担が減ります。

□マイレージの取り扱い
 出張によって発生するマイレージ特典の取り扱いについて検討します。といっても,蓄積ポイントから出張分を識別・分離させることは困難で,扱いの難しい問題です。会社の出張で貯まったマイレージ相等分は次回の出張時に使用するよう取り決めている会社もあります。マイレージの個人利用を制限したり,「出張に伴うマイレージは会社のものである」と明確にする場合は,以下のような取り扱い規定を作る必要があります。

第○条(マイレージ等ポイントの扱い)出張の際に獲得したマイレージ等のサービスポイントは出張報告書に届け出ることとし,私的には利用できないものとする。
2 前項のマイレージ等のサービスポイントが,出張に必要なポイントに相当するようになった場合は,次に予定される出張のための航空券に利用するものとし,その際の出張の航空運賃は請求できないものとする。

なお,紙幅の都合上,海外出張に関しては各項目の紹介にとどめました。

出張旅費規定

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