■主旨と内容

 FAとは「フリーエージェント」のことで,プロ野球ではよく耳にします。米国では企業社会でも一般的になってきているといいます。この米国におけるフリーエージェントとは「インターネットを使って,自宅で1 人で働き,組織の庇護を受けることなく自分の知恵だけを頼りに独立していると同時に社会とつながってビジネスを築きあげた」人々を指します。つまり1 つの企業に所属せずに企業と自由に契約を結ぶ人のことです。ダニエル・ピンク氏が書いた『フリーエージェント社会の到来』という本で詳しく語られています。このなかではアメリカの労働人口の4 人に1 人がフリーエージェントの働き方を選んでいるといいます。
一方,日本の企業で運営される社内FA制度は会社からの命令でなく,やってみたいと思うポジションに自らの意思で応募する制度です。社外への人材流出を防ぎ,長期的で安定した雇用の実現を試みる企業努力の取り組みの一環と考えることができます。
 バブル経済がはじけて1990年代に入ると景気は一気に停滞し,それに合わせて企業の成長も鈍化しました。ポストは減り,給料は自動的には増えなくなり,この状況で会社は「給料は自分の成果次第」と言い出したわけです。給与が成果で決まるなら,自分の得意分野で働きたいという合理的な考え方も出てきます。会社が一生社員の面倒を見ていける時代は終わったのなら,自分の身は自分で守るのが大原則です。社内FA制度はそういった背景と社員1 人ひとりのキャリアビジョンの要望から生まれてきたといえます。

■検討内容

□導入時の留意点
 希望のポジションへの応募時に上司の許可が必要か不要かを検討します。異動の直前まで異動先の新しい上司と本人しか事情を知らされていない場合もあります。まずは目的を明確化して制度の方向性を決めます。

□モラルダウンへの配慮
 特定のポジションに多数の応募があった場合,当然,希望の通らない者が出ます。自分が選考から漏れて他者が異動を実現してしまうような場合,会社は理由をフィードバックする必要があります。モラルダウンを起こさない配慮は重要です。

□応募理由と主旨の一致
 本来は意欲を活かす積極的な制度ですが,なかには今の上司と合わないからとか,今の仕事が嫌だからというネガティブな理由で応募してくることがあります。異動希望理由について会社が意図したものかどうかの判断は困難ですが,申出者との面談を実施するなどして制度の適切な運用を図る必要があります。

□上司と部下の関係
 優秀な部下を上司は囲い込みたがるものです。制度の意図を十分に周知しておかないと上下の人間関係,あるいは会社への不信感が生じて社外へ人材が流出するリスクもあります。

□定義
 社内FA制度の定義を明確化します。

□主旨と目的
 組織の活性化,モチベーションの向上,組織人材の有効活用,自己実現,自己責任の原則などのキーワードを入れることによって当制度の目的を規定に明示します。

□FA禁止事項
 FA制度を円滑に実行するために障害となる禁止事項を定めておきます。部門の責任者や管理職に対する注意喚起が中心となります。普段から部下にFA制度を無理に勧めたり,反対にFA制度を批判したりして,FA制度から遠ざけようとするような行為は防ぐ必要があります。
第29回 社内フリーエージェント規定
□FAの宣言
 FAの応募者はFA申請書にFA宣言を添えて行うといった取り決めをします。

□応募資格
 FAの応募資格者を定義します。現部署で一定の成果を挙げ,一定の期間在籍しているなどの制限を設けます。また,その期間における成績や成果などの条件設定も必要でしょう。つまり,どのクラスの人材を活性化させるのかを検討します。
 FAに応募する資格がない者も規定化します。

□申出の時期
 1年に1度だけの実施なのか,何回かの実施があるのか,定期異動の時期との兼ね合いも勘案して決定します。

□選考
 FAの応募者の選考の手順や選考の基準を提示します。決定や却下の手続きなども規定化しておくと納得性が高まります。

□秘密保持
 FA応募について秘密扱いとするのかオープンとするのかを検討します。秘密扱いとする場合は本人の希望による秘密扱いなのか,制度の主旨として秘密扱いとするのかも決定します。

□辞令
 FAが決定した際の社内への公示の方法や時期を明記します。

□FA決定者の責務
 FAの権利を行使して異動する社員の必須事項や責任を取り決め,規定化します。特に重要なのが業務の引き継ぎです。

社内フリーエージェント規定

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